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25.ブラッドウィリアム(語り部:ウィリアム)

 僕の名はウィリアム。人はボクのことをブラッドウィリアムと呼ぶ。

 なぜ、ブラッドという物騒な名前が付いているのかと言えば、多分だけど性癖が関係しているんだろうなぁ。


 ボクはね、肉が割けて血が流れ出るさまを見るのが好きなんだ。そのことに気が付いたのは、まだ軍船の中の一兵卒の頃だった。

 たまたま同期の奴と言い合いになってしまってね、取っ組み合いのけんかになったんだけど、殴りつけた相手の唇から流れ出た血を見て、凄く興味深いと感じてしまったんだ。

 もっと流れ出る瞬間を見たいと思ったボクは、なんでケンカになったのかも忘れて、相手の顔を何度も何度も殴りつけていたよ。止めに入った奴らの話ではボクは笑っていたそうだ。


 なぜ軍船のクルーが海賊になったのかという話は、またの機会にしよう。あまりダラダラ自分語りをしていても君も退屈だろうからね。



 さて、本題に入ろう。

 ボクは先日、部下たちにマーメイドを捕獲して来いという命令を下した。理由は簡単だ。マーメイドたちを売れば手っ取り早くお金を稼げそうだったからさ。

 彼女たちってほら、上半身は美しい女で下半身は魚というかウツボというか、独特の見た目をしているだろう。だから愛好家が多いんだ。


 大人になったマーメイドは金貨半分くらいの価値しかないけど、幼体になるほど高額でね。魚でも取って来いって気持ちで命令を出したんだけど、帰りが遅いよな。また道草でも食ってるのかな?


「お頭、お頭!」

「どうしたんだよ騒々しい」

「脱走ヤローを捕まえてきました!」

 ボクは思わず大きなため息をついた。そりゃ人が何十人とか集まれば、落ちこぼれが出るのは仕方のないことだ。だけどこんな漁のような仕事で脱走なんて、いくら何でも弛んでいると言わざるを得ない。


「さっさと縛り首にでもしろ。まったく……どこの班のアホだ。後で船長と班長を呼び出さないとな」

「そ、それがそいつ……第5船団が全滅したとか抜かすんです!」

「はぁ!?」

 ボクは思わず立ち上がってしまった。


 言うに事を欠いて、第5船団が全滅したって!?

 この業界にいると、ほら吹きは頻繁に見ることになるけど、そこまで大ほらを吹くなんて……バカなんてレベルじゃないぞ。一体、どんな奴がそんなことを言っているんだろう。

「あまりに馬鹿げ過ぎてるな……どんな奴なのか顔を見てみたい」

「そうおっしゃると思って連れてきています」


 報告に来た男が部屋を出て廊下で「おい」というと複数の下っ端海賊が、顔中を殴られた海賊を連行してきた。

 殴られてボロボロになっている海賊は、怯えた表情のままボクを見ていた。お願いだから、ここでおトイレだけはしないでくれよ。

「落ち着いて。とりあえず……話を聞こうか?」

「へ、へい……さっきもこの人たちに言いましたが、第5船団は壊滅……私を除く船員124名が捕虜になり、はち……ええと、はちじゅ……そう、87名が戦死しました!」


 その数字を聞いて、ボクは「ん……?」と思った。

 確かに、第5船団の構成員の数は212人だ。これは船長や幹部クラス以外の人間は知らないはず。コイツはどう見ても末端の構成員なので、当てずっぽうで言い当てられるモノじゃない。

「縄をほどいてやれ……もっと詳しく話を聞きたい」


 そう伝えると、手下たちは驚いた表情でボクを見ていた。

 いやボブ。君は第1船団の長なんだからさ、124+87+1という数字に敏感に反応してくれよ。こんな末端の構成員が知っているはずがない数字なんだよこれ。

「はやく」

「は、はい……縄をほどくぞ!」

「へい!」


 縄から解放された下っ端は、少し安堵した様子でボクを見ていた。

 だけど、ボクはまだ君を信用しているワケじゃないぞ。いろいろ質問するから、せいぜい興味深い反応をしてくれよ。

「で、第5船団がやられたのはいつだい?」

「一昨日の夕方です。第5船団はノルマまであと少しだから、クルー全員で追い込みをかけていたんですが……突然、崖の一か所が崩れて、そこから鎧姿のユニコーンと20人近い男たちが攻撃を仕掛けてきました」


「鎧を着たユニコーン? 色は? 牡か牝か?」

「牡です。色は黒毛……頭には緑色に光る角がありました」

 ボクは「アースユニコーンか……」と呟いていた。黒毛と聞いたときは赤角の一角獣ファルシオンを思い出していたが、ん、待てよ……そういえばファルシオンって……


「そいつはどんな喋り方をしていた? 一人称は?」

「一人称は……小生でした。喋り方は……マーメイドの女王を前にしても、威厳を感じさせる硬い感じです」

 ボクは思わずゴクリと唾を呑んでいた。

 そいつは、2年ほど前に王国の騎士団長を半殺しにしたという黒毛の魔王じゃないか。王国の連中は雑木林の掃討戦で倒して角を持ち帰ったとほざいていたけど、それはきっと別の一角獣か、王国の捏造だったということだろう。


「ファルシオンは、炎だけでなく大地属性の魔法も使うと聞いた。奴は何て言っていた?」

「生き残った船員を返して欲しければ……金貨500枚払え……と」

「500か……他には?」

「武器及び船は接収する。あくまで返すのは人員だけだと、女王に言わせていました」


 ボクは面白さのあまり指先を震わせていた。

 陸の生き物のクセに、海の王者である海賊にケンカを売るなんていい度胸じゃないか。わかった。わかったよ。金貨500枚くらいはお前にくれてやろう。

 ボクはすぐに第1船団のリーダーであるボブを見た。

「ボブ」

「は、はい!」

「この袋と一緒に、コイツをウマヤローに届けてこい」


 金貨100枚が入った革袋5つと一緒に、そのアイテムを手渡すと、ボブは満面の笑みを浮かべていた。

「皮肉が利いていていいですね。早速……女王様に届けてきます!」


 革袋と一緒に送ったのは野生馬の蹄だ。

 さて、お馬との馴れ合いはこの辺にして、ボクは出掛けるとしよう。何でも国王がおもしろい話を持って来たのでね……

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