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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『小麦畑と蒸気機関』
110/111

110 ~商業都市ハンデル〜

ご無沙汰しております

ちょっとたてこんだり、行き詰まったりしておりました


 ユリウスたち一行は、予定通り翌日の午後過ぎには商業都市ハンデルと工業都市インドゥストリに到着した。


 厳密に言えば到着したのはハンデルだ。 ハンデルは街道を挟む形で大陸中央部の宿場町から発展していった大商業都市で、インドゥストリはそこから北に徒歩で30分くらいの距離にあった。 インドゥストリは鉱山や石切場の宿泊施設だったものから始まって、様々な工房や工場が集中する一大拠点へと発展していったのが現在の大工業都市の姿だ。 さらに北に行くと小さな炭鉱もあって、今でも細々と石炭が採掘されていると言う。


 一行は先ず、ハンデルで宿を取りそれから活動の方針を決める事にする。 宿は冒険者ギルドと提携しているものがハンデルにもあるそうなので素直に訪ねてみる事にした。 安全かつ適正価格の宿を探すのは、なかなか時間のかかるものだ。


 実はハンデルにも冒険者ギルドの支店は存在する。 しかし、連絡や情報の共有にいちいち時間がかかるため基本的には独立した活動をしているらしい。 現にユリウスたちも、このクエストに出立するにあたり、数通の手紙や書類の運搬を頼まれたくらいなのだ。 こちらの支店にも連絡は届いていたらしく、噂の【SSS+】判定冒険者パーティーとして歓迎を受けた。 ──と言うより、好奇の視線の的となった。


 この支店にも、ミュラー師のあの石板が一枚あって、是非ともメナスを判定させて欲しいとせがまれた。 ここで印象を悪くしても仕方がないので快諾すると、予想通りちょっとしたお祭り騒ぎになってしまった。


 ギルド職員や居合わせた冒険者達から食事の席に誘われたりしたが、王の印璽のある依頼証を見せたら流石におとなしく引き下がってくれたのが幸いだ。 なにせメナスを始め、彼らのパーティーは美少女揃いなのだ。 内心ユリウスも気が気ではなかった。


 滞在中なるべくここには立ち寄らない様にしようと、ユリウスは密かに決意した。


「ここがハンデルか〜 なんか王都ともぜんぜん雰囲気がちがうね〜」

「私たちも、かなり久し振りだから……」


 馬車の窓から街並みを眺めながらフィオナが呟く。 街道沿いの中心付近には大きい建物が多いが、東西の端の方には宿場町だった頃からある古い建物もそれなりに残っていて風情がある。 一度も訪れた事がないのは彼女とメナスだけだが、ルシオラもラウラも旅の宿として通ったくらいだし、ユリウスも最後に訪れてから10年くらいは経っていた。 ほとんどが問屋を含む商店や飲食店、宿屋などで、少し裏路地に入ると怪しい店舗や倉庫街などもあるらしい。 ギルドに紹介された宿屋も、中央街道から一本北側に入った路地にあった。 


 宿屋の看板には【荒野の憩い(オアシス)亭】とある。 何の捻りもない素朴なネーミングだが、看板を見上げたユリウスの顔が少し自嘲げに沈んだのをルシオラは見逃さなかった。


 ──荒野のオアシスから彼が想起したのは「逃げ水」 だ。 それは彼の心に暗い影を落とす記憶だった。 しかし、そんな事をルシオラが知っている筈もない。


 宿の前に馬車を停めると取り急ぎ部屋が空いているかだけ確認し宿屋の指定する馬留めへと馬車を移動する。 例によって4人部屋と2人部屋をひとつずつ取り、ユリウスとメナス、残りのご婦人方4人で部屋を分けた。


 時間があれば中央街道沿いの店を一巡りしたい所だが、そろそろ日没も近く旅の疲れもあったので宿の近所の料亭で早めの夕食を摂った。


 商業都市は王国のほぼ中央にあり、各地から様々な品物が集まる中継地点だ。 食材もまた例外ではない。 なんなら貴重で高級な海産物は、港町であるハーフェンよりも豊富なくらいだった。


 つい昨日、大型の魔獣を狩ったのと関係あるのかは分からないが、一行は肉料理には目もくれず大量の氷に囲まれて運ばれてきたと言う珍しい海の幸にありついた。 ユリウスたちはハーフェンにもほとんど出回らないという、珍しい種類の高級魚やチョウザメの卵なども試してみたが、正直味は値段に釣り合っているか疑問だった。


 砂漠のルベール族出身とは言え一時は帝国の皇女だった事もあるラウラは、海産物にも慣れているかと思えばそうでもなかった。 帝国でも魚介類の流通は難しいのか、それとも単に彼女に与えられなかっただけなのかは分からないが、ボイルしたエビや貝のソテーを恐る恐る口に運ぶ姿が微笑ましい。 メナスはというと、相変わらず給仕の女性にイカスミのパスタがないか尋ねていたし、フィオナは三皿目のロブスターを注文したところでルシオラに嗜められていた。


 ちなみに会計の額もハーフェンの比ではなかった。 しかし、長い滞在の最初の夜という事で良しとする事にする。


 その後一行は、宿の4人部屋に集合して今後の予定を確認する事にした。


「それじゃあ、全員で行動すると効率が悪いから二班に分けるのは賛成でいいかな?」

「うん、まぁ仕方ないよね。 観光じゃないんだしね」

「意義なーし」

「それで── キアラは心当たりのリストを用意出来たかい?」


 リストと言うのは「例の蜂型ゴーレムを悪用しているのがミュラー師以外の第三者だった」として、当たってみるべき工房や流通ルートなどの事だった。


「うん、頭の中にはもうあるんだけど…… どうせそっちは私が回ればいいと思うから」

「ハンデルを回る班とインドゥストリを回る班、二つに分けるつもりだったんだけどな」

「え〜 それだと片っぽしか観光できなじゃん」

「だから観光じゃないって、自分で言ってただろ?」


 思わず本音の不満を漏らすフィオナに、ユリウスが苦言を呈する。


「もう一班は、正直に言って時間稼ぎが第一目的だったからな…… 一応、蜂や【彷徨える魔獣(ストレンジャー)】── それから、ミュラー師の行方や秘密の工房の手掛かりも探してみるか……」


 言いながらもユリウスは、全てが徒労に終わりそうな予感をひしひしと感じていた。


「それじゃあ班分けはどうしようか? 取り敢えずリーダーは、オレとキアラで分けようかと思うんだけど……」

「私はキアラさんの班がいいです! 是非キアラさんに魔素機関(マナ・エンジン)や蒸気機関の工房を案内してもらいたいわ」


 熱のこもったラウラの発言に、一同はさもありなんと頷く他はなかった。


「私は大歓迎よ」 と、キアラが応える。


「う〜ん、そっちも魅力的だけど、わたしはシンといっしょがいいなぁ〜」

「そ、その…… 私も……」


 フィオナのあけすけな希望に、ルシオラが珍しく焦りを見せた。


「それなら僕は、お姉ちゃんたちの班かな?」


 メナスの声に、一瞬室内に沈黙が降りた。


「そうだな、二人とも魔術士(ウィザード)だし護衛が必要かな」

「いや、別にダンジョンに行くわけじゃないんだから……」


 言葉は穏やかだったが、キアラの声には、はっきりと拒絶の響きが含まれていた。


「でも大都市で女性ふたりというのは──」

「大丈夫だって! ここは私の地元だし、知り合いも多いんだから。 それに、そのコを連れて歩いてたら、その知り合い達にいちいち説明するのが面倒くさいじゃない」


 そうなのだった。 メナスの姿は7年前のキアラを模して造られているのだ。 キアラに妹がいない事を知っている知人もいるだろうし、何にせよ注目の的になる事は本意では無い。


 そもそもソレ(・・)ではなくそのコ(・・・)と呼んだのが、今のキアラに出来る最大限の譲歩だった。


「そうだな…… それじゃあ、キアラとラウラ。 あとはオレたち4人の班分けで行くか」

「私もそれで構いません」

「そうですね、少し心配ですが【S】判定のお二方なら……」


 実際にはキアラは【A】判定なのだが、ラウラと一緒ならあの騎乗型ゴーレムをいつでも取り寄せる事が出来る。 確かにその辺の冒険者とは、すでに格が違うのかも知れない。


 結局その班分けに落ち着き、翌日から情報収集のため活動を開始する事になった。 最初の日は── ラウラのたっての希望で、キアラたちの班がインドゥストリに向かう予定だ。 毎晩この宿に戻ってきて情報を共有すべきだと思うのだが、どうやらふたりはインドゥストリのキアラの借家に何泊かしたいようだった。 どうせ【念話(テレパシー)】で、いつでも連絡できるのだ。 ユリウスは折れるしか無かった。


「やったぁ〜 明日はハンデル観光だぁ〜」

「だーかーらー」


 はしゃぐフィオナにツッコミを入れるメナスを横目に、ユリウスは眉間を抑える。


 商業都市ハンデル、最初の夜が更けようとしていた。


実は予定していた話数でキリよく三章目が終わるか不安になったので、とりあえず予定の話数までファイルを作って仮タイトルを付けて、書けるところから埋めていくという作業をしていました まだまだ収まるかは分かりませんが、110話目は出来たので投稿させて頂きました

よしなに

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