決別の時
段々寒くなってきましたね。この時期には生姜を入れた鍋焼きうどんがおすすめです。
こいつと会うのはとても久しぶりだった。たくさんの魔族がいる魔界では、シオウを除き、自分から会いに行かない限り滅多に固定の相手に会うことはない。
久しぶりに会うこのゾンビは仲間を止め、相変わらず人間の目玉を顔に突っ込み、その動かない眼球で俺を見ていた。
「あなた、久しぶりですね」
「…そうだな」
「いつこちら側に?まさか、あなたまでこちらの世界へきているとは」
「え?」
何だ、この反応。
てっきりケンタウロスがシオウに俺のことを伝え、人間の世界に来たことを魔族全体に伝えているものだと思っていた。だが、この反応を見る限り俺のことは魔界に伝わっていないのだろうか。
「どうしたんです?あ、そういえばあなたはどこから出現したので?」
「出現?」
「ご存じないでしょうか?魔界からこちらの世界にやってくるときに祠を通ってきたでしょう?こちらの世界に着くとき、我々は指定された場所へ行くことができず、そのときそのときにより違う場所へやってくるのです」
なるほど、そうだったのか。
そういえば人間の世界へやってきたとき、ディスプさんは全く知らないとこにやってきたような反応をしていた。あれは俺の詠唱が何か間違っていたわけではなく、人間の世界へやってくるときの仕様だったというわけか。
崩れ行く遺跡の中で、ゾンビは天井の空いた穴を見上げた。どうやら天井までの距離を測っているようだ。納得したように頷くと、ゾンビは後ろにいた2体のゾンビたちに飛ぶように指示した。のろのろとした普段の動きとは異なり、軽快な動きで飛び出すゾンビたちは天井へ手をかけて虫のようによじ登ろうとする。
まずい。俺はよじ登るゾンビたちの足を引っ張り、地面にたたきつける。
「何をするのですか」
「お前たちを地上に出すわけにはいかない」
「どういうことでしょうか」
「俺はお前たちの味方じゃないってことだ!」
力を入れて駆け出し、一瞬で隙間を詰めて顔面をぶん殴る。腐食した肉体に拳がめり込み、詰め込んでいた目玉がボロっと落ちた。その光景を横目に、左足を軸にして首元へ回し蹴りを当てる。勢いよく吹っ飛んだゾンビは壁にたたきつけられ、苦悶の表情を浮かべた。
「ぐっ」
止まっている時間はない。振り返り、未だ地面でうつ伏せとなっている2体のゾンビたちへ歩み寄り、それぞれの足を掴んで先ほどの壁に二人まとめて投げつけた。地面にゾンビが積み重なる。そしてまとまったゾンビの上から全体重をかけるように飛び乗った。
ぐちゃっという音と同時に、ゾンビたちの腐敗した一部の肉が辺りへ飛び散る。しかし、もともと肉の塊が繋がったような奴らだ。大したダメージではないだろう。追撃をかけるように何度も繰り返し飛び乗る。
「や、やめてください!何でこんなことをするんですか!」
「言っただろ、俺はお前たちの味方じゃないって。俺は人間だ!」
「何を言っているのですか?私達が人間のように生きられるわけがないでしょう!」
「そんなのわからないだろ!」
「わかります!だって…」
ゾンビが何かを言おうとした。が、その続きは崩落した天井の瓦礫がかき消した。最後に聞こえたものは肉がつぶれる音だった。
何を言おうとしたのか気になるが、長く留まりすぎた。みんなも心配しているだろうし、さっさとここから脱出しなければならない。
完全に崩壊する前に俺は天井に開けた穴へ飛んでよじ登り、日の光を浴びた。リモコさんはちゃんと逃げることができただろうか。辺りを見渡してみると、彼女や隊長の姿は見えない。
恐らく、未だ待機しているであろう入口があった場所まで戻ってみると、そこには交戦中の彼女たちがいた。忘れていた、ここには6体の魔族反応があったのだ。最初に倒したリザードマンと、先ほどの3体のゾンビ、それを除くとまだ2体残っている。
「くそっ!」
まだ戦いは終わっていない。先ほどのように駆け出し、俺は次の戦いへと身を投じた。




