第75話 フランと家出
──紅魔館──
時刻はまだ昼前。
少女と少女が机を挟んで向かい合い、片や目を輝かせ、片や渋い顔でこめかみを押さえている。
「お姉様、この子飼っていい?」
「……………………何それ」
たっぷりと間を開けたあと、フランが鉄籠に入れて持ってきた謎の生物を指さす。
「分かんない!」
「元気よく答えるところじゃないでしょ……」
一見するとそれはゴブリンのように見えなくもない。だが、ゴブリンと違って背中に鋭い棘、目が大きく丸く、牙や爪も鋭い。
「咲夜」
「ここに」
名前を呼ぶだけで瞬間的に姿を現す。
「あれが何か分かる?」
「申し訳ございませんが、皆目見当もつきません」
咲夜が頭を下げるが、レミリアがそれを手で制する。
「ねぇねぇ飼っていいでしょ?」
そんな二人を完全に無視してフランは目を輝かせている。
「ダメよ」
「なんでぇ……」
机を挟んで向かい合い、フランが若干上目遣いでレミリアを見る。
「うっ……ふ、フランはどうせ世話をしないでしょう? そうなったら咲夜が世話をすることになる。つまり咲夜に負担がかかるのよ?」
「私は別に問題ありませんが」
「咲夜は黙ってなさい」
横から口を挟んできた咲夜を強制的に黙らせる。
「でもこの子道に落ちてたんだよ」
「だからって拾ってきちゃいけません」
「でも」
「ダメ」
「いいじゃん」
「ダメったらダーメ」
フランの言葉を完全につっぱねる。
(……ちょっと……言いすぎたかな……?)
片目を開けてフランのほうをチラ見する。
「!」
フランの目には、涙が浮かんでいた。
「え、あっそのっ、フラン」
「お姉様なんか大っ嫌い!!」
「ぐはぁっ!!」
フランが鉄籠を放り投げ、扉を破壊して廊下へ飛び出す。それと同時にレミリアが机に倒れ伏す。
「嫌いって……フランに嫌いって言われた……」
うわ言のように同じことを繰り返す。そんなレミリアのもとに、鉄籠を上手くキャッチした咲夜が駆け寄る。
「お嬢様!? くっ、今はとりあえずフラン様を」
「ま、待ちなさい咲夜……」
なぜかすでに満身創痍になっているレミリアが、弱々しい声で咲夜を止める。
「しばらくは頭を冷やさせるのに丁度いいわ」
「……………………」
レミリアの言葉に咲夜は黙りこむ。
そして、口を開く。
「本当にそうお思いですか?」
今度はレミリアがそっぽを向いて黙りこむ。
「お嬢様」
「……分かった分かったわよ! でもとりあえずこいつがなんなのかを調べるのが先」
「……分かりました。ではパチュリー様にお話を伺って参ります」
「確かにパチェなら知ってるかもね。お願いするわ」
レミリアに一礼し、部屋を出る。
(一刻も早く探しに行きたいくせに、強情なんだから……)
もちろんそんなことを主に言えるわけもなく、命令通り図書館へと向かうのだった。
──図書館──
「……とのことなんです」
「まったくレミィもレミィで頑固なんだから……」
咲夜の説明を聞きおわると、パチュリーが顔に苦笑を浮かべる。
「でも、こんなの私も見たことないわね」
「となると……やはり外の世界の生物でしょうか」
「……そうなるかしらね。こあ、そこの本棚の上から三段目、少しずつでいいから全部持ってきて」
「はーい」
パチュリーの指示に、小悪魔がすぐに反応する。
「悪いわね咲夜、ちょっと調べてみるからそっちはそっちで調べてもらえる?」
「承知しました」
パチュリーに深く礼をし、図書館をあとにする。次に向かうのはもちろん主のところだ。
「……とのことでした」
「そう……パチェでも分からないのね……」
レミリアが少し難しい顔をしたあと、顔を上げて咲夜のほうを見る。
「咲夜、今日の仕事は休みでいいわ。そのかわりこの生物について調べてちょうだい」
「かしこまりました。それで、フラン様は……」
「…………それが終わってから探しに行きなさい」
「……かしこまりました」
再びレミリアの部屋を出て、紅魔館を出る。
門の前では、珍しく起きていた美鈴が声をかけてくる。
「あれ、咲夜さん。お出かけですか?」
「えぇ、ちょっとね。あ、そうだ」
咲夜がわざとらしく今なにかを思いついたように手を打つ。
「先に妹様を探しに行ってもらいたいの」
「フラン様を? 何かあったんですか?」
少女説明中……
「なるほど。了解しました」
「私は聞き込みついでに人里を探すから、美鈴は違うところをお願い」
「任せてください」
そう遠くには行っていないはず、という淡い期待を抱きつつ、それぞれフランを探しに行くのだった。




