もう一つの世界の生き物
引き続きケン視点
白い鬼はシーギャングに向かい話しかける。
「コノバニ"バサク"トイウオニハ、イナカッタカ?」
シーギャングたちは白い鬼に話しかけられるが、喋ることが出来ていない。
「ドウシタンダ?バサクトイウオニ、シラナイカ?」
「し、しらねぇ……!」
「ソウカ」
声も絶え絶えで、震えながらも絞り出したかのように声に出す。シーギャング兄は、まだ何かを言いたげに口をパクパクしながらも声に出すことが出来ていない。
怖い……助けて……重力が反転し、空に放たれ何もすることが出来ないようなそんな感覚にも襲われ立ち上がることは出来ない。
その間ずっと下を向いて震えているしか出来ないでいる。
すると、ポンっと音がしそうな優しい力で背中を何回か叩かれた。不思議に恐怖心が和らいでいく。顔を上げると、白い鬼がすぐ横にいて背中を優しく叩いていた。今はデモンズ・エンブレイスの効果が薄れてる。どうして?
デモンズ・エンブレイスは恐怖心を煽り使用者を含めその場にいるものを3分~5分程度動けなくするスキルだったはず。耐性?でも恐怖耐性も貫くスキルだったはず……。
「"バサク"トイウモノハ、シッテイルカ?」
「ばさく?聞いたこと、ない。です……人?ですか……?」
呼吸を整えていると、白い鬼が訪ねてきた。バサクという人物は聞いたことがない。それに、この鬼の近くならこの恐怖にも耐えれる。
「イヤ、オニダ。ソイツニヨウガアル」
そう言い白い鬼が立ち上がり、シーギャングの方へ向かっていく。
するとまたあの恐怖が湧き上がってきて体を縮こまらせ震えるしかできなくなってしまう。
怖い……助けて……
ただ、白い鬼が近くに居たときの力強さを思い出し、白い鬼のようになれれば出来ることも増えると考え、まずはこの恐怖に立ち向かう為に、自分の魔力を気力に変えて、持ちうる気力で立ち上がる。
──スキルを獲得しました、理を追いし者──
ふー。と息を整える。大丈夫だ。これはただのスキル。落ち着け私。
かなりの汗をかき、床に汗が滴り落ちる。
まだ恐怖心でまともには動けないが思考は少し出来るようになってきた。あの鬼の存在がなんなのか考えても理解が及ばない。
それに、デモンズ・エンブレイスは使用場所が難しいが特定の条件ではかなり強い為、高値で取引されているのはみたことがある。
嘘か本当か分からないけど、一度街に出た空飛ぶドラゴンにも効果があったようで、討伐に成功した。といううわさも聞いたことある。なのになんであの白い鬼は普通に動けるの?
デモンズ・エンブレイスの範囲は使用者から最大で約1km程。維持時間中にその範囲内に入っても効果はなかったはず。だから街などでは最終手段として使われることがあるとも聞いたことがある。
ドラゴンにリッチ、今はこの2つのモンスターだけ聞いたことがあるけど、どちらにも効果的だった。物理耐性が高いドラゴン。魔法耐性が高いリッチ。その2体にも効果的だったのに……。それなのになんで?やっぱりわからない。
「な、なぜ動けてる!」
シーギャングの弟が驚くことに動けるようにはなっていたが、白い鬼が普通に歩いて来ることに同様が隠せていない。兄も動いている。デモンズ・エンブレイスはダメージで効果が切れたはず。もしかして腕の怪我がダメージ判定で動けてる?
そう考えると、シーギャング弟が常に余裕だったことにも納得がいく。それがなくてもあの強さだ。普通に闘っていたらうまくいってもやられてた未来を考えて怖くなってしまう。もっと強くならないと。そう強く決意する。
そして、まずは自分が少ない負傷で生きていることに感謝する。
「ナンデッテ、ナニカシタノカ?」
「チッ、化け物が」
そう言い残し、後ろを振り返り全力で逃げ始めるシーギャング。あの腕で動けるのには驚いたけど、足もフラフラでかなりきつそうにしている。
白い鬼は追いかけることなく、気絶している中津の横を中津を見ることなく降りていく。
外にはもう、かなりの距離を逃げているシーギャングが見える。そして、その向かう方向には何か、見たことがある生き物がいた。