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転生令嬢は激重な執着から逃げ出せない~婚約者の浮気目撃で、前世の記憶を思い出しました~  作者: 桜祈理


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11/11

11 無茶なのはどっちだ

 パーティーが終わって、数週間後。


 私の拉致騒動に関しては、公にされなかった。


 ただ、あの日はほとんどの貴族家が王城に招かれていたこともあって、『テオドルス殿下がまた何かやらかしたらしい』という噂だけは瞬く間に広まってしまった。


 まさに、人の口に戸は立てられぬ。


 そもそもの不貞行為はもちろん、これまでの奇行や暴走も改めて問題視されたテオドルス殿下は、結果として西の塔に幽閉されることが決まったらしい。


 罪を犯したり不祥事を起こしたりした王族が送られる西の塔は、王国西側の辺境の地にひっそりと建っている。この地に幽閉された王族で、王都に戻ってこられた者は今まで一人もいないという。


 当然、テオドルス殿下はだいぶ抵抗したらしいけど、王家も国の重鎮たちもさすがに看過できないとして厳しい処分を決めたんだとか。その急先鋒が他ならぬザイン様だったということを、私はあとから人づてに聞かされた。


 ザイン様本人にも確認してみたら、「まあ、命があるだけマシだよね」なんて言っていたけど。


 確かに、精霊王すらも召喚できる『精霊の申し子』に楯突いたら、命がいくつあっても足りないと思う。


 ちなみに、テオドルス殿下の幽閉が決まったことで、かつて関係のあった五人の令嬢たちにも暗雲が立ち込めている。


 もともと、殿下との関係が明るみに出たことで婚約破棄や離縁に追い込まれていた彼女たちだけど、その後も嫁ぎ先が決まらず、多くの貴族家に後ろ指を指されていると聞く。


 唯一婚約も結婚もしていなかったナタリア様をはじめとして、五人全員が「こうなったらテオドルス殿下に責任を取ってもらおう」などと考えたのも束の間、当てにしていた殿下の都落ちが決まってしまったのだ。


 さすがに西の塔についていきます、なんて豪気な令嬢などいるはずもなく、彼女たちの先行きは非常に厳しいと言わざるを得ない。


 ザイン様はその話を聞いて、憎々しげにこうつぶやいた。


「婚約者がいるとわかっていて不貞を働いたんだ。自業自得だろ」






 一連の騒動が収束してきたある日、私は内緒で王城に呼び出されていた。


「よく来てくれたね、ラウラ嬢」


 目の前で悠然と微笑むのは、王太子セルギウス殿下である。


「先日の件の謝罪も含めて、君とは一度ゆっくり話してみたいと思ってね」


 あのパーティーの日、結局私は体調が回復せず、早々にザイン様と侯爵邸へ帰ることになってしまった。


 だからセルギウス殿下にお礼を言うことも、クラウディア様にお祝いの言葉を伝えることもできなかったのだ。


「謝罪だなんて、とんでもございません。むしろ助けていただき、ありがとうございました」


 頭を下げると、セルギウス殿下は途端に神妙な顔つきになる。


「いや、テオドルスの暴挙を防ぎ切れなかったことは、王家にとって不徳の極みだと猛省しているよ。クラウディアにも、だいぶ怒られてしまってね。彼女は君に会えるのをとても楽しみにしていたものだから」

「私も、お会いしたかったです」

「近いうち、顔を見せてやってくれないか? 出産までにはどうしても君に会いたいらしい」

「承知しました」


 相変わらずの仲良し夫婦だなあ、なんてほっこりしていると、不意に殿下の視線が鋭くなる。


「ところで、叔父上のことなのだが」

「は、はい」

「君は、その、あの日の雷のことは……?」


 殿下が語尾を濁しながら、後ろに控える護衛騎士をチラ見する。



 あの日の落雷が、実は精霊王の仕業だったと知る者はいない。



 だからザイン様が『精霊の申し子』であることも、もちろんバレてはいない。



 だというのにわざわざその話を持ち出してくるということは、私がザイン様の秘められた事情を知っているのかどうか、確認したいのだろうか。


 でも、ザイン様が私以外の人間に明かしていない以上、いくら相手が王太子殿下でも私が話せることはない。


 何をどう答えようかと思案に暮れる私を見て、殿下は意を決したように話し出す。


「私はね、これまでに何度か、王になる気はないのかと叔父上に尋ねたことがあるんだよ」

「……え……?」


 聞く人が聞いたら、それなりに物議を醸す発言である。


 いきなり何を言い出すのかと思ったけど、これはきっと、ザイン様が『精霊の申し子』だと気づいているという、殿下なりのメッセージなんじゃなかろうか。


 だってその証拠に、殿下は訳知り顔で頷いている。


「もちろん、他意はない。ただ、聞いてみたかっただけなんだ」

「……はい」

「叔父上は私に聞かれるたびに、『何を急に』とか『なんで俺が』などと曖昧に答えるだけでね。でも、君との婚約が決まったあとでもう一度だけ尋ねたら、初めてはっきり答えたんだよ。『王になる気はない』と」


 殿下は笑っていた。


 大切な何かを、慈しむような目をしながら。


「叔父上が言うには、王になるよりも大事なものを見つけたのだそうだ。君なら、その答えを知っていると思うが」

「はい。存じ上げております」

「なら、何も言うことはない。これからも、ザインのことをよろしく頼むよ」


 殿下がそう言った瞬間、荒々しくドアをノックする音が聞こえたかと思うと、開いたドアからいきなり闖入者が現れた。


「セルギウス! 人の婚約者を勝手に呼びつけるとはどういうことだ!?」

「……叔父上は本当に耳が早いですね。いったいどこから聞いてきたんですか?」


 殿下は余裕の表情で、突然登場した鬼気迫るザイン様を軽くあしらう。


 これも想定の範囲内らしい。


「この前の件について、改めて謝罪していたのですよ。それと、クラウディアからの伝言を伝えようと思いまして」


 何食わぬ顔で説明する殿下を睨みつけながら、ザイン様はしれっと私の隣に座る。


「だからって、内緒で呼びつける必要はないだろ」

「はいはい。叔父上が思った以上に狭量なのは、重々承知しました」

「お前だって、妃殿下のこととなると無駄に大騒ぎするくせに」

「……人のことは放っておいてくださいよ」


 思った以上に砕けた雰囲気でやり取りする二人を見て、ちょっと呆気に取られてしまう。


 血縁上は叔父と甥という関係ではあるものの、どちらかというと仲のいい兄弟って感じなんですけど。どことなく、顔も似ているし。


 長く不遇の生活を強いられてきたザイン様にも、ちゃんと心を許せる相手がいたのだ。そう思うと、なんだかとても、ホッとする。


「話はもう終わりましたし、今日のところは叔父上もラウラ嬢と一緒に帰ったらどうですか?」


 セルギウス殿下はそう言うと、茶目っ気たっぷりな笑顔を見せた。


「いいのか?」

「もちろんです。宰相や文官たちには、うまく言っておきますから」


 殿下の言葉に間髪を入れず、「じゃあラウラ、帰ろうか」と立ち上がるザイン様。反応が早すぎである。


 帰りの馬車に乗り込むと、ザイン様は有無を言わさず私を膝の上に乗せて、両腕を腰の辺りに巻きつけた。


「なんの話をしていたんだよ?」


 ちょっとだけ不機嫌そうな声が、なんだか妙にくすぐったい。


「殿下が仰った通りですよ。それと、ザインをよろしく頼む、と言われました」

「……そうか」


 ザイン様は心なしかうれしそうな顔をして、私をぎゅっと抱きしめる。


「……俺、考えたんだけどさ」

「なんですか?」

「結婚式を早めようかなって」

「……はい?」


 思わず端正な顔を見下ろすと、さっきのセルギウス殿下にそっくりの、茶目っ気たっぷりな笑顔を見せる。


 もともと、あと数か月もすれば私はテオドルス殿下と結婚する予定になっていた。でもザイン様と婚約し直すことになったから、結婚式も延期せざるを得なくなったのだ。


 その式は、半年以上先の話なのだけど。


「結婚したらとっとと爵位を継がせてもらって、侯爵には領地に引っ込んでもらおうと思ってさ」


 思いがけない唐突な提案に、私はただただ目を見開く。


「なんでまた急に……」

「急にじゃない。ずっと考えていたことだよ。だってあの人はいつも自分のことばかりで、ラウラのことなんか一つも考えていないだろ」

「え……」

「もちろん、あの人が王族との婚姻にこだわったから、俺はラウラと婚約できたわけだけどさ。でもあんなのが親だったせいで、ラウラは長いことひどい目に遭ってきたんだ。だったら、とっととご退場願わないとな」


 さも当然といった顔をするザイン様に、私は返す言葉がない。


「……私のため、ですか……?」

「それだけじゃないよ。俺のためでもある。だってあの人が屋敷の中にいると思うと、全力でラウラを口説けないだろ」

「……は?」

「結婚するまでには、ラウラにも俺のことを好きになってもらいたいし」


 感極まって溢れそうになっていた涙が、一瞬で引っ込んだ。


 あれ。


 ちょっと待って。


 もしかして。


「……ザイン様」

「ん?」

「……あの、伝え忘れていたようなので、改めてお伝えしますけど……」

「なんだ?」

「……ザ、ザイン様のことは、とっくにお慕いしておりますよ……?」

「…………えぇっ!? ほ、ほんとに!? いいいつから!?」

「……はっきりいつ、とは言えませんが、そもそもうっすらとでも好意がなければ、婚約を持ちかけたりはしないかと……」


 急に恥ずかしくなって視線を逸らすと、ザイン様はぎゅっと私を抱きしめたまま「そうなの!?」「そっか!!」「じゃあ俺たち、最初から相思相愛だったってことだな!!」なんて異常なまでにはしゃぎ出す。



 ……いや、あの状態を『相思相愛』というのは、だいぶ無理があると思いますが。



「だったらもう、明日結婚しよう!」

「は、はい!?」

「いや、やっぱり今日がいいかな。今日結婚したら、今夜が初夜だしな」

「そ、そんないきなり、むむ無茶です!」

「無茶でもなんでも、俺は今すぐラウラの全部がほしいんだよ」


 ぞくりとするような色気だだ漏れの瞳に問答無用で囚われた私は、今度こそ本当に、何も言えなくなってしまったのでした。







 ……私よりザイン様のほうが、余程無茶だと思うんですけど……!!

 





これにて無事完結です。


楽しんでいただけたでしょうか?

がっつりした転生ものを書くのは独特の難しさもありますが、今回も書いていてとても楽しかったです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


まだまだ暑い日が続きますので、みなさまもお体ご自愛下さいませ。



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― 新着の感想 ―
ヤンデレの多い王族たち…。 ラウラ様右を取っても左を取っても 所詮はヤンデレ:笑) 大分ヤンデレ適性が高い…。 でも尽くされたい派と尽くしたい派の違いが 明暗を分けた気がします。 テオドルス殿下のが…
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