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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『小麦畑と蒸気機関』
109/112

109 ~ライノテリウム〜

ようやく戦闘に突入しますね

これからは、およそ一週間に一度くらいとも決めず書いた端から投稿しようかと思っています

どうせ推敲しても、章が完結したらまた手を入れたくなる予感がしますので


 その異邦の一角獣は、ユリウスたちパーティーを見つけ激しい警戒感を露わにしていた。 蜂型ゴーレムの影響下なのか異様な興奮状態にあるように見える。 放置して逃走という選択肢が取れない以上、闘いは避けられないだろう。


「なぁ、オレとメナスに任せてくれないか? 出来れば捕獲したいが、君たちを危険に晒したくはないんだ」

「あの【ライノテリウム】に罪はないけど、蜂型ゴーレムが脳に寄生しているなら助けることは難しいよ。 せめて暴走を止めて楽にしてあげよう」


 ユリウスの意図を汲んだ上で、キアラは反対意見を示した。


「あの巨体には盾役(タンク)(カタナ)も有効とは思えません。 私たちに試させてくれませんか?」


 魔術士(ウィザード)(スタッフ)を構えたラウラが、魔獣から目を離さずに訴える。


「ちょっとそれは聞き捨てならないわね〜」


 真紅の鎧の女(サムライ)ことフィオナは、一歩も引く気はないようだった。


(まいったな……) ユリウスは諦めて、メナスとルシオラにだけ【念話(テレパシー)】を送った。


(ルシオラ、君は一応下がって何かあったらすぐ治療できるように待機していてくれ。 メナス、みんなの防御を頼めるか?)

(わ、わかりました……)

(了解でーす。 なんか久しぶりだね、こういうの)


 などと宣うチタニウム・ゴーレムは、やはりどこか楽しげだ。 【ライノテリウム】は激しく前脚で地面を蹴って、今にも突撃してくる気配だ。


「ラウラ、蜂型ゴーレムは無事に回収したいから、頭だけは傷つけないで!」

「わかりました!」


 キアラの呼びかけに、ルベール族の新米魔導士が応じる。


「あ〜あ こんな時に甲冑(アレ)を取りに行く時間があればなぁ……」

「いや、アイツの突撃は、あの騎乗型ゴーレムでも厳しいんじゃ──」


 ユリウスが口を開いた瞬間、その魔獣は激しく大地を蹴った。 距離は20m、夕陽を背にして巨大な塊が真っ直ぐに突進してくる。


「【火球(ファイアーボール)】!」


 ラウラが杖を掲げ唱えると、杖の先端に集中した魔素(マナ)が一気に膨れ上がり、10mほど先の地面で火柱が上がった。 そう── 最初から魔獣そのものには当てるつもりはないのだ。 しかし、いきなり眼前に現れた炎の壁には怯む事なく異邦の魔獣は突撃を止めない。 炎のカーテンを突き破るように再びその姿を現した。


 ラウラとキアラは、ほぼ同時に【魔法の矢(マジックミサイル)】の呪文を唱える。 ラウラの頭上に3本、キアラには2本の魔法の矢が待機状態で出現した。 とくにラウラの呪文詠唱速度は素早かった。 【炎球】を唱えてからすぐに詠唱準備に入っていたようだ。 そこでフィオナも魔獣に向かって足を踏み出す。 一瞬ユリウスの脳裏に、巨体に弾き飛ばされる少女の姿が幻視された。


「待てっ! フィオナ早まるなっ── 」

「【光の精霊ウィル・オー・ウィスプ】!」


 ユリウスの制止の声に被せるように、フィオナの呪文詠唱が響く。 彼女の頭上に現れた拳大の光の球は、そのまま真っ直ぐ【ライノテリウム】の左眼に飛び込んだ。 その直後、稲妻のように抜刀したフィオナの刀が、魔獣の左眼をなぞるように掠めていった。 しかし魔獣は、尚も突撃を止める事なくそのまま突っ込んでくる。


 咄嗟にユリウスは傍のルシオラを抱えて横に跳んだ。 何らかの呪文を唱えればどうにでも出来たが、今はそのタイミングではないと判断したのだ。 キアラとラウラの2人が魔法の矢を放つのと同時に、メナスが2人を抱えて大地を蹴った。 その直後2人が立っていた空間を、怒りとも苦痛ともつかない咆哮をあげながら魔獣が駆け抜けていく。


 真紅の女侍は、燃え盛る火柱の前で既に振り返っていた。

ユリウスとルシオラは、もつれるように抱き合ったまま乾いた地面から身を起こす。 その手前に2人を抱えたメナスが着地する。


「あ、ありがとうございます……」

「どういたしましてー」


 例を告げるラウラと、やはり無言のままのキアラから手を離すと、メナスは魔獣の方へ一歩踏み出した。 彼は30mほど先で立ち止まり、何かを振り払うかの様に激しく頭を振りながら脚を踏み鳴らしていた。 おそらくは暗闇の中で、痛みと混乱、不安と怒りに苛まれているのだろう。 キアラとラウラが放った5本の魔法の矢は、打ち合わせてもいないのに全て魔獣の右眼に命中していた。 頭は攻撃しないようにと伝えてはいたが、魔獣を止めるには仕方がなかったのだ。


「もういいだろう」


 そう呟くと、ユリウスは右手をあげて呪文をひとつ唱えた。


 魔獣は糸が切れたように突然倒れ、そしてそのまま動かなくなった。


「なんだかちょっと、可哀想だね」


 そう呟くメナスの顔は、ユリウスの位置からは見えない。 ふと気付くと、腕の中にはまだルシオラがいる。 彼女の吸い込まれるような碧い瞳と目が合い、甘い体臭が鼻腔をくすぐる。 慌てて立ち上がると、ルシオラの手を取って彼女を引き上げた。


「それにしても凄いじゃないか、フィオナ! 【光の精霊】の呪文なんて」

「こないだ覚えたっていってたの、コレだったんだねー」

「えへへー みんなをおどろかそうかと思って…… でもみんなの魔法にくらべたら、なんか恥ずかしくなっちゃって」

「そんなことはないわ。 【光の精霊】は、魔術士や侍が習得する確率はかなり低いと聞いていますもの」


 倒れている魔獣の左眼から光の球が浮き上がり、ふよふよとフィオナの頭上に戻って来た。 まるで意思があるかのように主人の周りを舞っている。


光の精霊ウィル・オー・ウィスプ】の呪文はランク1の精霊魔法だ。 術者の頭上付近に光の球を浮かべるという、基本的には【永続する光コンティニュアル・ライト】と同じ使われ方をする魔法だった。


【永続する光】がランタンや杖、剣など、手にした物に唱えたり接触した場所に光源を付与する呪文なのに対し、【光の精霊】は頭上をふよふよと従いてくるので両手の自由が効くという利点があった。 また、ある程度術者の思念で移動可能なので、今回のように敵の顔にぶつけるような使い方も可能なのだ。 ちなみに【永続する光】を、いきなり敵の顔面に唱える事はもちろん出来ない。


「しかもいきなり実戦でこんな応用をするなんてな」

「いやぁ〜 実はこれ、師匠に教えてもらった使い方なんだよね〜」


 真紅の侍娘は、顔まで真っ赤に染まっていった。


 魔獣の亡骸はひとまず置いて、ユリウスたちは先に【魔法陣】の方を調べる事にした。 今はもう緑色の淡い光が円を描いているだけで、それも今にも消えそうだった。


「どうやらこれは、一方通行の【転移魔法陣(テレポーター)】の出口(・・)の方みたいだな」


 ユリウスが呟いた。


「そんなコトが分かるんですか?」

「この魔法陣は単体で起動する術式が組み込まれていない── つまり、相手があって初めて発動するタイプの魔法陣なんだ」


 そう説明しながら、ユリウスとキアラは思い出していた。 こういう魔法陣が得意な人物の面影を。


「それで…… どこに繋がっているかは分からないんでしょうか?」

「……分からないな。 残念ながら、こちらからはただの受信器でしかないし、送信先は複数の可能性も充分あるだろう」

「この魔法陣に関して言えば、南の大陸で間違いなさそうだけどねー」


 メナスの意見はもっともだった。


「つまり、こういう魔法陣が大陸のあちこちにあると……?」


 ルシオらが不安そうに表情を曇らせる。


「おそらく、な…… 取り敢えず、この魔法陣から得られる情報よりも、放置しておくリスクの方が大きいだろう」


 そう言いながらユリウスは片手を上げた。


「待って下さい! 術式を解除するなら、私にやらせて頂けませんか?」


 声の主はラウラだった。 ユリウスが顔を向けると、真剣な表情で訴えかけている。


「そうだな、何事も経験だ。 やってみるといい」


 ラウラは大きくひとつ頷くと、早速魔法陣の術式を解析し始めた。


 ラウラと念の為護衛にメナスを残し、次に一行は魔獣の亡骸の方へ移動する。 


「この魔獣も、頭だけ持って帰るの〜?」

「そうですね…… ギルドとしては【ライノテリウム】が出現した証拠は是非とも欲しいでしょうね」

「ツノだけじゃあダメかな?」


 確かに長さが2mもあって、体毛が固まって出来たツノなど【ライノテリウム】の物くらいだろう。 しかし頭が付いていた方が、より説得力があるし標本としての価値も高い。


「オレが【亜空間収納(アンテラウム)】に入れて運ぶよ。 頭ごと持って帰ろう」

「【亜空間収納】! 本当にあるんだ」


 キアラは驚いていた。 王宮筆頭錬金術師ミュラー師の孫である彼女でも、存在しか知らない呪文なのだ。 実は当のユリウスでさえ【賢者の石】の中でこそ習得し得た呪文なのだった。 ちなみに、ミュラー師は習得出来なかっし、ウィリアム大司教は敢えて習得しようとはしなかった。 メナスは三人の従者のような存在だったので【賢者の石】の力で、その技術(スキル)魔術付与(エンチャント)として習得させていた。 これは【念話】の呪文なども同じ原理だった。


 魔獣の亡骸の前に立つと、改めてその巨大さに圧倒される。 体長5m、体高2.5mの巨体は、横たわってなお小山のような威容を感じさせた。 こうして見ると体高の割に地を這うような低い位置に頭部があるので、足元にも隙が無いような印象だ。


「さて、どうやって頭を切断しようか?」

「私の甲冑(アレ)の大剣なら斬れるかな」

「ううん、そんなのいらないよ」


 フィオナは前に進み出ると、師匠譲りの腰の(カタナ)を抜刀した。 魔獣の腹側に立つと、刀を大上段に構えて精神を集中する。


「いくら何でも【ライノテリウム】の甲皮は、刀なんかじゃ──」


 キアラが言い終わる前に、その刃は振り下ろされていた。


 キン── と、硬質な乾いた音が陽の沈んだ荒野に響き渡る。 フィオナがゆっくり一歩下がると、ほどなくして魔獣の頭部がゴロリと胴を離れた。


「すご──」 キアラは息を呑む。


 静かに刀を鞘に収めると、真紅の女侍は目を閉じて巨大な亡骸に手を合わせた。


 普段のフィオナからは想像できない、その厳かで静謐な雰囲気に…… キアラは彼女に対する認識を改めざるを得なかった。



 結局、魔獣の頭部からは当然のように超小型の蜂型ゴーレムが発見された。 キアラは自前の工具を使って器用にそれを摘出すると、腰のポーチから取り出した試験管に収納する。 ちょうどその頃、岩の陰ではラウラが魔法陣の解除を終えようとしていた。


「この手の魔法陣を探すのは、難しいのでしょうか?」

「あぁ…… 残念ながら。 起動するまでは、よほど近寄らないと魔素(マナ)すら感知出来ないだろうな」


 ルシオラとユリウスは、これをギルドにどう報告するべきか思案していた。


 もうすっかり辺りは暗闇に包まれている。 一行は馬車を取りに戻って、この岩陰で夕食を摂り、一夜を明かす事に決めたのだった。


 きっと明日の午後には、ハンデルとインドゥストリに到着しているだろう。


 その岩陰に張られたテントの中では、一晩中拳大の光の球が、皆を見守る様に漂っていた。


ところで予定していたペースでは、あと10話で三章が終わる予定なのですが…… 本当に終わるのか不安になってきました

第四章で全て完結するつもりだったのですが…… 少し怪しくなってきたかもしれません(汗)

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