第23話 料理人ジーン
「こんにちは。お茶の焙じ方を学びに来たんだけど、君でよかったかな?」
ジャガイモタウンへの旅支度を整えていると来客があった。
来たのは爽やか金髪少年である。
見たところ俺と同い年ぐらいだろうか。
「……とうとう来やがったか。俺のレシピを盗む悪党め。くふふふ。そう易々と明け渡してなるものか」
「なにか言ったかい?」
「いえ、なんでもありませんよ。くふふふ」
俺は静かなる敵意を燃やしていた。
◇
「自己紹介がまだだったね。僕は料理人見習いのジーン・クォンツ。ジーンって呼んでくれ」
「くふふ。宜しく」
お前は今から俺にニセのレシピを教わるのだ。
そしてそれを領主に出して微妙な顔をされる運命なのだ。くっふー。
「ところでアムル君は天才的にお茶を淹れるのが上手いと聞いたよ。実際に会ったら僕と同い年ぐらいじゃないか。凄い奴がいるもんだと思ったよ」
「いっいや。そんなに大層なものじゃないぞ」
……おや?
「市場で買える茶葉であの領主さまを唸らせたんだ。それは誇っていいことだと思う。どうやってそんな知識を得たんだい?」
「俺は香草の類が好きなんだ。色々と研究してるうちにお茶の焙煎方法にも手を出したって感じだな」
「それは凄いね。世の中の天才と呼ばれる人は、好きが高じて一般人の手の届かない所までいくけど、君もそういうタイプなんだね」
「いやいや天才だなんて、そんなそんな」
何これ気持ちいい……
こいつ良い奴なのか?
「羨ましいよ。僕なんか料理人の家系に生まれたのにセンスの方は全然なんだ。野菜の皮むきすらさせて貰えないし」
皮むきもさせて貰えないのか!?
あれか。ミリ単位の包丁技術を求められるやつだ。
さすが領主さまの料理人である。
「料理人も大変なんだな」
「本当だったら、今日ここに来るのは僕より上の料理人の予定だったんだよ。これは後ろめたいんだけど、僕の父が領主さまのところの料理長だから、特別にチャンスを貰えたんだ。今日は絶対にアムル君の技術をマスターしてみせるぞ!」
嘘のレシピ? 何それ?
いやだな~。冗談ですよ、冗談。
こんな事情の少年に恥をかかせる訳ないじゃん。
「ジーン、俺のことは呼び捨てにしてくれ!」
「いいのかい?」
「勿論だ!」
ふたりは熱い友情の握手を交わしたのであった。
◇
「まずは茶葉を低温で……」
ガシャーン!!
「大丈夫か!? どうしたんだ?」
「あははごめん。ちょっと躓いちゃって」
見ると躓きそうなものは特にない。
……エンチョでもいたのか?
「じゃあ、とりあえず茶葉を300g測って……」
バサァアアア
気付くと俺は茶葉まみれになっていた。
「ごっごめん。茶筒を開ける力加減が分からなくて……」
「いや、気にしなくて大丈夫だぞ」
……ん?
そこからのクッキングは熾烈を極めた。
◇
「はぁはぁ。よしこれで説明は終わりだ」
厨房内はさながら地獄絵図であった。
壁に突き刺さる無数のナイフ。
まき散らされたマヨネーズ。
空気中に漂う小麦粉。
いずれも茶葉の焙煎に使用するものではない。
そうジーンは極度のドジっ子だったのだ。
野菜の皮むきすらやらせて貰えないというのは、こういう意味だったのかと合点がいった。
「これでジーンは免許皆伝だ。おめでとう」
我ながら、よくぞこの高難易度のミッションをクリアしたと思う。
「本当かい!? やったー!! これで厨房に立てるぞ!! アムル本当に感謝するよ!!」
「おう! 頑張れよ!!」
◇
翌日、家の前にジーンがいた。
「おかしいんだ。僕のお茶を飲んだ領主さまがお腹を壊したらしいんだよ」
「……分かった。やってやる。やってやるぞ! ジーン、昨日の復習をするぞ!!」
ガシャーン!!
ドシャーン!!
ひぃいいいいいいい!!
この日、家の中から色々な物が壊れる音と少年の悲鳴が聞こえてきたという。




