03
不機嫌そうに目をつぶり、神殿の扉に寄りかかるテオトバルトがいる。ちゃんと行きがけに言ったことを守ってくれたようで安心する。さすがテオトバルト。
「ただいま戻りました」
「遅いっ! どこに、いっ……て、た」
勢い良く顔をあげて、詰め寄ろうとしたテオトバルトの声が途切れる。恐らく、これを見て驚いたのだろう。
「魔王ってのは厄介なんですよね。中途半端にしぶといから、普通の剣や魔法で倒せませんし。勇者の剣でしか倒せないってどういうことでしょう。困ったお方です。だいたい、この剣が私しか扱えないということ自体、おかしいでしょうに」
身の丈ほどもある大剣を肩に担いだまま、テオトバルトに同意を求めた。その目はずっとこの剣に注がれているのは理解していたけれど、気にも止めず言葉を続けた。
「待て、それが?」
「あぁ、テオは初めて見ますか? えぇ、そうですよ。これが勇者の剣と言う名の子供騙しですよ」
こことは違う異界からやってきたというご先祖さま。その直系しか扱えないという勇者の剣。当時の資料を紐解いてみても、この剣のことなど一言も出てきはしないけれど、いつのまにか伝承されてきた、ただの大剣。
どう考えてもご先祖さまがこれを振り回せたとは思わないんですけどねぇ。
ヨシカワ直系のみに口伝されてきたこれを使うときがきたらしい。そこはさすがとしか言いようがない。
「このような見た目ですけど、実際は羽のように軽いですしね」
持ってみます?と肩に担いだ大剣を振り回して、地面へと突き刺す。動きに合わせて神官服がひらりと舞う。柄から手を離してどうぞと差し出した。
私と大剣を何度か見比べ、迷った上、テオは柄へと手を伸ばした。あと少し、触れるかどうかの距離でテオの指先が見えない力に弾かれる。バチっと大きな音を立て、痛みも生じたらしい。私を人を殺せそうな目つきで睨み付けると、鼻を鳴らしてその場を去った。
「ヨシカワ直系しか触れませんけどね」
指を鳴らして、大剣をしまい込む。さて、お迎えに上がりましょうね。
彼女と、この時代の役者達を。
「私と彼女、あとはそうですね、テオとヨシュカ、ぐらいでしょうか。あとは彼を勇者を仕立てて、魔王は……すぐに退場してもらいましょう」
18年前からからずっと思い描いてきた未来がすぐそこまで来ていることに、自然と笑みが零れた。
唐突に終わりまする。脳内補完が必須