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14.勇者とミツボー(語り部:ニセ勇者)

 俺様と姫君は、たったいま王宮へと着いた。

 考えてみれば、愛するミツボーを救うためとはいえ、魔物どもが闊歩する土地までよく行ったものだと思う。


「おかえりなさい!」

 王宮を守る番犬兵士どもは、いかにも仕事をしていますという顔で敬礼していた。俺様たち冒険者は汗と泥に塗れながら稼いでいるというのに、こいつらは楽でいい。本当にいいご身分だ。

「おう、今戻ったぜ」

 俺様は、番犬兵士どもにも気さくに話しかけてやった。まったく、つくづく人間のできた勇者様だと思う。


 俺様ことイキリッチスキー様は、強いだけでなく、話しやすくて温厚で、そのうえ頼りになるのだから、第二王女のミツボーが惚れるのもわかるってもんだ。

 これで顔さえ良ければ完ぺきなんだが、なんの因果か顔だけばイモヅラときている。


 これも、俺様の完璧さに嫉妬した、馬鹿な作者スィグの野郎のせいだな。自分が無能だからって、俺様の能力にまでケチつけるんじゃねえ、あのゴミ中年が!


 まあ、ゴミ作者のことなんてどうでもいい。本題に戻るとしよう。

 強くて温厚で、顔以外は非の打ち所がない存在の俺様は、愛するミツボーと共に王宮に入ると、ハゲ頭の国王は謁見の間の玉座でふんぞり返ってやがった。


 ハゲを隠さないところは認めてやるが、こいつは本当に俗物っぽくて好きになれない。多分たが頭の中には男が生まれないことと、民衆からいかに金をむしり取るかしか考えてないんだろうな。

 自分の毛でも、むしっててほしいぜ。

「勇者とミツボーよ。よく戻った」

「お会いできて光栄です」


 ハゲ国王は、何やら勝ち誇った様子で、俺やミツボーを眺めていた。一体なんだ。遂に新しい毛生え薬でも手に入れたのだろうか?

「手紙にもあったが、長女のエマニュエルが魔王と内通していた……という話に間違いはないな?」

「間違いございません。このミツボー確かにこの目と耳で見ました」


 ミツボーは毒々しい笑顔で政敵である姉を、まさにいま狩り取ろうとしていた。その手腕は、女豹のように鮮やかで、見ている俺様もゾクゾクしてくる。

 おもしろい女だと思う。これでお前の天下は揺るぎないモノとなるだろう。

 国王も、しっかりと頷いた。

「お前の助言通りに、エマニュエル派は一掃した。これで我らの身は安泰だな」


 ミツボーも、毒を持つ華のような表情で「御意にございます」と答えた。

 これで、この国は俺様たちのモノか。時間こそかかったが、愚衆は俺様たちのような優れた一握りの天才が支配するに限る。

 そう思っていたら、国王は何やら勝ち誇った顔をした。だから、なんだよ先からハゲ!


「実はな……余は子を授かったんだ」

 子? コイツには、また女のガキでも増えたというのだろうか?

 ミツボーもどこかキョトンとした顔をしながら答えた。

「それは、おめでとうございます。私に妹ができたこと……嬉しく……」

 妹の辺りの言葉を聞いた国王は、急に顔をニヤけさせた。なんだか薄気味悪い。

「違う。皇太子だよ」


 俺の思考は停止していた。

 こうたいしって……なんだ。そんな言葉があっただろうか……?

 俺だけでなく愛しのミツボーもポカンとしていると、側近の腰巾着ジジイも得意になってほざいてきやがった。

「陛下は遂に、念願のお世継ぎを授かったのだ。これほどめでたいことはあるまい……のう勇者どの?」


 俺様は胸の内が熱くなっていくのを感じた。

 邪魔なエマを叩き潰してミツボーと結ばれると思っていたのに、全てが上手くいくと思っていたのに、ここにきてどうして別の邪魔者が現れるんだ。

 そもそも生まれてきたというガキは、何の苦労もなくのうのうと皇太子という地位を手に入れてやがる。俺様は汗まみれになって走り回り、血と泥にまみれながら命がけの戦いを生き抜き、更に様々な幸運が味方をして、やっと玉座への道が開けかけていたってのに!


 ミツボーは、震えを抑えるように両手を握ったまま質問した。

「父上……その私の弟……母君は誰なのでしょうか?」

 国王は穏やかな表情のまま言った。

「アイリーンだ。確か元々は侍女だと思ったが……それ以前は何だったか?」

「確か、町娘……定食屋の娘だったはずです」

 

 腰巾着は時間を見ると言った。

「陛下。そろそろ視察の時間でございます」

「ああそういえばそうだな。ミツボーに勇者よ……ゆるりとしていくがよい」


 国王たちが立ち去った後も、ミツボーは身を震わせながら「町娘……定食屋の娘……」と、うわごとのように同じ言葉を繰り返していた。

 俺は、俺様は、認めないぞ! 必ずミツボーを女王に、そしてイキリッチスキー様こそ一国を統べる王になる存在だ!!

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