化け物は誰だ
ずっとこの話を書きたくて進めていました。
というか当初はこれが最終回のつもりでした。
もう少し着地点をしっかりとさせたいので、まだ続きます!
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「おーい、コウ。何やってんだ」
目を覚ますと、俺の目の前には学生服を着た見覚えのある男が立っていた。黒い髪を茶髪に染めたせいか、ところどころくすんだ髪色をしている。
「ジュン」
「放課後だぞ。帰ろーぜ」
「ん。…あぁ」
机にかけていた鞄を取り、残っているクラスメートに挨拶をして外に出る。…何だろう。さっきからもやもやする。
「ジュン、あのさ」
「コウ先輩、ジュン先輩。おーっす」
このもやもやを聞こうとしたところ、後ろから声をかけられた。振り向くと、またそこには見覚えのある男がいた。ユウスケだ。
「お前、部活はどうしたんだ?」
「今日は休みなんで」
「そんなわけないだろ。さっき鈴木が張り切って体育館に行ってたぞ」
「それ鈴木さんが間違っているんすよ」
ユウスケは鞄をぶんぶんと振り回して笑っている。こいつ、今日も部活をさぼる気だな。
…あれ、昨日はさぼっていたんだっけ。
「ユウスケ、お前昨日は部活出てたっけ」
「え?何でですか」
「いや、気になって」
「そんなことどうだっていいじゃないっすか。ボウリング行きましょ。ボウリングの気分なんですよ」
「お前、何のために部活入ったんだよ…」
ジュンが呆れ顔でユウスケを見る。そりゃそうだ。部活だってただでできるわけじゃないんだ。部費にユニフォームにシューズに、親の金でやらせてもらっているんだぞ?
あれ、そんなこと高校生の時思っていたっけ?
…そもそも何で俺は高校にいるんだ?
「ジュン、ユウスケ。俺たちはもう大学に進学したはずだよな。何でこんなところにいるんだ」
「はぁ?何当たり前のこと言ってんだよ。そんなのおれたちが高校生だからだろ」
「あ、いや。そもそも俺たちは高校生じゃなくて…」
大学生になっただろ。そう言おうとしたが、何故か戸惑ってしまう。もっと何か、根本的なことから違うような…。
「コウ、なんかお前変だぞ。熱でもあるのか?」
「いやいやジュン先輩。コウ先輩は前から結構変わってますよ。よくわからないことで悩んだり、一回決めたら人の意見聞かないで突っ走ったり」
「そういうことじゃなくてだな…」
「この前もそうだったじゃないですか。猫探しの時」
猫探し。
そうだ。俺たちは張り紙に貼ってあった迷子の猫を探していたはずだ。それで結局見つからなくて、その帰り道に。
「…あ」
俺は死んだんだ。
そう認識したとたん、全てのモヤモヤがとれた。そもそも俺はこの世界にいるわけがない。俺は魔界に生まれ変わって、竜人となって、ディスプさんたちと共に魔族と戦って…。
「あぁぁ…」
オーガと戦って、負けそうになった時に人の死体を見つけて。
「あぁぁっ!うあぁぁぁぁっ!!」
その死体を食べたんだ。
あれだけ人の肉を食べたことを後悔したくせに、自分から食べに行ったんだ。
悔しいほどに、今まで食べた食事の中で、一番おいしかった。
「うわっ、コウどうしたんだよ!?急に叫ぶなよ!」
ジュンの声が聞こえた。声の方向には美味しそうな動物が無防備に立っている。
周りを見渡すと、肉がたくさんある。どれもこれも美味しそうだった。どうして俺はこれらを食べていないんだっけ。何か、食べないと決めた意思があったような。
「いただきます」
食べ放題だ。そんなことを思いながら目の前にある肉から爪で皮を剥ぎ、中身をむさぼるように食べ始めた。
どこからか現れた鏡を除くと、そこにいるのは血まみれの醜い化け物の姿だった。
…夢か。
兜の中の目を開けると、先ほどの鬱々とした夢とは違った、うざったいくらいの晴天が俺を出迎えてくれた。
それにしても嫌な夢だった…。いや、あれは夢なんかじゃない。今の俺の状況を端的に表したものだろう。
俺はこの世界に生まれ変わって、人間として生きていこうとした。もう自分は人間だと思い込んでいた。
でもそんなわけなかったんだ。死ぬ前と同じものなんて何一つない。姿は違うし、常識も違う。何より、この世界にはジュンもユウスケも、父さんも母さんも弟も誰一人としていない。「水樹光」を知っている人間は誰もいないんだ。
そんな当たり前のことに気付かないふりをして、人間としてふるまってきた結果がこれだ。結局俺は衝動を抑えられないで人を喰った。人の味をしっかりと認識してしまった。たまらないほどに美味しかった。
「何が、俺は人間だ。だよ」
ずっと人間を襲う化け物と戦い続けていたつもりだったが、結局は同族争いだったということか。
俺もあいつらと同じなんだな。
「化け物は、俺だ」
俺は人間にはなれない。
俺はもう人間ではない。
俺はもう水樹光ではない。
俺は化け物だ。
俺は人食いだ。
俺は…。
俺は何で生まれ変わったんだろう。何で死ぬ前の記憶なんて持ってしまったんだろう。
こんなに悩むのなら、人間だったときの記憶なんていらなかった。単純に魔族として生まれたかった。何も考えないで、ただ人間の肉をむさぼりたかった。
中途半端に人間だから。中途半端に化け物だから。こんなに悩むんだ。
…これからどうしようか。
あのままだと、あそこにいる人も食べてしまいそうだった。ディスプさんも隊長もリモコさんもみんなが美味しそうで、常にゼリーを口に入れていないとすぐにでも襲ってしまいそうだった。何より、今だったらあの人たちを食べても全く罪悪感が生まれなさそうだったのが嫌だった。
目的もなく、ただ目の前にある長い荒野を歩き続けることとした。いつか何か答えが見つかると信じて。




