道の先へ…
久しぶりのキャラが登場しました。いつ出そうかな〜って思ってたらもう40話を超えていた…。
「久々にこっちに来てみれば、随分面白い話をしてるじゃねぇか」
竜の答えを遮るように発せられたその声は、どこか聞き覚えのある声だった。声の主は誰だろうか、全く姿が見えない。キョロキョロと辺りを見渡して探していると、まるで森が悲鳴をあげたかのように風が吹き荒れた。
そこに現れたのは、金髪で美形の男だ。あぁ、この姿は忘れることはない。忘れられない。
「シオウ…!」
竜が男の名前を呼ぶ。魔界に君臨する、魔族の王。いわゆる魔王だ。オレが顔を合わせるのは、魔界から竜と脱走した時のあの一回以来だ。しかし、どうしてそいつが単独でここに?
「おう、久しぶりだな。コウくん」
「何の用だ」
「そうカッカするなよ。お前の様子を見に来ただけだ」
「俺の?」
「あぁ」
くっくっと笑いながら竜に近づく魔王。オレたちが魔界に連れられた時のように、大げさに芝居掛かった口調で問い出した。
「念願の人間になることはできたかな?」
「…」
「だろうな、魔族が人間になれるわけがない。どんなに心がけたところで、お前の体がそれを許さない」
「それは」
「大体、人間は『人間になりたい』なんて言わないさ。お前は人間にはなれない。俺たちと同じ魔族なんだよ」
魔王はまるで竜の悩みを知っていたかのように、次々と言葉を吐いていく。その言葉を受けている竜はというと、何か考え事をしているかのように下を向いていた。
「なぁコウくん。魔界に帰って来いよ」
「なっ!?」
「お前がいなくなってから、他の魔物達もちょっとは危機感を持っているが、どうにもイマイチだ。お前みたいな実力を持つ奴がいてくれたら、俺も万々歳なんだがな」
こいつ、これが目的で竜に近づいてきたのか。まずいな、今の竜なら魔界側に付きかねない。それを決めるのは竜の勝手だが、できれば完全にそっちに染まって欲しくないんだ。
「竜、ダメだ!聞き流せ!」
「ディスプさん」
「人間に付くか、魔族に付くか決めるのはお前の勝手だ。でもよ、どっちかに染まったら、お前がやりたいことをやれなくなると思うんだ。人を守りたい、でも人を食いたい。それがお前なんだろ。だったらそいつに着いて行ったらダメだ!」
「へぇ」
オレの言葉を聞いた魔王は、朗報だとでも言うように笑みを浮かべた。
「やっぱり、人の味が欲しいか」
そうか、こいつは竜がこっちの世界で人を食っていたことを知らなかった。竜が魔族であることの欲求に耐えられなかったことを知らなかったのか。くそ、余計なことを言ってしまった。
「お前は人間じゃない、魔族なんだ。だったらこっちに帰ってきて仕舞えばいいんだ。それは普通なことだ。誰もお前を責めはしない」
「違う、竜。お前は人間でも魔族でもない。お前の居場所はお前が作るんだ」
「コウくん」
「竜!」
未だ竜は下を向いている。オレの呼びかけには応えず、何も発しない。まさか、本当に魔族に付くつもりなのか。それはやめて欲しいぞ、竜。
長い長い沈黙の後、とうとう竜は顔をあげた。オレではなく、魔王に向けて。
「シオウ。俺の答えは決まっているんだ」
「おう、聞かせてくれよ」
その瞬間、竜の拳が魔王の顔面に向かって繰り出された。顔に当たることはなく、ギリギリのところで受け止められてしまったが。
「俺は俺のために戦う。俺が思ったことをする。俺の最低な欲望も、最低な理想も、両方叶えるために生きる」
「…何?」
「つまり、俺はお前を倒したいってことだ!」
そう言うと、竜は頭を思い切り魔王に叩きつけた。その渾身の頭突きは魔王の意表をついたのか、魔王が避けることはなく、頭から血を流していた。
「っ痛ぇ…」
「ありがとうございます、ディスプさん。あなたが両方の敵になる選択肢をくれなかったら、俺はこの答えを出すことはできなかった」
竜がオレに振り返りそう言った。その時の目は先ほどの悲しみが込められた目ではない。決意に溢れた目をしている。
「そうかよ、タッチの差で勧誘失敗したってところか。まぁ、別にいいけどな」
立ち上がった魔王の額からは既に傷が癒えていた。流石魔族の王、自身の再生能力も高いようだ。魔王はニヤリと笑うと、背中からコウモリのような黒い羽根を広げ、暗い空へと飛びたった。
「コウ。お前が俺たちの元へ来なかったのは残念だ。だったらしっかりと生き延びろ。俺の首を討つまで死ぬんじゃねぇぞ」
捨て台詞のような言葉を吐き、魔王は空へと消えていった。一体どう言う意味なんだろうか。あいつは竜に自分を倒して欲しいのか?何故?
「ディスプさん」
空を見て考え事をしていると、竜がオレの方へ近づきながら手を刺し伸ばして来る。
「ありがとう、おかげでやりたいことがわかりました」
「そうみたいだな。良かった…とは言えないか」
「えぇ。これから俺はあなた方人間を喰らう。守護隊にとっては討伐対象になるでしょうね。次に会う時は」
「互いに殺しあう仲か。上等だ」
オレは差し出された手を弾き、代わりに竜の胸に拳をコンっと叩きつけた。脱走の日に選んだ、訓練用の鎧だというのにえらく頑丈なものだ。これだけの年月が経っているのにまだ使えるとは。
竜もオレの顔に爪を近づけ、ピッと一直線に傷をつけてきた。ジワリと血が滲み、やがて垂れ始める。別に深い傷跡ではないが、少しは跡が残るかもしれないな。
「生き残れよ。そして殺してやる」
「わかってますよ」
互いにニッと笑ったあと、オレたちは背中を向けて歩き出した。もう竜と会うことはないだろう。次に出会うのは、討伐対象の竜人だ。できるだけ会いたくはないけどな。
不思議なことに気がつくと風は止んでいた。帰り道の森はやけに静かで、何者にも出会うことはなかった。




