第74話 輝夜と妹紅
──永遠亭──
「なんで……ッ!!」
目を閉じたまま動かない仇敵の前で、叫ぶ。
「なんでこんなことになってんだよッ輝夜ァッ!!」
──少し前 迷いの竹林──
「ふー……こんくらいでいいかー」
カゴに入ったたくさんのタケノコを見て呟く。
「いてて……ずっとしゃがんでたから腰いてぇや……」
立ち上がって伸びをし、腰のあたりをポンポンと軽く叩く。まだ昼といっていいぐらいの時間だ。
「んー……輝夜との決闘もあるし、これ持って永遠亭行くか」
カゴを背負い、ぐるぐると肩を回しながら歩き出した。
──永遠亭──
「タケノコ持ってきてやったわー」
いつものように玄関を開け、大きな声で言う。
「あれ……誰も来ない」
いつもなら鈴仙か、たまに永琳やてゐが来るのだが、今日はいつまで待っても誰も来ない。
「……入るぞー」
見知らぬ顔、というわけでもないし、むしろ千年単位の付き合いだからまぁいいだろうという結論に達し、靴を脱いでそのまま上がる。
「うん? どこにいるんだ……?」
居間や台所、今日は休みだが一応診療所のほうを見に行っても結局いなかった。
「順序逆だけどしゃあねぇか」
大きなため息をついてから、この永遠亭の主のもとへと向かった。
「おいバカグヤー、なんでお前らんとこ……あ?」
誰もいないんだ、という言葉には続かなかった。勢いよく障子を開けると、理由は分からないが輝夜の部屋に永琳、鈴仙、てゐの三人がそろっていたからだ。
三人は布団で眠っている輝夜を囲んで神妙な面持ちで座っている。
「どうしたんだお前ら」
いつもならこの中の誰かはいらっしゃい程度のことは言うのだが、ずっと黙ったままだ。
「ははーん分かったぞ。輝夜が寝てて起きない……ん…………だろ……」
思わず二度見してしまった。
鈴仙の目から、涙がこぼれ落ちる。
「いや、どっどうしたんだよ、なんだよこの空気」
妹紅が戸惑っていると、永琳が静かに立ち上がり、近づいてくる。
「何があったんだよ永琳」
「…………信じられないかもしれないけど、輝夜が死んだわ」
「はっ?」
思わず間抜けな声を上げてしまう。
「え、いやいやいや。輝夜は不老不死だろうが、騙されないぞ私は」
ありえないと横に首を振るが、永琳はただ静かに下を向く。
「え……いやホントだとしても一体なんでっ……」
説明を求めると、永琳がゆっくりと口を開く。
「……輝夜ね、前から私に頼んでいたのよ。不死を解く薬はないかって……」
知らなかった。輝夜がそんなことをしていたなんて。でもなんで? 不死が嫌になった? でも輝夜に限って……いやだからこの状況に……あぁもう分かんねぇ。
「今日も薬を作って、輝夜のところに持っていってそれを飲んでもらったの」
「そしたらこうなった……ってことか?」
永琳は無言で頷く。
彼女を責めることはできない。いくら天才だって作った薬の効果が分かるわけでもない。でも、不死の薬を作れるということはその逆だって可能。そういうこと……だってのか……。
フラフラと輝夜のもとへ歩いていく。
「おい……輝夜……」
返事はない。
「なんでこんなことになってんだよッ!!」
輝夜の枕元で叫ぶ。
「おい……輝夜ァッッ!!」
なぜか今までの輝夜との時間が頭を駆け巡る。
団子を食べようとした瞬間に泥団子と入れ替えられたり、決闘で呼び出しておいて忘れて放ったらかしにされたし、てゐの掘った落とし穴に埋められたり、刺客を送られたり…………あれ? いい思い出なくね?
「クソッ……輝夜……」
妹紅がもう一度叫ぼうとした時だった。
「ぷっ」
目の前の、死んだはずの輝夜が吹き出した。
「………………は?」
衝撃の展開の連続すぎてもはや妹紅の頭が追いついていない。
「ぶふっ、あはははははは」
輝夜が飛び起き、腹を抱えて笑い出す。
勢いよく永琳のほうを振り向けば、鈴仙と一緒に顔を背け、肩を震わせている。つまり、笑っている。
てゐなんか庭にでて転げ回っている。
「まさかっ……ホントに信じるとはっ……あははは」
自分がやっぱり騙されていたことに気づいて顔まで真っ赤になってくる。
「てめっ……輝夜っ……おまっ……燃やす!!」
「わー待って待って永琳止めて!」
「はいはい」
怒りと羞恥のあまり炎を出した妹紅の首に、永琳が何かを注射する。
「ぐっ……てめぇ……覚え…………とけ…………」
妹紅はそのまま倒れ込み、意識を失った。
「…………寝た?」
「えぇ、まったくヒヤヒヤしたわ……」
なんとも言えない表情のまま硬直する輝夜に、永琳がため息をつく。
「あんな嘘を信じる妹紅も妹紅だけどね……」
若干の哀れみの目を向けながら小さくこぼす。
「さて、妹紅が起きた時の対処は任せたわよ、姫様」
「へーい分かってますよー」
永琳が立ち上がり、部屋を出ていく。輝夜は妹紅の寝顔を見つめている。
「よく分かんない寝顔しちゃってまぁ」
聞こえるはずのない言葉を小さく呟いた。
「ん……んあ?」
「あ、起きたー?」
瞬きを繰り返す妹紅に、寝っ転がりながら聞く。
「輝夜……? あれ、なん……ッ!!!」
寝ぼけていた妹紅が、自分に何があったのかを全て思い出したらしい。羞恥とも怒りともとれるほど顔を真っ赤に染める。
「私が死んだと思って悲しかったのー? ねぇねぇどうなの?」
意地の悪い笑みを浮かべながら輝夜がたたみかける。妹紅の目には若干涙が浮かんでいる。
「まぁ」
輝夜の口調が真面目なものに変わる。
「私は死にたいなんて思ったことはないよ。今まで生きてきたって知らないことがあって、それを知りたいと思うし。不死にしかできないことってのもあるしね。それに……」
輝夜が妹紅に向かって微笑む。
「永琳やイナバ、あんたもいてくれるから、私は退屈してないよ」
その笑顔に、その言葉に、妹紅はさらに顔を赤くする。
「もっ、もういい!」
数秒間俯いて黙っていた妹紅が、突然そう叫んで立ち上がる。
「この借りは絶対に返す、覚えとけよ!!」
「はいはーいあんたの可愛い姿は一生忘れないわよ〜」
その言葉に、妹紅はもはや喋ることもできずに、全身から炎すらでてきてしまっている。
結局何も言い返すことができずに、妹紅はそのまま帰っていった。
「いやーまだまだねぇ」
彼女が置いていったタケノコを見て、ひとり呟く。
「私に勝つなら、あと千年くらい修行が必要ね」
不死鳥のような好敵手の姿を思いうかべ、輝夜はひとり笑っていた。




