2、当て馬妻の探し人。
「結局、ここに来ちゃったわね」
看板を見上げたステイシーはクラヴィルと初めて来た日を思い出し、クスッと笑みをこぼす。
『星屑シュガー壱番館』
王都の女の子達に人気のそのカフェには、女の子が大好きな可愛いとキラキラがぎゅぎゅっと詰まっている。
そのカフェの内装や用意されたお菓子やネーミング。王都では珍しいというより、ここ以外に見たことがないのに何故かとても既視感を覚える。
特に、SNS映えしそうな、という着眼点に。
ルシオンの妻は社交界で"ラガベル卿の秘宝"だなんて呼ばれているらしいが、多分ルシオンは初めから妻を隠す気なんてなかったのではないかと思う。
そもそも人一人を全く人目に触れさせず匿うなんて無理がある。
屋敷から一歩も出さないなら可能かもしれないが、アレキサンドライトの入った指輪を首から下げて愛を堂々と誓うルシオンが妻にそうするとは思えない。
ならば、見方を変えてみればいいのでは? と思考を巡らせステイシーがたどり着いた場所がここだった。
「さて、ここからどうしましょうか?」
店が終わるまで張っていれば出てくるかしら? と外からカフェを眺めていると、
「失礼ですが、ヘイリス公爵夫人でいらっしゃいますか?」
と、女性から声をかけられた。
アデルと名乗ったその人は、黒を基調としたカフェ店員の制服を着ているが佇まいが他の店員とは異なる。
ステイシーの沈黙を肯定と取ったらしいアデルはにこやかに店の奥を指し、
「もしよろしければ、ですが。店主がお会いできないか、と」
ここは目立ちますのでとにこやかに促す。
どうやら奥に関係者入口があるらしい。
どういう意図があるのかは読めないが、話がしたいと思って来たのだから向こうから招いてもらえるならステイシーとしてもありがたい。
「ええ、喜んで」
建物は2階建。いざというとき逃げ出せるだけの準備はしてきている。
早くなった心音に、大丈夫と言い聞かせステイシーは優雅に微笑んで招待に応じた。
通された部屋はカフェとは違い、シンプルで落ち着いた部屋だった。
物は少ないが置かれてある調度品も腰掛けたソファも一級品で、長居したくなるほど心地良い。
運ばれて来たカフェオレはカフェで提供されているものと同じものらしく、ミルクの甘みが口の中に広がって知らずに入っていた肩の力が抜ける。
この店を初めて訪れた際、
『星屑ビターラッシュ追加で』
と言ったクラヴィルのことを思い出し、ステイシーから笑みが漏れる。
推しの供給不足だわ、とステイシーが思ったところで。
「お待たせしました」
軽いノックと共に鈴を転がすような可愛い声が部屋に響いた。
現れたその人は出陣式があった日、ステイシーが見かけた彼女と同一人物。
水色のふわふわな髪と赤みがかったピンクの目。
クラヴィルとの結婚を決めた時からずっと探していた、この物語のヒロイン。
「アイリーン・アストレア様」
彼女が名乗るより早く、ステイシーが小説のヒロインの名をつぶやくと、
「ちっがーう! 今の私はアイリー・ラガベルだから!!」
秒で否定してきた彼女は、
「単刀直入に言うわ。私、ルシオン一筋だから!!」
ルシオンの瞳と同じ色をした指輪を見せると、
「私、原作とかどうでもいいし。物語壊しちゃったらどうしようとか、ヒロインへの罪悪感とかそんなの知らないから、クラヴィルと別れないで頂戴っ!!」
懇願するようにそう言った。
言葉の勢いとは裏腹にこちらを見据える彼女は微かに震えていたけれど。
怖い、けれど大事なモノのためには逃げない。
ピンク色の瞳からそんな強さを感じ取ったステイシーは、
「ルシオン様が奥様を大切になさっていることは存じております。私はただお話に来ただけですわ」
ふわりと優しく微笑むと、
「ずっとお会いしとうございました。アイリー様」
この世界での彼女の名を呼んで、自分にできる最大限綺麗なカーテシーをしてみせた。




