吟遊詩人ムジカに歌を贈ってもらった
丘の上の草原で、アルドはグラティアに指輪を贈られる。
仲良くしている二人のところへ、ある者が声をかけてきた。
◯登場人物
グラティア(慈愛):エルフ族の女性、256歳。ルミノース国生まれ、ルミノース育ち。精霊魔法を使える。街中で出会った人族のアルドに興味を示し、行動を共にする。
アルド(情熱):人族の男性、16歳。2人暮らしだった父フィデリスは不慮の事故で亡くなる。グラティアに好意を寄せるが…。
ムジカ(音楽):エルフ族の男性、320歳。吟遊詩人。
色々な国や、世界を巡りながら、詩を綴る。グラティアとアルドの2人のことを気に入っている。女たらしだがグラティアのことは口説こうとしない。
「あっ、こんなとこにラブラブのカップルみっけ〜! 久しぶりだね〜!」
能天気な声がしたと思ったら、やはりムジカだった。最近というか、ここ数年この歌うような声は聞いていなかったが、やはり苦手だ。
「おぉ、ムジカではないか。相変わらず寂しそうにしているな。今日はどうした?」
「相変わらずつれないなぁ〜グラティアは。せっかくはるばるインスラー皇国から船に乗って帰ってきたのにさ〜。よっ、アルド! 見ない間にすっかり大人になったじゃないか〜」
ムジカは私の横にいるアルドに声をかけた。
「お久しぶりです、ムジカさん。すごく背が伸びたでしょ? もうグラちゃん追い越して、ムジカさんくらいになってるんじゃないですか?」
「そうだね、たぶん僕と一緒くらいだよ。グラティアは小さいからね〜。どう? あれからはみんな元気にしてるかい?」
アルドは少し目を伏せた。私はすかさずムジカに、アルドの父親のことを耳打ちで告げる。
「あっ、そうだったんだね……それはごめんね。悲しかっただろうに……」
「父が亡くなってしまったのは悲しいですけど、こうやってグラちゃんが一緒にいてくれるので、僕は大丈夫です。ムジカさん気遣ってくれてありがとうございます」
「うん。アルドはホントに素直でいい子だね。あっ、そうだ。前に言った約束、覚えてるかな? ここまでくる旅路の途中でちゃんと作ってきたよ」
ムジカはアルドに言っているが……約束?? てなんだ。
「え、ムジカさん、約束ってなんでしたっけ?」
「あはは。まぁ八年も前のことだから、人族のアルドはなかなか覚えてられないよね。僕はこう見えて、約束はきちんと守るタイプなんだよ〜」
「ムジカ、私はエルフだが、お前のした約束なぞまったく覚えておらんぞ」
「まぁ、グラティアは仕方ないよね。アルド、君が大きくなっても、グラティアと一緒にいたら、君に歌をプレゼントしよう、って言ってたんだよ」
「「あっ!!」」
私とアルドは二人同時に声をあげた。ムジカは肩にかけていたギターを草原に下ろし、ケースの蓋を開けた。ムジカが取り出したギターは、ひょうたんのような形をしていて、本体の真ん中がくびれており、元々私はギターのことは詳しくないが、弦がたくさん張り巡らされていた。ギターの本体には、金属でできた装飾がされており、小さな宝石でも埋め込まれているのか、動かす度にキラキラと光っている。
「いいでしょ〜、これ。ギターラ・ラティーナっていう弦楽器だよ。まぁまぁ高かったけどね、金貨百枚くらいだったかな、忘れたけど」
ムジカは物にはこだわるタイプらしい。私にしたらまったく価値はわからんが、確かに見るからに高そうではある。
「その楽器自慢はいいから、早く歌を聴かせろ」
「まぁまぁグラちゃん。ムジカさん、僕も歌、楽しみです」
「ちょっと待ってね。少しギターの音だけ合わせるからね。あ、せっかくだから座ってくつろぎながら聴くかい?」
ムジカが指を鳴らすと、足元の草原から草木がスルスルと生えてきて、腰をかけれる草木で造られた椅子になった。
「わっ、ムジカさん凄い! これも魔法ですか」
ムジカも同じく草木の椅子に腰をかけ、ギターのチューニングをする。
「この曲はね〜、私の愛しい君へ、という意味の歌だよ。タイトルは『Mea Cara』というよ」
アルドが少し顔を赤くした。
ムジカはギターでアルペジオを奏でながら目を閉じる。そして、アルペジオにのせてムジカが歌う。
君がそこを歩くだけで
その道は喜び花を咲かせる
君を照らす太陽も
そよぐ風でさえも
君の美しさに
その働きを休めてしまう
ああどうか悠久の時を生きる君の
一瞬でも君の瞳に触れることがあるならば
それだけで私の一生は
満ち足りたものとなるだろう
ああどうか君の微笑みが
世界の終わる時まで続きますように
ムジカの演奏が終わった。普段の話し声は苦手であったが、歌と演奏はなかなかのものだった。
「ムジカさん……めちゃくちゃいい……めちゃくちゃいい歌です……」
アルドが感動したのか、目が潤んでいる。
「そりゃそうでしょ〜。だってアルドが、グラティアに想いを馳せるのを想像しながら、作ったんだから。よくできてるでしょ?」
「まぁ……なかなかだな。アルドが喜んでるからよかったと思う」
「ねっ。あ、そういえばアルドも大人になったんなら、ギルドに登録できるようになったんじゃない? もう登録したの?」
アルドはそれを聞いてうなずく。
「はいっ、ちょうど16歳になった時に、登録はもうしたんです。ただ……まだ仲間は見つけられてないので、依頼を受けるまではしてません」
「あ、そうなんだね。まぁ急ぐことはないけど、僕は次の旅立ちまで一ヶ月くらいはマグヌスに滞在するけど、その間一緒に冒険に付き合ってあげれるよ?」
「出しゃばるなムジカ。私がいるから、お前に助力を頼む必要はない。どうせヒマだから暇つぶししたいだけなんだろう」
苦笑いするムジカ。
「あはは、そんなことないって〜。まぁとりあえず街に戻ろうよ。僕、お腹空いちゃった」
アルドは冒険者として、活躍することができるのだろうか。




