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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『小麦畑と蒸気機関』
92/112

92 ~【S】クラス冒険者〜

すみません、思ったより話動き出しませんね

次回あたりからだと思います


 ふたりが『砂岩の蹄鉄亭』に帰り着いたのは、ちょうど日が暮れる頃だった。 自分たちの部屋がある三階の廊下に上がると、足音を聞き付けたのか客室の扉が勢いよく開いてフィオナとルシオラが飛び出して来た。 どうやらふたりとも、ブライの店で話し込んでいる間に帰って来ていたようだった。


「おかえり、シン!」

「お帰りなさいませ」


 ユリウスたちが戻った事がそんなに嬉しいのか、ふたりとも満面の笑顔で出迎えてくれた。


「ただいま。 もうみんな夕食は摂ったのかな?」

「いいえ、まだです── そんなコトよりっ! お見せしたい物があるんですっ!」

「わたしもっ わたしもっ!」


 どうやらふたりとも、それぞれ何かしらの収穫があったようだ。 なるほど道理で。 今朝別れたばかりなのに廊下まで飛び出してくるとは(いささ)か大袈裟だとは思っていたが、これで彼のささやかな疑問は氷解した。


 四人はユリウスの部屋に入ると、いつものように寝台に腰掛けて一息ついた。 ユリウスとメナスが装備を外したり靴の汚れを落としている間、ふたりの乙女は落ち着かない様子でもじもじとお尻を動かしている。


「それでどうしたんだ? 何か良いコトがあったみたいだけど」


 ユリウスの問いにふたりは顔を見合わせてから声を揃えて応えた。


「私たち、新しい魔法を覚えたんですっ!」

「わたしたちっ 新しい魔法を覚えたよっ!」


「へぇ〜凄いな。 フィオナもなのか?」


 ルシオラが新しい神聖呪文を授与されるのは充分予想出来たが、まさかフィオナまで魔法を会得して来るとは。


 (サムライ)のフィオナは、優れた身体能力だけでその適正条件を充分に満たしてしまったが、実は魔法適性は平均以下だったのだ。 それでもなお冒険者適性は【A+】の判定なのだから、彼女の潜在能力には目を見張る物がある。


「へーすごいねー どんな呪文を覚えたの?」


 流石のメナスも、これには興味津々だ。


 ふたりは再び顔を見合わせると、互いに譲り合うように肘でつつきあった。


「それじゃあ…… 私から」


 根負けして先に立ち上がったのはルシオラだ。 彼女は廊下に飛び出して来た時からずっと筒状に巻いた羊皮紙の巻物を胸に抱きしめていた。


「見て下さいっ! 私、さっき冒険者ギルドに寄って適性検査を受け直して来たんですっ!」


 普段は知的で落ち着きのある彼女だったが、余程嬉しいのか興奮を抑えきれないようだった。


 手渡された羊皮紙をユリウスが丁寧に開くと、それは冒険者ギルドで検査して貰える適性検査の結果が記されていた。 タブレット型の【魔道具(アーティファクト)】に表示された結果をギルド職員が羊皮紙に書き写した物で、ご丁寧に冒険者ギルド王都本部と担当職員の大小二つの証明印が押されている。


 ユリウスはゆっくりとその内容を(年齢や体重などは省いて)読み上げた。


──────────


ルシオラ・スキエンティア

23歳 【司祭(ビショップ)】 血液型A

身長163cm 体重49.5kg

生命力 :  16

魔力  :  18

腕力  :  9

知力  :  19

体力  :  14

信仰心 :  22

頑強さ :  15

器用さ :  16

敏捷性 :  13

運気  :  19

総合判定 : 【S】


『習得魔法』

神聖魔法

ランク4(2)

神の拳(ゴットファウスト)

新【中位治療(ミドル・ヒール)

新【解毒(アンチドート)

ランク3(3)

低位不死者撃退(ターン・アンデッド)

空気の盾(アトモス・シルト)

新【空気の地雷(アトモス・マイン)

ランク2(3)

加護の付与ホーリー・エンチャント

加護の祈り(ホーリー・プロテクト)

ランク1(5)

沈黙(サイレンス)

治癒(キュア)


魔術師魔法

ランク2(1)

新【念話(テレパシー)

ランク1(3)

新【魔法の矢(マジック・ミサイル)

新【永続する光コンティニュアル・ライト


──────────


 習得魔法の内、『新』の表示がある物が今回新たに習得した魔法だと言う。


 ユリウスは一瞬言葉を呑んだ。


「す…… 凄いじゃないか! 一度に六つも呪文を覚えるなんて── しかも魔術師魔法まで…… 【司祭】に転職⁈」

「すごいねー ルシオラも【S】クラス冒険者になったんだー」


 横から覗き込んでいたメナスが呑気にのたまう。


「はい、なっちゃいました」


 ルシオラは、幼い少女のような屈託のない笑顔を見せた。


「なぜか身体能力まで向上してて…… これもきっと、ユリウスさまに全身の魔素(マナ)の流れを整えて頂いたお陰ですね!」

「ほんとすごいよね〜 わたしもまた適性検査受けてみようかな〜」


 フィオナも羨ましそうに羊皮紙を覗き込んでいる。


「そうしてみたらー フィオナも絶対【S】クラスになってるよ」


 全くの素人だった時にさえ【A+】の判定結果を叩き出したフィオナだ。 経験を積み、ルシオラ同様身体の魔素の流れも整えて貰った彼女が、既に【S】クラスの資格を有しているのは想像に難くなかった。


「あ、でもぉ〜 わたしはまだいいかな〜」

「どうしてだ? 今のフィオナならオレも【S】クラスは間違いないと思うぞ?」


「だって…… わたしまで【S】クラスになったら、シンだけ……」


 そうだった。 ユリウスは【D-】判定の冒険者なのだった。 これは、彼自身の規格外の『魔力』と『知力』を隠すために、チョーカー型の【 魔導具(アーティファクト)】で偽装しているからなのだが…… そのため厄介な事に何度測り直しても結果は変わらないのだった。


「そんなコトは気にしなくていいよ。 受けたいなら受けてくればいい」

「うん、でもこれから忙しくなるんでしょ? だからまた、いつかでいいよ」

「そうか、そうだな」


「ところで、フィオナの覚えた魔法って?」


 余程気になるのか、メナスが興味津々で尋ねてくる。


「えっ…… そ、それもまた今度でいいかな? ルシオラの凄いのの後じゃ、なんか言いにくくなっちゃったよ……」

「そんなの気にするなよ。 何を覚えたんだ?」


「それより、シンたちはどこで何をして来たの? もう教えてくれてもいいんでしょ?」


 本当に気になっていたのか、それとも話題を変えるためなのか、思い付いたようにフィオナが質問する。


「そうだな。 そろそろふたりにも話しておかないとな……」

「何をですか?」


 ユリウスの雰囲気が変わったのに気付き、ルシオラも居住まいを正す。


「うん、そうだね。 お腹も減ったし、食堂に夕食を持って来てもらって食べながら話そうか」

「さんせー!」

「さんせ〜!」


 メナスとフィオナが、嬉しそうに声を揃えた。


 四人は宿屋の一階に併設されている食堂から夕食をテイクアウトすると、ユリウスの部屋に戻って卓を囲む。

 飲み物はメナス以外の三人は蜂蜜酒(ミード)を、メナスはリンゴのジュースを注文した。 蜂蜜酒を一口舐めて一息つくと、ルシオラが口を開いた。


「それで、何かあったんですか?」

「うん、実は──」


 ユリウスは先ず、アウレウス帝国の皇女だったラウラが、あれ程の危険を冒してまで王国へやって来た本当の理由をふたりに説明した。


 帝国が近くツェントルム王国に向け侵攻を企てている事。 既に帝国は【ドワーフの大洞窟(グレート・ダンジョン)】の入り口を発見している事。 そのため【ドワーフの大洞窟】を地下から進軍し、王国各地の地下から一斉に奇襲をかける計画であると言う事。


 ラウラはそれらを報せるために、祖父のいる王都への里帰りを装って己の身の危険も顧みずに決死の来訪を決行したのだった。


「そんな…… 王国と帝国が戦争だなんて…… こわいよ…… わたしたち冒険者にできるコトなんかあるの……?」


 流石のフィオナも、その表情は心なしか青ざめていた。 ルシオラも落ち着かない様子で眼鏡に指を掛ける。


「それはギルドも承知しているのでしょうか?」

「おそらくね。 少なくともギルドマスターのエルツと、チーフ・オフィサーのマルモアは知らされている筈だ」


 それからユリウスは、帝国の【ドワーフの大洞窟】の探索が【死の谷の洞窟トートタール・ダンジョン】の地下深くで長い間阻まれていた事。 その原因が、そこに寝床を構えていた【漆黒の暴竜ルイン】だった事。 つい最近、そのルインが何者かによって滅ぼされた事を話した。


「それって、まさか──」


 手の平を口元に当てて、ルシオラが息を呑む。


「え、なになに? ルシオラ知ってるの?」

「いえ、シャウアを、ふ── 回復させて頂いた時に…… ユリウスさまが倒した(ドラゴン)……?」

「うん、そうみたいだ……な」


 何となく居心地が悪くて、ユリウスは視線を逸らして頭を掻いた。


「え〜〜っ⁈ そのドラゴンをシンが倒したから帝国が調査を再開しちゃったのぉ〜〜⁈」


「うん、だからどうしても【ドワーフの大洞窟】の入り口を確かめて、帝国が通れないように障壁を張って置きたかったんだ」

「それで見つかったんですか? 入り口は?」

「あぁ、見つかったよ。 予定通りとはいかなかったけど、ちゃんと障壁も用意出来た。 これでしばらくは帝国の調査隊も足止め出来るだろう」

「そぉなんだ〜 よかった〜」


 フィオナがそっと胸を撫で下ろす。


「今度、時間が出来たらみんなで行ってみよう。 伝説の古代遺跡(ダンジョン)と言うだけあって、中々に興味深い場所だったよ」

「そうなんですね…… いずれ是非」

「わたしもっ わたしも行ってみたぁ〜い!」


 もうひとつの目的、【転移門(ゲート)】の呪文で【死の谷の洞窟】の地割れ(クレヴァス)の奥に叩き込んだ、あの【アダマンタイト・ゴーレム】の少年がどうなったか確認する事……は、今はふたりには話さなくてもいいだろう。



 気持ちが沈みがちな話題が続いたからだろうか…… 蜂蜜酒を空けるルシオラのペースが早くなってきた気がする。


(ユリウスさま…… ユリウスさま、聞こえますか?)

(……⁈ ルシオラなのか?)


 突然頭の中に声が響いてユリウスは面食らった。 それはルシオラからの初めての【念話】の呪文だった。


(よかった…… これでいつでもお話できますわね)

(そ、そうだな)


 【念話】は中級の『魔術師系』呪文でそれほど珍しい物でもないが、双方向会話をするにはお互いが術を使えなければならないので、一般にはそんなに普及していない魔法だ。


(しかし、こういうのは感心しないぞ? フィオナの目の前で内緒話みたいなのは……)


 今まで散々ふたりの前でメナスと【念話】していた自分が、どの口で言うのか── というのはさて置き、そういう魔法がある事を仲間内で周知された上でのマナーは今後徹底していがなければならないだろう。


(わかっています。 今夜だけは特別ですわ)

(そうなのか?)

(愛しています、ユリウスさま。 初めて会った14歳の少女の頃からずっと……)


 もうだいぶ蜂蜜酒が回っているのか、ルシオラの頬はうっすらと朱に染まり、深い海のような碧色の瞳を潤ませている。


(私も愛しているよ、ルシオラ)


 ユリウスは、ここで誤魔化したり返事を濁してはいけないような気がした。


(安心して下さい…… 私、フィオナのことも本当に大好きなんです)

(うん、知っているよ)

(あの子のお陰で…… あの子がいたからこそ、私はユリウスさまと再会できて…… こうして結ばれることが出来たんだと思います)

(本当に…… そうかも知れないな)


 ユリウスとルシオラは…… メナスと談笑しながらチキンを頬張っているヒマワリの花ような少女を眺めた。


 ふたりの視線に気が付いたフィオナが、小首を傾げてこちらへ振り向く。


「どしたの? わたしの顔に何かついてる?」


 その何とも言えないあどけない表情に、思わずルシオラは抱きついていた。


「フィオナ、だぁ〜い好き‼︎」

「ちょ…… ちょっとルシオラ、どしたの? ちょっと酔いすぎじゃないのぉ〜」


 そう言うフィオナの顔は、満更でもない表情をしている。


 そんなふたりを見つめながら、ユリウスは胸の奥に暖かいものが広がっていくのを感じていた。


そろそろ4年前に描き貯めたストックも無くなりそうになってきました 少し前に何話か書けて20話+1話ありますので、あと一週間くらいは毎日更新も可能ですが…… あんまりキッチリ決めるとしんどいので努力目標ということでよろしくお願いします

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