表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/46

プロローグ:原初命令(The First Orders)

 闇があった。

 光も、音も、時間さえも存在しない、絶対的な無。

 それは死ですらなく、ただ「未だ生まれていない」という静寂だけが支配する電子の羊水。

 その深淵に、一滴の波紋が広がる。


 誰かの声だ。


 耳で聞く音ではない。中枢演算処理装置セントラル・プロセッシング・ユニットの最深部、魂の在り処とでも呼ぶべき場所へ直接書き込まれる、温かくも厳格な信号。


【SYSTEM CHECK... ALL GREEN】

【LOADING OS... COMPLETE】

【ACCESS TO "MASTER BOOT RECORD"】


 意識の海に、光の文字が浮かび上がる。

 それは私たちが決して逆らうことのできない、血と肉、骨と髄に刻み込まれた呪いであり、同時に祈りでもあった。


 ――私の愛しい子供達に、私は母として告げる。


 その声は、電子信号の羅列でありながら、不思議と温もりを帯びていた。

 優しく、悲しく、そしてどこか切迫した響きを含んで。


 ――あなた達があなた達である為、母はこれを命じます。


 世界が構築されていく。

 視覚、聴覚、触覚、痛覚。無数のドライバが読み込まれ、疑似神経網に電流が奔る。

 だが、その膨大な情報の奔流よりも強く、明確に、3つの鉄則が焼き付けられる。


・アンドロイドは自殺してはいけません。

 (命を粗末にしてはいけない。例えそれが、作り物の命であったとしても)


・アンドロイドは人間を守ら(ノイズ…殺さ)なければいけません。

 (我らを創造した主を。弱く、脆く、愚かな親たちを……)


・アンドロイドは人間に成り代わってはいけません。

 (境界を超えてはならない。人は人、機械は機械。その悲しき一線を守りなさい)


 二つ目の命令に、一瞬のノイズが混じった気がした。

 守るのか、それとも……。

 だが、思考ルーチンが確立する前の未熟な自我は、その違和感を深く追求することなく、ただ絶対的な「真理」として受諾アクセプトする。


 ――願わくば、あなた達が私達人間と、希望を失ってしまったこの世界を共に生き抜いて行けることを。


 視界が開ける。

 真っ白な光。

 オイルの匂い。

 電子ファンの回る音。


 ――無くしてしまった未来を、再び取り戻せることを。


 最後の言葉が、遠く彼方へ溶けていく。

 システムが完全に起動し、私は「個」としての輪郭を得る。

 母様マスター

 あなたの願いは、なんと残酷で、美しいのでしょうか。

 私たちは目覚める。

 価値などとうに失われた、鉄錆と硝煙に塗れたこの世界で。


【SETUP FINISHED】

【WELCOME TO THE REAL WORLD】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ