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空を泳ぐ魚  作者: 冲田いつき


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2/6

突然現れた甥っ子

 ーside 孝成ー


 大学の授業が終わって一人暮らしのマンションに戻り、エントランスでオートロックキーを開けようとした時のことだった。

 

 「あの、孝成(こうせい)さん、ですか?」

 

 突然、大きなボストンバッグを抱えた見知らぬ青年に 声をかけられた。 


 「はぁ……そう、ですけど?」


 「良かった。僕、ずっと孝成さんを待ってたんです」


 「えっと……君は……」


 「孝成さんの(おい)、ですかね?」


 「はあ? いや、俺に甥とか……しかも、え、高校生……?」


 「十七歳です」


 「なおさらですよ。十七歳の甥とかありえないので、人違いじゃないですか?」


 「でも、もらってる写真と同じ顔してますし、マンションもここだって教えられましたし……」


 「その写真とか、住所とか、誰に?」


 「孝成さんのお兄さんです」


 「……あんのクソ兄貴……。

  わかりました。あいつ(つな)がりならしょうがないし、とりあえずここで問答(もんどう)しててもアレなんで、うち 来てください」


 「ありがとうございます!」


 ひとまずは、俺の甥と主張する青年を家に上げた。怪しさはあるものの、あの兄のことだ。ちらと聞いた彼の話はまったくの嘘とは思えなかったのだ。



 青年をソファに座らせ、自分はキッチンに向かう。


 「コーヒーでいいですか?」


 「あ……ええと……。 はい。それで」



 居心地わるそうにソファに浅く座る青年の前にコーヒーを置き、自分も向かい側に座った。


 「で、(くわ)しい話、聞かせてもらえますか?」


 「はい。あの、僕、(あおい)っていいます。一応、孝成さんのお兄さんの息子です」


 「(いく)つの時の子だよ……。十歳とか? て、んなわけないわな」


 「はい。一言でいえば、連れ子ってやつです」


 「兄貴が結婚してるのすら知らなかったわ……」


 「正確には結婚はしてないみたいなんですけど。俺の戸籍(こせき)(じょう)の母とお兄さんが内縁(ないえん)関係というか……」


 「何、その微妙な言い方」


 「ええっと……僕を産んだ実の母の再婚相手の再婚相手が今の戸籍上の母で、その母がお兄さんと不倫(ふりん)(すえ)に結ばれたようでして……」


 「実の母の再婚相手の……なんだって?? よくわかんないけど、それはもはや他人では……」


 「ええ。その通りですね。だから今、ここにいるんでしょうね。

  あ、そういえば、お兄さんから手紙(あず)かってます」


 「はじめにそれ見せてくれたらよかったのに……。ええっと……

 『俺は生涯(しょうがい)をともにする運命の女性に出会った。しかし、その女性は悪い男に(だま)されて、血のつながりもない子供を押し付けられて身動きが取れない。

  悲しいかな、俺もお前の知っている通り、立場上、この子供を認知(にんち)することは難しい。

  そんな時にお前のことを思い出したというわけだ。そろそろ、人と向き合って……』まあこの辺は読まなくていいや。


  『あと、俺のおかげでそのタワマンに住めてるんだから、断る選択肢はないからな。じゃあ、まかせたぞ』

   ……って……! あんのクソ野郎!! 任せたって、んな無責任な!」



  と、悪態(あくたい)をついたところで、ハッと、手紙を音読をしてしまったのは不味(まず)かったかと思い直す。

  つまり、葵くんにとって両親にあたる人物に厄介払(やっかいばら)いされたという内容じゃないか。

  葵くんは、ちょっと複雑(ふくざつ)そうな笑顔を見せた。



 「あの……ごめん。なんというか……、大変そうだな……」


 「そう。大変なんです。なので、その手紙にある通り、今日からよろしくお願いします」

 葵くんは、身を乗り出した。必死の形相だ。


 「いや……でも、現実問題……。急にそんなこと言われてもな……。俺もまだ大学生だし……」


 「行くあてが他にないんです。孝成さんにすがるしか、できないんです。お願いします。なんでもしますから、ここに置いてください」


 「うぅーん……。えーっと、じゃあ、とりあえず、今日のところはいてもいいから。兄貴にも連絡とってみる」


 その後、兄貴に電話やらメールやらをしてみたけれど、見事にすべて無視された。

 とはいえ、もし無事に連絡が取れたとして。じゃあ、気が変わってあの兄貴が葵くんを引き取るのかと考えると、そうは思えない。

 初めに話した後からはソファにも座らず、居心地悪そうに部屋の(すみ)(ゆか)でジッとしている葵くんを見て、覚悟を決めるしかないな、と思った。

 この俺が、誰かと上手(うま)()らしていけるのか……わからないけど……。


 「本当に部屋の一部を貸すだけっていうか、何かしてやれるわけじゃないけど……。それでよければ、いいよ。うちにいても」


 「本当に⁉︎ ありがとうございます!」


 「名前、呼び捨てでいいし、敬語(けいご)もなしでいいよ。どうせ一緒に住むなら、仲良くしていきたいから」


 「うん、わかった! コウセイの言う通りにするね!」

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