Two Justice41話~クラウド編~
ナルシスからの潮の香りも遠退き、慣れ親しんだ空気が喉を伝う。セントラルクルス教会の敷地内に入れば更に懐かしく感じたが、今は懐古に耽っている場合ではない。
謁見の手続きを済ませ、白い石畳を踏みしめてピエールから指示をされた中庭へと向かった。中庭周辺は人払いがされているのか教会を巡回する騎士の姿すら見当たらない。
しばらくしてピエールとセディアが姿を現し、クラウドは片膝を着いた。
「お待たせしました。おや、クラウドだけですか。可愛い召喚士の少年にもお会いしたかったのですが」
「……申し訳ありませんが他の者は旅を続けております。私は少々調べ物をしたく、教会図書館重要文献書庫の立ち入りと閲覧の許可をお願いしようと戻りました。バスウン卿はどちらに?」
「まずは、第二位階として、あなたの調べ物は何なのか伺っておきましょうか」
「はっ。今回の旅で風の民なる召喚士の歴史に詳しい者に出会い、教会が召喚士と聖獣に深い係わりがあることを知りました。しかしこの先契約を果たす上での問題点が少々あり、教会の歴史に対応策があるかもしれないと、長からの勧めを受けました故でございます」
「その問題点とは?」
「…………」
斎の消滅――真実を言うべきか、言わざるべきか迷ったが、わざわざ悲しませる必要はない。
「聖獣の召喚をするごとに召喚士の体に負荷がかかっています。それを解消したいのです」
「ふむ」
悩む様子を見せたピエールが腕を組む。そして話を静かに聞いていたセディアがクラウドの前に屈んだ。
「クラウド、独りで悩みを抱え込むのは悪い癖だ。お前がその程度の理由で戻るとは思えんし、召喚士の力量次第で負荷は軽くなる」
「何故それを……」
「カズキ自身が感じていたことだからだ。故にザーニアで鍛練した時には、精神力に重きを置いた。他にも理由があるな?」
「――クラウド、先程あなたは聖獣との契約が問題だと言いましたね」
ピエールが髭をひと撫でした。
「あなたの憂いは私と斎、そして次期番人のことですか?」
「……っっ」
掌から汗がじわりと滲む。
「図星のようですね。すみません、あなたを騙したわけではないのですが、斎自身が聖獣の器だということは知っていました。そして、契約をすれば斎が消滅するということも。前任者からお話を聞いて、お伽話の域だと思っていましたので、正直余り実感はなく口にはしませんでした。ですが、ザーニアであなたがカズキ君を連れて来て、真実を受け入れました。私も斎も、もう覚悟はしているのですよ。ですから、あなたは次の番人を助けることだけを考えなさい」
「私は、ピエール様も斎様もお助けしたいのです」
「手を広げすぎては取り零してしまいます。一つの目的に向かって進みなさい」
「嫌です!」
「クラウド……」
クラウドは下を向き、拳を握り締めた。ありがたい申し出なのだろうが、どうしても納得がいかない。
「顔をお上げなさい」
優しい口調だ。上げた視線の先には力強く見つめるのピエールの緑玉がある。
「クラウド、私達のことを気遣って下さってありがとうございます。しかし、もう我々のような者を出したくないのです。できるならば番人という楔は無くしたい。ですから……できるならば、あなたのお友達をどうか助けてあげて下さい。余り時間もないのです」
「時間?」
「あなたが出発する少し前に、正規に決定した次期番人が私の夢見に現れています。本来ならばその時点で身柄を拘束しなければならない。あなたには次期番人が誰か分かりますね? 拘束する役目は、聖騎士団長の役目なのですよ」
「そんな……」
「クラウド頼む。あいつを、助けてくれ……。私はあいつを捕らえたくない」
「団長……」
「バスウン卿には私から話をしておきます。友人を助けるために、クラウドはすぐに図書館へ向かいなさい」
ピエールの気持ちは揺るがず、セディアの心は計り知れない。ならば自分にできることは、ライシュルトを助けることだけだ。
「――諒解、いたしました」
クラウドは唇を引き締め、深く頭を下げた。




