24.5
◇◆エネ◇◆
これどういう事なの?!
目の前では女の子が大泣きしている。
何故かわたしの手を握って。
何故かわたしと床に座り込んで。
誰か教えてほしい!
この状況、どういう事なんですかー!
人の声に目が覚め、柔らかなベッドの感触に驚いて転げ落ちれば、チラリと見えた女の子が慌てた様子でやって来た。
何が何やらわからなかったけど、痛む体に鞭打ってひれ伏した。謝罪の言葉を口にするのは息をするより慣れている。
そういつも通りにしたというのに、女の子がいきなり泣き出したのだ!
何故かわたしの手を握って!
わたしたちのような者に近寄る人はいない。
憂さ晴らしか、わたしたちのような者を特に疎んでいるやつに暴行される時くらいだ。
それでも女性はいなかった。女性や子供は、わたしたちに目も合わせない。うっかりそんな事になろうものなら倒れられたりもする。
手を触れるなんてありえない。何で女の子が泣いているかもわからない。握られた手の温かさも居心地悪い。
けど、いやじゃないかも……
いや!それより!
今のこれ、どういう事なの?!
わたしは泣きじゃくる女の子に手を握られたまま、馬鹿みたいにただ座り込んでいた。
やがて泣き止んだ女の子が、呆然としているわたしに説明してくれた。
話を聞いて、あぁそう言われればそうだったと思い出す。
昨日はすごく疲れていて、上手く気配を消せてなかったのだと思う。運も悪かったと思う。衝撃と同時に地面に殴り倒されていた。
「すみません!すぐにいなくなりますから許してください」
殴り倒されてすぐ謝罪の言葉を口にする。
存在自体が忌まわしいとされているわたしたちだ、こんな事はよくある事だった。
あいつはよっぽど何かに腹を立てていたのだろう、わたしは八つ当たりの的にされたのだ。
それもよくある事だ。しょうがない、せめて少しでも軽くすむようにと丸まって耐える。
そんな時、突然女性の声が聞こえた。痛みに耐えるのがやっとで、何を言っているかは聞き取れなかったけど、わたしを蹴っている男と女性とのやり取りがあった後、暴行が止んだ。
終わった……。
早くこの場から去らないと、また別の誰かから暴行を受ける。
だけどちょっと力が入らない。
「大丈夫ですか?動けるようならこっちに来てください。そこの路地です。行けますか?」
生まれて初めて聞いた、優しい声と丁寧な言葉にびっくりした!
あんまり驚きすぎたので、謎の力に引かれて言われた路地まで歩いて行けたくらいだ。
そこからの記憶は曖昧で、目覚めてみればいきなり女の子が泣き出したという。混乱の極みだったわ。
でもまぁ、サクラコさんの説明でひとまず理解できた。
それなのに「これを飲んでくださいね!」と続くサクラコさんの言葉で、また訳が分からなくなった!
わたしたちのような者には仲間意識なんてないけど、ラーシュと紹介された“こちら側の者”に助けを求めるくらいには混乱した。
ラーシュは、サクラコさんの親切が本心だと言った。
私たちのような者にそんな事が?あり得ないでしょ!
そうだとしても、親切なんてされた事がないからどんなものかわからない。
親切と逆の事は散々されてきた。それとは声の感じや言葉遣いや、伝わってくる雰囲気なんかが全く違う。まさに、されてきた事の真逆だ。……じゃあこれが親切?
信じる訳じゃないけど、
ここで言われた通りにしても、今までと何も変わらない人生だ。
信じる訳じゃないけど……、
でも、わたしなんかに触れてくれたんだよね……
わたしはポーションを飲んだ。
すごい!飲んだ瞬間から体中の痛みがなくなった!
痛くなくなった。
サクラコさん「これを飲めば楽になります」って言ってたな。
わたしのためにポーションをくれたんだよね。
わたしのために? なんで? どうして?
生まれて初めて受けた親切に、わたしはまた混乱した。




