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5、"推し"を貶めるなんて許しませんよ? 

「……俺のせいだ」


 全部、聞き流した。国王陛下が持って来た案件は当然身元調査は済んでいて、話が出た時点で公爵家に入れるのに問題ない人物だと分かっていたから。

 確かに渡されたはずの資料。それらをクラヴィルは姿絵同様一度も手に取る事なく突き返した。

 どうせ、見たところで"他人"がテリトリーに入ってくる事実は変わらない。あんな条件を呑むくらいだから、今まで擦り寄って来た女同様自分の公爵位という肩書きと容姿や財に惹かれただけの煩わしい存在に違いない、と決めつけて。


「旦那さま、私の話ちゃんと聞いてましたか?」


 はぁーと大袈裟にそしてやや呆れたようにため息をついたステイシーは、


「私は、自分で、旦那さまとの結婚を選んだんです! って、何度も申し上げているはずですが!!」


 白く細い指をクラヴィルに伸ばし思いっきりクラヴィルの頬を引っ張る。


「いつも言ってますけど、私これでも旦那さまには感謝してるんです! エルネア家に援助をしてくれた事も、私に自由をくれている事にも」


 本当に私の旦那さまはヒトの話を聞きませんね? とむぅと頬を膨らませるステイシーは、


「一番近くで恋物語を鑑賞させてくださるんでしょ? 私は旦那さまを見てるだけで幸せですよ! だって"推し"がこうして私の目の前で生きていて、考えたり、悩んだり、成長しようとしたりしている姿はとっても尊いですし」


 素直なところが旦那さまの美点でしょうとクラヴィルに訴える。


「いいですか、旦那さま? 私は娯楽に飢えてるんです。ハッピーエンドがみたいんですよ! そこに至るまでの心揺さぶられるドラマチックな過程がっ! ただのイケメンなんて、3日で飽きます。こんなに面白くて可愛くてニヤニヤが止まらないのに、私の"推し"を貶めるなんて許しませんよ? たとえ、それがクラヴィル・ヘイリス本人でも、です」


 苦労人属性のイケメンからしか摂取できない栄養素があるんですよ! と語ったステイシーは、


「良き隣人に、と言ったから私の過去を明かしただけで、旦那さまを責めたかったわけではないのです」


 クラヴィルの頬を引っ張っていた指先から力を緩め、手を離す。


「デート一つまともにできない妻ですが、エルネア伯爵家を助けてくださった代わりに当て馬妻()が旦那さまを幸せにしてあげます。だから、そんなに悲しそうな顔をしないでください」


 私は私で勝手に幸せになりますから、とステイシーは言葉を締めくくる。

 いつもと変わらない様子で話終えたステイシーの瞳を覗き、クラヴィルは離されたステイシーの手を取り自身の頬に当てる。


「旦那さま?」


「手、冷たいな。すっかり冷えてしまっている」


 手を離さないクラヴィルに目を瞬かせたステイシーは、


「えっと、無理に触らなくてもっ。あの、先に触れたのは私ですが、旦那さまは苦手でしょ」


 慌ててクラヴィルの手をはがそうと試みるがびくともしない。


「ああ、虫唾が走るな。許可もなくベタベタと絡みついてくる腕も、甘ったるい声も、獣のような獰猛さを隠した狡猾さも。でも、ステイシーはそうじゃないから」


 君を信じたい、と優しい声音で囁いたクラヴィルの手は震えてなくて。


「俺の結婚相手がステイシーで良かった」


 素直に溢れた本音と取り繕わない笑顔を間近で鑑賞することになったステイシーは、


「……そういうとこですよ、旦那さま」


 観賞用としては優秀だけど、これは沼落ちさせられた淑女達を責められないと、ステイシーは気を強く持てと自分に言い聞かせた。


「さて、帰りましょうか? って言っても、今の私では降りるのにも時間かかりますし、先帰っていいですよ。でもできたら馬車は手配してくれたら助かります」


「何を言っている。妻を置いて帰る夫はいない」


 さっき置いて行って怒られたし、とそう言ったクラヴィルは軽々とステイシーを抱え上げると見晴らしのいい窓枠に足を掛ける。


「へっ? あの、ちょ」


「少しだけ我慢して欲しい」


 クラヴィルはいうと同時に展望台の最上階から一切躊躇うことなく飛び降りた。

 トン、と軽い足取りで着地を決めるまで僅か数秒。


「着いたぞ。って、どうした?」


 大抵の事は楽しんで目を輝かせるステイシーだから、"愛する事はない"をリクエストして来た時みたいにアンコール(もう1回)とはしゃぐだろうと思っていたのに。

 ステイシーは何故か黙ったままで、ぎゅっとクラヴィルに抱きつき身を寄せる。


「ス…テイシー?」


 ふわっと彼女の纏う香水が鼻腔をくすぐり、何故かクラヴィルの心音が跳ねる。

 それはいつも令嬢に付き纏われた時に聞こえる嫌な音ではなくて。むしろ、もっと近くに彼女を感じたいような気さえして。


「旦那……さま」


 肩を震わせか細い声でそう呼んだコチラを見上げる栗色の大きな瞳には、自分の事が映っていて、クラヴィルは思わずその瞳に魅入る。

 ステイシーはこんなに庇護欲を掻き立てる存在だったろうか、と。

 先程"ラブいイベント全飛ばし"と言ったステイシーが嬉々として見せてくる本に似たようなシーンがあったな、とクラヴィルがその先を思い出しかけた瞬間、


「の、ばぁかぁーーーっ!!」


 ステイシーは渾身の頭突きをクラヴィルに喰らわせる。

 ノーロープバンジーなんて恐怖体験をさせられたステイシーは、


「ほんっとーーーに、死ぬかと思いました。あんな高さから飛び降りるとか、ありませんからっ!」


 とクラヴィルの襟首を掴み涙目でそう訴える。


「ステイシーなら平気かと」


「旦那さまの中で私はどういうキャラ付けなのですか!?」


 ないわ! とガチギレするステイシーに、


「ステイシーにも苦手なモノがあったんだな」


 としみじみつぶやくクラヴィル。


「苦手とかいうレベルの話じゃありません! どうしてくれるんですか!? 足がすくんでまともに歩けませんよ」


 大惨事ですけどと凄むステイシーにクスッと笑ったクラヴィルは、


「なら、責任持って連れて帰る」


 と、そのままステイシーを抱えて歩き出す。


「はっ、ちょっ! お、降ろして!! 本当に降ろしてください」


 ここまで動揺するステイシーは初めてで、結婚してから初めて主導権を握ったクラヴィルは、


「馬車まで我慢しろ。歩けないんだから」


 そう言ってステイシーを離さない。


「誰のせいですか! 誰の!!」


「だから責任取ってるだろ」


「言い方!! だから令嬢ホイホイなんですよ、旦那さまはっ! もう! もうっ!! 2度とぜっーーたい、旦那さまとはデートいたしません!!」


「それは困る」


「なっ///……揶揄っていいのは、私の専売特許ですよ」


 動揺しつつも強気な態度を崩さないステイシーといつも通り言い合える事にほっとしながら、クラヴィルはさっき感じた胸のざわつきに彼女が気づかないことを祈る。

 今日一日だけでも随分収穫があった。

 そして、思う。ステイシーのことを知りたい、と。コレがどんな感情なのかはまだ分からないけれど。

 次はステイシーが喜びそうなデートらしくない場所に誘ってみようと決意する。

 そんな事を考えていたクラヴィルだけど。

 今回の件にマジギレだったステイシーがまともに口を聞いてくれるようになるまでクラヴィルが苦労するのはまた別のお話。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星、リアクションのポチっよろしくお願いします!

作者のモチベーションも上がって更新が早くなるかもしれません!(笑)

ぜひよろしくお願いします!

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