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12.迫るタイムリミット

 船の墓場を浄化してから数日後。レンチは2基のウォータージェット口を海に向け、水をくみ上げるポンプとドッキングしていた。

「これでいい、グラディウス君?」

『ありがとう。早速やってみる』


 グラディウスは2基のジェット口の間に立つと、普段の黄色ではなく青色の角を光らせ、更に翼も広げてみせた。

『圧縮』

 その声と共に、両口からは大量の水が噴き出し、ポンプが忙しそうに水をくみ上げていく。

『……グラディ。その状態を何時間くらい維持できる?』

『飛んでいるときよりは負担は軽いからね……このままなら8時間くらいかな?』

 こいつも体重は490キログラムくらいある。その巨体を片翼3メートルほどの翼で宙に浮かせているのだから、かなりのエネルギーが必要なのだろう。


『水漏れなどは……起こっていないようだな』

『うん。でも継続して使い続けると劣化してダメになるかもしれないから、予備のパーツは積んでおいた方がいいだろうね』

『そうだな。故障して洋上で漂う……なんてことはごめん被りたい』



 息子の注文通りに、鉄とアルミニウムの合金を作っていると、渡り鳥のジョニーが飛んできた。

『ピピピィ!(おいお前ら……少し急いだ方がいいぜ!)』

『何かあったのか?』

 ジョニーは船の残骸に止まると、少し興奮した様子で言った。

『ピィ(国王が、エマお嬢の手配書を出したんだ!)』


 その言葉はまさに寝耳に水であり、グラディウスさえ一瞬だけ水の勢いを落とすほどだった。

 いくら勇者の逃げ足が早いと言っても、まだ8日目である。どんなに飛ばしても10日はかかる道のりなのに、連中はどうやって国王の元にはせ参じたんだろう。

『伝書鳩……かな?』

 グラディウスがそう言うと、小生はなるほどと唸っていた。


 この辺りは王国ではないので、道も整備されておらず伝書鳩も安全に飛ばすことはできないが、いったん王国領にさえ入ってしまえば、国境の町からでも伝書鳩を用いて王宮に知らせを届けることができる。

 恐らくエマの妹ミツボーは、国境の町で偽情報を書いた手紙をしたため、3日ほど前に国王に向かわせたのだろう。

 手紙を受け取った国王は2・3日のうちに、エマをお尋ね者として手配する準備を進めたと考えられる。


「…………」

 その話を聞いていたエマは、険しい顔をしながら王都の方角に向かって十字を切っていた。

 エマの母親こそだいぶ前に病気で亡くなっているが、彼女を女王へと推薦するエマニュエル派の貴族や有力者たちも投獄されたり、処刑されることは想像に難くない。

『確かにジョニーの言う通り急いだ方がいいね。愚生が王なら、すぐにミツボーが監禁されていた洞窟に国境の町の兵士たちを向かわせる。そうしたら……どこかに移動したことはすぐにわかるはずさ』


 小生もその通りだろうと思いながら頷いた。

 いくら、この辺りがどこの国かはっきりしない地域と言っても、小生たちの姿を目撃している人間はいる。人里も限られている以上、漁村が怪しいと結論が出るまで時間はかからないだろう。


『よしエマ……お前は、高原3姉妹と協力して食料を手配してくれ』

「わかりましたキャプテン!」

『小生たちウマは、1日に10キログラムくらい飼い葉を食べるから、そのことを忘れないでね!』


 エマたちが足早に漁村へと向かうと、近くにいた漁村の若者たちが話しかけてきた。

「キャプテン……俺たちも乗せてくれよ」

『構わんが、命がけの船旅になるぞ』

 その言葉を聞いた若者たちは、当たり前だと言わんばかりに頷いた。

「任せてくださいよ。俺たち海の男はいつだって命がけです!」

「それに全員が、3男坊とか5男坊だからな……村には結婚相手もいなきゃ継ぐような家もない」

『わかった。親御さんが承諾したら同行を許可しよう』

 漁村の若者たちは歓声を上げると足早に漁村に戻っていった。



 エマや漁村の若者たちが戻ってきた頃には、ウォータージェット口の耐久テストも終わり、レンチ、小生、グラディウスの3名で、船への接続作業を進めていた。

「キャプテン……許可、貰ってきました!」


『おお……』と言いながら振り向くと、エマたち4人と漁村の若者たちだけでなく、漁村の少女たちが混じっていた。

「父ちゃんや母ちゃんに言ってたら……姉に見つかっちまって」

「妹も女海賊になりたいんだってさ」

 そう言いながら若者たちが笑っていたら、付いてきた少女たちは真剣な表情で小生に言ってきた。

「ユニコーン様。私も仲間に入れてください!」

「毎日畑の野菜作りで鍛えてます! きっとお役に立ちます!!」

「洗濯物ならあたしに任せて!」


 どうやら、この地域は男尊女卑の考えが特に強いらしく、女性というだけで船にも乗せてもらえないのだという。食事さえも男の食べ残ししか回ってこない女性の中には、彼女たちのように不満を強く持っている者もいるようだ。

『構わんが、食料がもう少し必要になったな……追加で調達してほしい』

「お任せください!」

 エマはそう答えると、女性たちを率いて漁村へと向かおうとした。


『活動資金が必要なら言って。少しだけど金貨や銀貨ならあるよ』

「いえ。それは……交易の際に使いましょう。今は知恵を絞って食料を手に入れてきます」

『そ、そう……わかった』


 どうやらエマは、ヒーリングで村人の病や腰痛などを治し、その見返りとして食料を得ていたようだ。

 彼女たちは、食料だけでなく壊れた小舟や農具など、使い方によっては役立ちそうなものを持ち帰ってきたので、小生はそれを錬金術で修繕し、帆と交換することにも成功した。

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