第26話 カボッチ王子
「お初にお目にかかります。私はカボッチ・パンプキノア。本日は運よくこの馬車の御者をさせて頂く運びとなりました」
俺たちを出迎えるように、カボチャの馬車の前で片膝を付いている人がいた。
いや人ではないのか。目の前にいるのは野菜だ。
もっと言うと人型の喋るカボチャさんだ。
話には聞いていた。
この人、もとい野菜さんが野菜族なのだろう。
いざその姿を目にすると驚きが大きい。
未知との遭遇である。
「パンプキノア? 君はもしかして王族なのかい?」
「恐れながら、現帝国の第5皇子でございます」
王子様とな?
「おいクロノス、王子様が御者をやるのは、この国でのスタンダードなのか?」
「それは無いと思うよ」
「だよな。俺も自分で言っててそう思ったわ」
俺たちがヒソヒソと相談をしていると、カボッチ王子が不安げな表情を見せた。
「私では不服でしょうか?」
「いや全然! そんなことないよ!」
「いえ、皆さまが戸惑う理由は分かります。仮にも帝国第5皇子が馬車を手繰るなど本来であればあり得ないことです」
まあそうだろうな。
「しかし! しかしながら! 神クロノスを前にして野菜の立場など、如何ほどの価値を持ちましょうか!?」
拳を握りしめた王子がスクッと立ち上がった。
「目が怖いでやんす……」
「ブヒ……」
「狂信者だ……」
カボッチ王子のギラギラに輝く瞳に俺たちは完全に引いていた。
「やはり駄目でしょうか?」
「いや、全然駄目じゃないよ。これ本当」
クロノスが手をブンブン振りながら必死で否定している。
「僭越ながら、やはり皆さんには戸惑いが感じられ……ハッ! 私は酷い思い違いをしていたのか! 神クロノスの御前であるというのに私は野菜であることを捨てきれずにいた……」
すると手の平で顔を覆ったカボッチ王子はあ“あ”あ“と唸り声を上げた。
「御者など思い上がりもいいところだ。そうだ私は馬になろう。どけぇえ! 馬ぁあ! 今日から私が馬だぁあああ! ヒヒーンッ! ヒヒーンッ!!」
馬を弾き飛ばした王子様は地面に這いつくばって馬の鳴きマネを始めた。
いや、訂正しよう。それはマネにあらず。魂の慟哭である。
「皆、もう行こうか……」
「そうだな……」
俺たちはそんな王子をそっとしておくことに決めた。
◇
「いらっしゃい。あら観光かい? それじゃ帝都名物のカボチャサイダーを飲んでいきな。一本500ゴールドだよ」
「……へへ、へへ」
俺は震える手で人数分のお会計を済ませた。
普段であれば絶対に買わない値段なのだ。
「いや~困った。困った」
「ああ、ホントは贅沢なんてしたくないんだけどな~」
実はクロノスの同行を知った農業者ギルドが半狂乱で旅費を大幅にアップしたのだ。
詰まる所、俺は試練の他にクロノスを楽しませる仕事を負った訳である
そう。ここでの贅沢は半ば強いられたものなのだ
決して欲望に溺れている訳ではない。
「「困っちゃうな~」」
先程、お土産屋さんで買ったサングラスをカッコよく装着した俺たちは、カボチャサイダーを片手にカフェスペースで休憩することに決めた。
◇
「それにしても凄い人の数だな……ってマズッ!」
俺は口に含んだカボチャサイダーを噴き出しそうになった。
これは不味い。あえて言うなれば、七色の味であった。
「アムルくん。野菜族は人呼ばわりを嫌うから、気を付けた方が良いよ」
「じゃあ何て言えばいいんだ?」
「ベジだね」
「……凄いベジの数だな?」
「難しいでやんすね」
実際、帝都パンプキンタウンの賑わいは凄いものだった。
グラッセルにやって来た当初も人の多さに驚いたものだが、ここはその比ではない。
そして何よりも道行く人々(ベジベジ?)の多くが野菜族だ。
ジャガイモ、ニンジン、タマネギ……
美味しいカレーが作れそうだな。
『ビービービー!!』
そんなことを考えていたら、唐突にけたたましい音が辺りに響き渡った。
そしてその音を聞いた野菜族に緊張が走ったのを感じた。
あるベジは我が子を抱き、またあるベジは辺りを威嚇するように睥睨した。
「これは何の音だ?」
「これは!?」
ガタっとクロノスが立ち上がる。
その顔に浮かぶのは驚愕の色だ。
そしてドタドタと数人のデカいカボチャが人混みをかき分け、こっちに向かってくるのが見えた。
「黄色の警備兵だって!? 君たち、まさかとは思うけど、野菜族を見て料理したら美味しそうだなんて考えてないよね!?」
「そんなこと考える訳ないでやんす」
「ブヒ」
……え?
「いたぞ! あいつだ!」
カボチャの兵士がすぐ近くまで迫る。
「アムルくん、まさか……!?」
「おいクロノス、もしもだ。もしもそんなこと考えたら、どうなるんだ?」
「……死刑になるんだ」
何だって!?
「取り押さえろ!!」
「冤罪だ! 俺はカレーの香辛料について考えていただけだぞ! 痛てっ! てめぇ今殴ったな! 訴えてやるからな! 痛っ! ウソウソ訴えないからごめんて!! 痛い痛い!!」
「アムルくん!?」
「坊ちゃん!?」
「助けてくれ~!!!」
こうして俺は連行されてしまったのだ。




