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「ラーシュ君クラウス君、後片づけ任せちゃってごめんね、ありがとう。お茶を淹れるね、何がいい?暑くなりそうだから冷たいのがいい?」
「「はい」」
「OK♪ じゃあ今日は爽やかにレモンティーにしようか♪甘くして!」
「嬉しいです!」
「ありがとうございます!」
たっぷりの氷の上から濃く淹れた紅茶を注ぐ。数回かき混ぜて冷えたら、シロップを入れてレモンを搾ってまたかき混ぜる。美味しいアイスティーの出来上がり♪
生のレモンを搾ったから部屋中にレモンの香りが広がって、これも爽快だ♪
「追加のシロップは好きなだけどうぞ♪」
「「ありがとうございます!」」
「エネさんも冷たいのもどうぞ。甘さが足りなかったらこのシロップを足してくださいね」
テーブルの上にグラスと山盛りシロップのカゴを置く。
ラーシュ君たちは嬉しそうだ。本当に甘党だなぁ。エネさんも甘党なのかな?
「今日も暑くなりそうですね~」
私は温かいレモンティーを口にしながら(冷え性なのよ)窓から裏庭を見た。
この国にも四季があるそうで、初夏の朝、今はまだ開けられた窓から涼しい風が入ってきている。けどこれから暑くなりそうだ。
「あ、ありがとう、ございます……」
「いいえ~」
それからしばらく、静かな時間が流れた。
時々、カランと透明な氷の音が聞こえる。
窓から入ってくる風と、涼しげな音が心地いい。
ラーシュ君たちは元々あまりしゃべらない生活をしていたので、私から話しかけなかったらほとんど会話がない。静かな生活は嫌いじゃないよ。
私はカップの半分くらいまでゆっくり紅茶を飲むと、エネさんに話しかけた。
「言われてすぐ返事、って訳にもいきませんよね。よかったらもう一日ここで休んで、明日返事を聞かせてください。って、一日じゃ早いかな。
クラウス君、一日で返事って厳しかった?」
あ、クラウス君は一晩だったわ。
「いいえ。ぼくの場合は決心がつかなかっただけで、きっと答えは決まっていたと思います。だってこんな幸運……。やっぱり夢をみているのかなぁ……」
「クラウス君、またそんな事いって!」
まったくもぉ!この子たちが現実だと思えるようになるには、あとどのくらいかかるのよ!
「休んで……?」
「はい、休んで。だってエネさん、昨日はあんなにひどいケガをしていたんですよ?今は大丈夫と思えているかもしれませんけど、私はポーションってよくわからないから……。
ムリにとは言いませんけど、一日くらい様子を見た方がいいと思うんです」
「…………」
エネさんは黙ってしまった。
やっぱお節介かな。
「ぼくは一昨日サクラコさんに助けられて、昨日一日このお邸で休んでたんだ。疑うのも不思議に思うのも当たり前だけど、サクラコさんは本心でぼくたちのような者を心配してくれてる。信じられないけど本当なんだ。
あ、サクラコさん、ぼくはもう大丈夫なので、今日は仕事に行ってきます」
クラウス君が援護してくれた。
ありがとね、っていうか!
「クラウス君、本当に大丈夫? 食欲を見てたら大丈夫な気もするけど……。
まぁ一日はお願いをきいてくれたんだし、お節介はほどほどにしておくけど」
「お節介だなんて思ってません! 心配してくれてあり、がとうございます……」
クラウス君、語尾が小さくなっていく。照れてるのかも。
ちょっと勇気をもらって、もう一度エネさんに言ってみた。
「ポーションの効きとか回復具合とか、私にはわかりませんけど、一日くらいゆっくり休んでもいいじゃないですか。ここは私たちの邸なので安全ですよ。それに、返事を考える時間が必要でしょ?」
「……はい、ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」
クラウス君に続き、エネさんにもお節介を押し付けてしまった。
でもあの体を見たら……。
ポーションのおかげで体の痛みはなくなったかもしれないけど、傷つけられた心は治ってないよね。
あんな、人としての尊厳を傷つける行為!許せないよ!
またメラメラと怒りが燃え滾り出す。
いけないいけない。落ち着かなくては。
エネさんもシェアハウスの住人になってくれたらいいな。
だけど私の第一印象(ちゃんと意識がある)は“いきなり大泣きしたヤバいやつ”だからな。ちょっと微妙かも。
とりあえず話は出来た。
エネさんには休んでもらいながら、一人でゆっくり考えてもらおう。
という事で、日課の(まだ5日目だけど)図書館に行こうか。
クラウス君も今日は仕事に行くと言うし。
ラーシュ君は今日も私を送ってくれてからの出勤だ。
道は憶えたし暮らしにも慣れてきたから、もう送ってもらわなくてもいいんだけど、ラーシュ君が送りたいと思っている間は送ってもらおうと思う。
私はラーシュ君が嬉しいと思う事をたくさんしてあげようと決めたんだから!
もちろんクラウス君や、住んでくれなかったとしてもエネさんにも親切にしたい。
こんな世界で理不尽に生きている人たちだ、意識の違う私くらい寄り添ったっていいじゃないか。たとえ期間限定だとしても、少しでも心安らかに、安全に過ごしてほしい。偽善といわれたって何もしないよりマシだ。
なんて考えながら図書館まで歩く。
図書館までの行き帰りは考え事の時間になってるなぁ。
図書館まで送ってもらうと、お礼を言ってラーシュ君と別れる。
ラーシュ君、もう慣れてくれたかな?これが普通になってくれたらいいな。
さて。図書館に来たけど、どうしようか……。
色々考える事が増えちゃって、うちでゆっくり考えたい気持ちもあったけど、エネさんだって一人でじっくり考える時間が必要だよね。
広い邸だから二人でいてもジャマって訳じゃないと思うけど、何となくね。
まぁ図書館で考えればいいんだけど、この図書館人が多いのよ。
国一番の蔵書を誇る図書館だから、この古都は学者さんや学生さんが多いんだよね。
だから私も“転移者”の記録だけを見ていても不審がられないんだと思う。
学生の課題とか論文の調べものって思われてるのかも。
とりあえず昨日の続きからの本をとって、いつもの席に座る。それらしく見せなければ図書館には居づらい。
さらっと続きの本を持ってこられるのは、本棚の本の配置が換わらないというか、本が抜き取られてないからだ。
私以外使っていないのかな?転移者、人気がないのかもしれない。
さて、今日は記録を読むより、これからしたい事を整理しよう。
早く日本に帰りたいのは山々だけど、気になる事があったままじゃ集中できない。
私は同時にふたつの事が出来ないタイプなので、ひとつずつ片付けていこうと思う。
という訳で本を広げたまま(カモフラージュ)やりたい事をノートに書きだす。スマホだと、それは何だと聞かれた時に説明できないからね。
見られても大丈夫なように、ちゃんとシンプルナチュラルなノートと鉛筆をポチッたよ。
え~っと、まずは……
1、帰る方法を見つける事。
これを書いている時点で本末転倒もいいところだけど。
なんて苦笑いしていたら
「失礼。お嬢さん、少し聞いてもいいですかな?」
「ひゃい!」
びっくりした!!
いきなり話しかけられて変な返事をしちゃったよ!
話しかけられた声の方を見ると、私の手元を見ているおじいさん?おじさん?
年齢的にはおじいさんに近いと思うけど、“おじ様”というイメージがピッタリな紳士が立っていた。
きちんとした服装は、ここでよく見かける学者さんっぽくはなく、お金持ちの家の家令さんって感じだ。
言葉遣いも丁寧だし、耳に心地いい話し方と声、まとう雰囲気もそれっぽい。
そんな立派な紳士が、いったい私に何の用ですかね?
……もしかしたら、このノートと鉛筆がまずかったか?




