空を泳ぐ魚 ー葵ー
いつもくだらないことで突っかかってくる嫌な奴だった。
でも、本当は優しい君のこと、僕は愛しているし、愛してくれてるって信じてた。
だから、なんだって受け止められたんだよ。
けどね、優しいはずの君が、僕といるとおかしくなってしまうから。とっても苦しそうだから……。
──きっとこれで、よかったんだ。
「こんなつもりじゃ、なかったんだけどなぁ」
マンションのベランダで、コウセイはそんなことを言いながら、僕が隣にいることなんておかまいなしに、煙を吐いた。
「煙草、やめようよ」
「最後の一本」
当然だ。ベランダには灰皿にも入れずポイ捨てされた吸い殻が、そこかしこに散らばっている。 吸いすぎだよ。
「お前には伝わってなかったかもしれないけどさぁ。愛してたんだ。この上もなく」
「うん、大丈夫。知ってるつもり」
「はぁああああ……」
コウセイは大きなため息と一緒にまだ中身の残る煙草の箱をグシャっと握り潰す。
そして、それをベランダから外に落とし、はるか地上へと落ちるさまを眺めた。
「あーあ……。ポイ捨て」
「こんなことしたら、お前は怒る?」
「僕が怒るかどうかなんて、気にしたの久しぶりじゃない?」
「拾いにいくかな」




