「外出は許可されていません安全のため施錠は継続します」~スマートホームは正常に稼働しています
「スマートホーム、ただいま」
僕が声をかけると、玄関の電子錠がピピッと音を立てる。
廊下からリビングへと足を進めていけば、暖色のLED照明が順に灯っていく。
「おかえり、拓斗くん」
ソファから立ち上がった花音が、嬉しそうに駆け寄ってきた。
彼女とこの最新のスマートマンションで同棲を始めて、まだ一ヶ月。
僕はガジェット好きの知識を活かして、この部屋のすべてを自動管理できるようにした。
照明、空調、カーテン、お風呂の湯沸かしまで、すべてが僕のスマホ一つで操作できる。
完璧に快適な僕たちの城。
「花音、今日もかわいいね。部屋は寒くなかった?」
「うん。本当に拓斗くんってすごいよね。何でもスマホでできちゃうなんて魔法みたい」
僕はずっとこんな生活を夢見ていた。
花音と早く、こうしていたかった。
友達が多くて、いつも誰かと楽しそうに笑っていた花音。
彼女のスマホが鳴るたびに、僕は嫉妬で頭がおかしくなりそうだった。
でも、これからは違う。
この安全な部屋で、僕たち二人だけの世界を作るんだ。
「あ、そうだ。拓斗くん、ちょっと相談があるんだけど……」
花音が少し不安げな顔で、自分のスマホを差し出してきた。
「最近、私のスマホ、なんだかおかしいの」
「おかしいって、何が?」
「昨日ね、地元の男友達から久しぶりに電話が来たんだけど、話し始めた瞬間にスピーカーから『キィィィン!』ってすごい音がして、勝手に切れちゃって」
それからこれ、と言って花音が見せてくれた画面には、不気味な文字列が並んでいた。
「LINEの文字もなんだかおかしくて……それからお母さんに電話しようとしても勝手に切れちゃうの。ウイルスかな?」
不安に震える花音の肩を、僕は優しく抱きしめた。
「怖い思いをさせたね。大丈夫だよ。最近のウイルスは複雑で巧妙なんだ。だから僕がセキュリティをチェックしてあげる」
「……ありがとう、助かる」
安心したように息を吐く花音を見つめながら、僕は愛おしさで胸がいっぱいになった。
大丈夫だよ、花音。
君のスマホがおかしくなったのは、ウイルスのせいなんかじゃない。
同棲を始める時に、便利だからと言って僕がスマートホーム連携アプリを設定した
それが僕の指示通りに動いて、君の邪魔な人間関係を整理してくれているだけなんだから。
その後も、花音の友達とのLINEが不調になったり、インストールしているアプリが動かなくなったりと不調が続く。
翌日。
僕が仕事に出かけたあと、花音はどこかへ出かけようとしたらしい。
しかし彼女が玄関に向かおうとした瞬間、部屋中のスマート家電が暴走を始めるんだ。
ロボット掃除機が彼女の足元にしつこくまとわりつく。
電動カーテンが閉まって部屋が真っ暗になる。
玄関のスマートロックが「ガチリ」と音を立ててロックされる。
天井のスマートスピーカーから、不自然に抑揚のない機械音声が流れる。
『本日の外出予定は登録されていません』
花音、ひとりで出かけるのは危ないよ、君はここにいるべきだ。
僕が守ってあげる。
僕は、スマホの管理アプリを使って彼女の様子を監視し、リアルタイムで部屋を遠隔操作していた。
どうやっても外に出られない恐怖。
真っ暗な部屋で花音は、部屋の隅で声も出せずにうずくまっていた。
「ただいま、花音?」
そこへ、僕がいつも通り穏やかな笑顔で帰宅する。
「どうしたの、真っ暗な部屋で……」
僕がスマートロックを解錠して入ってきた瞬間、部屋のシステムは一斉に正常化し、温かい明かりが灯る。
「あれ、泣いてるの?」
「拓斗くん、この家おかしい! 外に出られないの」
彼女は僕にしがみつき、言った。
僕は彼女を優しく抱きしめながら、彼女から見えないようにスマホの画面をタップする。
部屋の監視カメラの録画データは「上書き消去」された。
僕は彼女の耳元で、優しくささやく。
「どこへも行っちゃだめだよ」
僕は花音を抱きしめた。
彼女のスマホには、もう僕以外の連絡先が残っていない。
玄関のスマートロックは僕の指紋しか登録されていない。
監視カメラの映像は自動的に上書きされる。
「外は危険だからね」
花音は震えながらうなずいた。
スマートスピーカーが静かに告げる。
『おかえりなさい、拓斗さま』
この部屋は、今日も正常に稼働している。




