吟遊詩人ムジカに歌を贈ってもらった
丘の上の草原で、アルドはグラティアに指輪を贈られる。
仲良くしている2人のところへ、ある者が声をかけてきた。
「あっ、こんなとこにラブラブのカップルみっけ〜!久しぶりだね〜!」
能天気な声がしたと思ったら、やはりムジカだった。最近というか、ここ数年この歌うような声は聞いていなかったが、やはり苦手だ。
「おぉ、ムジカではないか。相変わらず寂しそうにしているな。今日はどうした?」
「相変わらずつれないなぁ〜グラティアは。せっかくはるばるインスラー皇国から船に乗って帰ってきたのにさ〜。よっ、アルド!見ない間にすっかり大人になったじゃ〜ないか」
ムジカは私の横にいるアルドに声をかけた。
「お久しぶりです、ムジカさん。すごく背が伸びたでしょ?もうグラちゃん追い越して、ムジカさんくらいになってるんじゃないですか?」
「うんうん、たぶん僕と一緒くらいだよ。グラティアは小さいからね〜。どう?あれからはみんな元気にしてるかい?」
アルドは少し目を伏せた。私はすかさずムジカに、アルドの父親のことを耳打ちで告げる。
「あっ、そうだったんだね…それはごめんね。悲しかっただろうに…」
「父が亡くなってしまったのは悲しいですけど、こうやってグラちゃんが一緒にいてくれるので、僕は大丈夫です。ムジカさん気遣ってくれてありがとうございます」
「うん。アルドはホントに素直でいい子だね〜。あっ、そうだ。前に言った約束、覚えてるかな?ここまでくる旅路の途中でちゃんと作ってきたよ」
ムジカはアルドに言っているが…約束??てなんだ。
「え、ムジカさん、約束ってなんでしたっけ?」
「あはは。まぁ8年も前のことだから、人族のアルドはなかなか覚えてられないよね。僕はこう見えて、約束はきちんと守るタイプなんだよ〜」
「ムジカ、私はエルフだが、お前のした約束なぞまったく覚えておらんぞ」
「まぁ、グラティアは仕方ないよね。アルド、君が大きくなっても、グラティアと一緒にいたら、君に歌をプレゼントしよう、って言ってたんだよ」
「「あっ!!」」
私とアルドは2人同時に声をあげた。ムジカは肩にかけていたギターを草原に下ろし、ケースの蓋を開けた。ムジカが取り出したギターは、ひょうたんのような形をしていて、本体の真ん中がくびれており、元々私はギターのことは詳しくないが、弦がたくさん張り巡らされていた。ギターの本体には、金属でできた装飾がされており、小さな宝石でも埋め込まれているのか、動かす度にキラキラと光っている。
「いいでしょ〜、これ。ギターラ・ラティーナっていう弦楽器だよ。まぁまぁ高かったけどね、金貨100枚くらいだったかな、忘れたけど」
ムジカは物にはこだわるタイプらしい。私にしたらまったく価値はわからんが、確かに見るからに高そうではある。
「その楽器自慢はいいから、早く歌を聴かせろ」
「まぁまぁグラちゃん。ムジカさん、僕も歌、楽しみです」
「ちょっと待ってね。少しギターの音だけ合わせるからね。あ、せっかくだから座ってくつろぎながら聴くかい?」
ムジカが指を鳴らすと、足元の草原から草木がスルスルと生えてきて、腰をかけれる草木で造られた椅子になった。
「わっ、ムジカさん凄い!これも魔法ですか」
ムジカも同じく草木の椅子に腰をかけ、ギターのチューニングをする。
「この曲はね〜、私の愛しい君へ、という意味の歌だよ。タイトルは『Mea Cara』というよ」
アルドが少し顔を赤くした。
ムジカはギターでアルペジオを奏でながら目を閉じる。そして、アルペジオにのせてムジカが歌う。
Quā cum tu calces, gaudentibus ipsa viā
spontē surgunt flōres.
Tē rutilā lampade sol,
et aura levi modulāta,
tanta formā victa,
cursus suōs paulisper sistunt.
O sī, aeternō tempore vītam trahēns,
unō tantum cāsū lūcem oculōrum tuōrum
contingere possim,
illa fortūna ūniversam mihi vītam
plēnissimam faciat.
O sī rīsus tuus,
dum stant sphaerae et mundus ipse manet,
perdurēt.
君がそこを歩くだけで
その道は喜び花を咲かせる
君を照らす太陽も
そよぐ風でさえも
君の美しさに
その働きを休めてしまう
ああどうか悠久の時を生きる君の
一瞬でも君の瞳に触れることがあるならば
それだけで私の一生は
満ち足りたものとなるだろう
ああどうか君の微笑みが
世界の終わる時まで続きますように
ムジカの演奏が終わった。普段の話し声は苦手であったが、歌と演奏はなかなかのものだった。
「ムジカさん…めちゃくちゃいい…めちゃくちゃいい歌です…」
アルドが感動したのか、目が潤んでいる。
「そりゃそうでしょ〜。だってアルドが、グラティアに想いを馳せるのを想像しながら、作ったんだから。よくできてるでしょ?」
「まぁ…なかなかだな。アルドが喜んでるからよかったと思う」
「ねっ。あ、そういえばアルドも大人になったんなら、ギルドに登録できるようになったんじゃない?もう登録したの?」
アルドはそれを聞いてうなずく。
「はいっ、ちょうど16歳になった時に、登録はもうしたんです。ただ…まだ仲間は見つけられてないので、依頼を受けるまではしてません」
「あ、そうなんだね。まぁ急ぐことはないけど、僕は次の旅立ちまで一ヶ月くらいはマグヌスに滞在するけど、その間一緒に冒険に付き合ってあげれるよ?」
「出しゃばるなムジカ。私がいるからお前に助力を頼む必要はない。どうせヒマだから暇つぶししたいだけなんだろう」
苦笑いするムジカ。
「あはは、そんなことないって〜。まぁとりあえず街に戻ろうよ。僕、お腹空いちゃった」
アルドは冒険者として、活躍することができるのだろうか。
ムジカが再びマグヌスへやってきた。
アルドにしきりに冒険を勧めるがムジカの真意は…?
◯今回ムジカが歌っていた「Mea Cara」はラテン語表記のため、和訳は載せていますが、ラテン語の読み方がわからない、と思われるかもしれません。僕の作品の中の「くろくまくんは詩人になりたい」の中にある、同じタイトルの「Mea Cara」には、ラテン語のカタカナ表記も載せていますので、よかったらご覧ください。この作中ではイメージの都合上カタカナ表記はしていません。ご了承ください。




