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人と妖怪とetc.  作者: 那々氏さん
閑話 幻想に生きる
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第73話 勇儀とパルスィその2

 ──地底 居酒屋──


 地上から追放された妖怪たちが集い、それを感じさせないほどに騒がしく酒を飲む。まるで宴会のように昼間っから飲んだくれている。


「おい勇儀ィ……いつまであいつとつるんでるつもりだ……?」


 べろんべろんに酔った鬼が、勇儀の肩に腕を回す。


「あいつ……? 一体誰のことだ?」


 いつも持っている盃を口元に運ぶ。


「とぼけんなよ……あの嫉妬妖怪のとこに毎日行ってんだろ……」


 酔っているせいか、なかなかに強気な態度をとってくる。

 鬼の序列は基本的に実力がすべて。つまりここでは勇儀はトップレベルなのだ。それでもこんな態度なのはやはり酔っているからだろう。


「………………」


 勇儀はそれに答えずに酒を飲む。

 それを肯定と捉えたのか、その鬼はどんどん勢いづいて話を進める。


「あいつはお前と釣り合ってない。強者である俺たちとあんな醜い弱……」


 その言葉を遮るように部屋に大きな音が響く。

 一瞬で場を静寂が支配する。誰もが音のする方を向くと、持っていた盃を床に勢いよく置いた勇儀がいた。


「お、おい……どうし……」


「醒めた。今日は帰るわ」


 今ので酔いが覚めたのか、勇儀に絡んでいた鬼はすっかり顔の赤みが引き、むしろ恐怖で青ざめていた。


「じゃあな」


 誰かが勇儀を呼び止めたが、それを聞き入れることはなく彼女は店を出た。




「チッ……くっだらねぇプライドで人を貶めやがって……」


 さっきのことを思い出し、一人でボヤく。


「だぁぁこんなんアタシらしくねぇ! 切り替えて明日パルスィんとこでも行くかな」




 ──その日の夜──


「はぁ……どうせ明日も来るんだろうな……」


 男勝りな女の鬼の顔を思い浮かべる。


「まぁいいか」


 ふと月を見上げたその顔に、笑みが浮かんでいたのは、本人ですら知りえないことだった。


「…………誰かしら」


 背後から気配を感じて振り向く。

 だがその妖怪は何も言わない。


「中々の嫉妬具合ね。なぜそれが私に向けられるのかは知らないけど」


 目の前の奴から嫉妬を感じる。自分に向けられる嫉妬なんて初めてだ、なんて楽観的なことさえ考えてしまった。


「で、私になんの用?」


 質問しつつも悟られないように少しずつ後ずさりする。さすがに得体の知れないものと戦うほどバカじゃないし面倒事はごめんだ。


「そもそもあんたは何もっ……」


 突然背後から後頭部を殴られる。


「痛ッ……あんたら……鬼……」


 目の前に集中しすぎていたせいか背後に気が回らなかった。

 相手の額から生える角を見て、それが鬼だと判断したが、そこで完全に意識が途切れた。




 ──次の日──


「おーうパルスィ〜って……いない。珍しいな……」


 いや、珍しいというより今までそんなことは一度もなかった。もしかして彼女の身に何かあった……?


「クソッ……まさかアイツらッ!」


 たった一つ思い浮かんだことを確かめるために昨日の居酒屋へと走る。


「おいテメェらッッ!!」


 扉をぶち破り怒気を孕んだ声で怒鳴る。


「ど、どうしたんだよ勇儀」


 店内を見回すと、いつもいるはずの鬼が五人ほどいなくなっている。


「おいお前、アイツらがどこにいったか知ってるか、知ってるよな」


 近くで酒を飲んでいた鬼の胸ぐらをつかみ、鬼気迫る表情で、有無を言わさず問いただす。


「ひっ……し、知らな」


 腕を叩き折る。


「ぐああっ……」


「次は頭を潰す。はやく答えろ!!」


「ひぃ……あ、あいつらは……」





「ん……痛……」


 目が覚めると、洞窟のような場所にいた。

 宙吊りにされているのだろうか。その割には足がギリギリつくから手だけを固定されているのか。殴られた後頭部が少し痛む。


「起きたか」


 昨日襲ってきたやつだろうか。声までは聞いてないからよく覚えていない。


「ここはどこかしら」


「答える義理はない」


「まぁいいけど。はやく解放したほうが身のためよ?」


 そう言うと、その鬼が怒りをあらわにして顔を近づけてくる。


「黙れ、醜い嫉妬妖怪が」


「その醜い嫉妬妖怪に嫉妬してるのは誰かしら」


「黙れッ!」


 頬を叩かれる。口の中が少し切れて血が出る。


「まぁ死なないように頑張ったほうがいいわ。なにせ破滅的な金剛力を相手にするんだから」


 憤慨する鬼をパルスィは笑う。


「勇儀は来れる訳がない。無駄な期待はしないほうがいいぞ」


 だが、その言葉を聞いてもパルスィはただ嗤うだけだった。


「このっ……いつまで笑って……!」


 鬼がもう一度手を振り上げた時、洞窟の外から地鳴りのような音がする。


「な、なんだ!?」


「ほぉら来たわよ。こわーいこわーい鬼が、ね」





「や、やめてくれ勇……」


 顔面に一撃を入れ、吹き飛ばす。


「ひぃっ……ゆ、許し……」


 足を踏み潰し、木に叩きつける。


「う、うああああああ!!!」


 残りの二人をラリアットで昏倒させる。


「この洞窟の奥か」





「お、おいお前ら、何があった!!」


「もうのびてるころじゃないかしら」


 呑気にあくびをしながら適当に答える。その態度がカンに触ったのか、そもそも恐怖でどうにかなっていたのか、再びパルスィを殴る。


「お前のっ……せいでっ……」


 三度振り上げた拳がパルスィに触れる寸前に止まる。


「な、な……」


 理由は明白だ。


「バケモンがよぉ……」


 洞窟どころか山の上半分が消え去った。

 入り口には、殴ったあとの姿勢の勇儀が見えた。


「悪かったなパルスィ。大丈夫か?」


 ゆっくりと、パルスィのもとへと歩いていく。


「これ見てそれ言ってる? だとしたらその精神が妬ましいわね」


 勇儀に手枷を外してもらい、少し伸びをする。


「おい、お前」


 腰を抜かしている鬼に向かって、勇儀が低い声で言う。


「次アタシの前に顔出してみろ」


 ゆっくりと、睨みつける。


「今度は跡形もなく潰すぞ?」





「ごめんなパルスィ……アタシのせいでこんな……」


 パルスィの頬の傷を見て、勇儀が謝る。


「本当にそうよ。せっかくの一日が台無しよ」


「うっ……すまん……」


 パルスィの言葉に勇儀が思いっきり肩を落とす。さっきまでの様子からは想像ができないほどの違いだ。


「だから……」


「ん?」


「勇儀の明日一日、私によこしなさい」


 パルスィがそっぽを向いて、そんなことを言う。


「そんなんで……許してくれるのか?」


「もちろん明日は全部勇儀の奢り」


 当然でしょ、というような澄ました顔でパルスィは言い切る。


「あぁ……あぁ! 任せろ!」


 心の底から嬉しそうな声で、顔で、勇儀が言う。


「ありがとな、パルスィ」


「なんで感謝されるのか分からないわね。妬ましい」


 そんなやり取りをしつつ、二人で地底へと戻るのだった。





「とまあこんな感じよ」


 あー長かった、とパルスィは疲れきった様子だ。

 話からすれば勇儀は本気だったのか。だけどこれはまずいな……たぶん一番怒らせちゃいけないやつだ……。


「もうすぐ勇儀が来るから私は行くわね」


「え、分かるのか?」


 突然立ち上がったパルスィに、不思議に思って問いかける。


「まぁ……別に」


 照れたのか、それとも本当になんとも思っていないのかよく分からない表情でそう言う。


「ふーん……じゃあお邪魔にならないようこれでお暇するかな」


「えぇ、本当に邪魔だからね」


 あー心に突き刺さる。この子なんで真顔でそんなこと言えるの。お母さんに悪口言っちゃダメって言われなかった?


「それじゃ、勇儀に勝てるよう頑張りなさいよー」


 ひらひらと手を振りながら、パルスィはどこかへ行ってしまった。


「はぁぁ……怒らせる以外で本気を出させる、かぁ……」


 やっぱりひたすら修行をして実力でやるしかないのか。


「うっし、考えてても仕方ない。修行すっかー」


 グダグダと考えるのは性にあわない。

 再び目標へと向かって、彼は修行を始めるのだった。

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