前進
今までで最長の文字量の話となりました。
この話から物語が大きく前進する、と思います。
後退はできないんじゃないかなぁ。
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ガキッ、と金属と金属が擦れあうような音が後ろから聞こえた。これでもう40回目だ。
本当は囮役なんて任せるべきじゃない。二人とも安全に行けるように策を練って、念入りに、身長に行動すべきなのだ。全て俺のせいだ。俺の無計画な、行き当たりばったりな行動が招いた結果だった。
今思えば、最初の計画からガバガバだった。あの時全員を連れてここまで来るつもりだったが、そんなことをしたら目立つのもほどがある。城の中を歩くだけでばれるだろう。それに最初に言われたように、あの人たちが俺の言うことを信じてくれるかどうかも考慮すべきだったんだ。
その中でディスプさんは俺のことを信じて、ここまで来てくれた。だからさっさとここを切り抜けなければならないんだ。
…危ない。また、間違えるとこだった。
ここに来るまで二回詠唱を間違えている。早くしなければならないということはわかっているのに、口が追い付いていない。
もう少しなんだ、もう少し。何とかしますから、ディスプさん耐えてください…!
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「くっ」
何本目か分からない矢が体にぶつかる。とても丈夫にできている鎧がそれをはじくが、それでも衝撃は体に伝わり、ジンジンとした震えがやってくる。
相変わらず丘の上にいるはずの敵の姿は見えず、音がしてから確認してもその姿は捕らえられない。動きつつ攻撃しているのだろうか、それともオレの確認方向がおかしいのだろうか。
「おい竜!まだ終わらないのか?」
返事が返ってこない。聞こえてくるのは相も変わらず呪文の詠唱だけだ。
後ろを見ると一心不乱に祠に向かって呪文を唱えている。真剣なのはわかるが、ここまで来るともう少し周りの様子もみてほしいぜ。
こいつとは一日程度しか一緒にいないが、それでもこいつのことは理解できたと思う。考え込みやすくて、悩みやすい。そして、ピンチに弱い。
魔族っていうのは、みんな同じだと思っていた。すぐ人間を襲い、巧みに人間をだまし、追い込んでも奥の手を必ず残している。
こいつはオレの知っている魔族、魔物とは正反対だ。一体どうしてこんな奴が魔族なんだろうな。生まれる場所を間違えたんじゃないか。同じ人間として生まれてきたとしたら、少しは仲良くなれたかもしれないというのに。
…もしかすると、こいつのような魔族が他にいるのかもしれないな。
それを確かめるためにも、今はこの場を切り抜けなくては。
また音が聞こえた。今度は正面からだ。右手を顔の前に構え、頭を隠すようにする。
見えない敵の精度は的確になってきており、最初は避けることができた矢は確実に頭を狙い、更に素早くなっている。いつどこから来るかわからない奴との戦いに疲弊しているオレが、今あの振動を頭に食らったら確実にやばい。今では音から予測してその部位を防ぐことが精いっぱいだ。
「うぅぅっ…!」
ガントレットが矢をはじく。今度は手にしびれるような反動を受け、腕がだらんと下がってしまった。くそ、情けないぜ。
そろそろ本当に限界が近い。いや、既に限界は超えている。
…待てよ?
限界が超えているのにまだ動けてたってことは限界はないってことじゃないか?
てことは今感じている限界も気のせいなんじゃないか?
なんだ!じゃあまだ大丈夫だな!
「ディスプさん!」
考えごとをしていると後ろから竜の声が聞こえた。
やっとかよ。随分長かったじゃないか。
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「終わりました!さぁ早く!」
ふらふらとしたディスプさんに叫び、駆け寄る。鎧の隙間から血が流れている様子もなく、一応傷はないようだ。
「大丈夫ですか、今肩を貸しますから!」
「あーあー、大丈夫だって!」
そう言って俺の手を払いのけると、重い足取りで祠に向かって歩き出す。その祠では神像を中心に門が開いている。人間の世界と魔族の世界を繋ぐ門だ。見た目は門というよりも暗く、先の見えないただのぽっかり空いた穴のようなものだった。
ディスプさんは少し戸惑った後に、その穴に吸い込まれるように入っていった。俺もそこについて行こうとするが、視線を感じて振り返ってみる。その先の丘の上には俺を見下ろす姿があった。
…あいつ。
…なんで?
「お前の人間ごっこもここまで来ると異常だな!」
そう言って奴は丘から飛び降りて俺に近寄ってくる。
「ケンタウロス…」
「ずっとどっかおかしい奴だと思っていたが、ここまでとはね」
「何でお前が俺たちの邪魔をするんだよ」
「そう言われてもな。命令されたんだよ、シオウ様にさ」
「あいつに?」
やっぱりあの時、俺たちの行動はばれてたってことなのか。
…だが、だとしたら何故俺たちを逃がしたんだ?あいつの行動は本当に分からない。
「いいのかよ、俺たちのこと逃がして」
「逃がしていいんだよ。だって殺せって言われてないし。寧ろできるだけ殺すなって」
「はぁ?」
「よくわかんないけど、そういうわけだからさ。行けよ。おれはシオウ様に、お前たちが人間の世界に行ったことを伝えにもどらなきゃいけないから」
じゃあな。と言ってケンタウロスは四本足で素早く森を駆け抜けていった。
シオウ、あいつはいったい何を考えているんだ。
あいつの行動、言動は何の意味があってやっているのかが全く読めない。それとも逆に、何も考えなしに行っているのだろうか。
どっちにしても、人間の世界に行った後も警戒するしかないだろう。
一つ息を吐き、気を引き締めて祠の門へと足を踏み入れた。




