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絶望の賢者とタイタンの幼女  作者: 椿四十郎
『小麦畑と蒸気機関』
104/112

104 ~鍛治師と錬金術士〜

ご無沙汰しております

まだ準備が続きます

テンポ悪くてすみません


 今後の方針を決める会議をした翌朝。

ユリウスたち一行は街に出て遠征のための買い出しをする事にした。


 とくに、キアラとラウラは初めてのクエストだ。 必要な装備や備品も揃えなければならないだろう。 今回は保存食や生活必需品も多めに用意しなければいけないし、キアラの話によれば馬用の飼葉も多少は用意した方がいいそうだ。 王都ミッテ・ツェントルムからハンデル、インドゥストリの両都市を結ぶ街道は途中、人の住めない荒野を横切るので、飼葉や飲み水の確保が出来ない区間があるらしい。


 ひと通り必要な物を揃えた辺りに昼時になったので、一行はシャウアの働いているパン屋へと赴いた。 ルシオラはシャウアに長期間王都を離れる事を報告し、新しい仲間のキアラとラウラを紹介する。


「こちらは新人冒険者のキアラさんとラウラさん。 ふたりともとても優秀な魔術士なのよ。  こっちはシャウア。 私の修道院時代の親友だったんだけど天涯孤独の身になってしまって…… 今は私の義理の妹なの。 よろしくね」

「へぇ〜 また女の子なんだね。 最近活躍してる【エンジェル・ファング】みたい」


 シャウアが物怖じもせず屈託なく笑う。 接客業をしているせいだろうか、以前の彼女なら萎縮して初対面の人と話せるイメージはなかったようにユリウスは思った。


「私も一応、天涯孤独なんだよ。 よろしくね」


 赤銅色の肌のラウラが、白い歯を見せて笑う。


「それにしてもキアラさん? メナスちゃんによく似てるねぇ…… 姉妹じゃあないの?」

「うん、実は親戚の子なんだよ……」


 慌ててユリウスが取り繕う。 これからは、こんな機会が増えるかも知れない。 一応口裏を合わせておいた方がいいだろうと、心のメモ帳に書き留めておく。 シャウアの手前、露骨に嫌な顔はしなかったが、やはりキアラは内心複雑なようだった。 


 一行はちょうど焼き上がったばかりのパンでランチにする事にした。 店の前の通りにテーブルと椅子を用意してもらう。 キアラもラウラも、すっかりこの店のパンが気に入ったようだ。


 昼食を終え、シャウアにしばしの別れを告げると、一行はいよいよブライの防具屋を訪ねる事にした。 期待に胸を膨らませているキアラ、ラウラと対照的に、ユリウスは若干の不安を感じていた。 ひょっとしたら防具屋の店主は、すっかり意気消沈しているのではないか? あんな事を頼んでおいて何だが、アダマンタイトの加工が四日や五日で何とかなるとは到底思えなかったのだ。


 案の定、ブライの店は閉店状態だった。

一応扉からは灯りが漏れ人の気配はあるものの、休業中(クローズド)のドアプレートが下がっている。 ひょっとして、あの日からずっとこの状態なのだろうか。 ユリウスは徐々に申し訳ない気持ちになってゆく。


 そんなユリウスの気持ちなどお構いなしに、フィオナがドアをノックした。


「ブライさ〜ん! いるんでしょ〜 わたしたちだけどちょっと開けてよぉ〜」


 それで伝わると思っている所が実に彼女らしい。 実際、本人が居るなら伝わっているとは思うが。 中の気配が作業の手を止め、扉へ向かう足音が聞こえる。 片脚を引きずるような足音だ。 扉が開くと不機嫌そうな初老のドワーフが顔を覗かせた。


「なんじゃ、やっぱりお前たちか」

「おじいちゃん、久しぶりー」


 メナスが無表情に籠手を嵌めた手を振って見せると、初老の熟練鍛治師は目を閉じて深いため息を吐いた。


「やはり…… 苦戦していますか?」


 恐る恐るユリウスが尋ねる。


「ふん、知らん顔もおるようじゃな。 店先じゃ目立つから、まぁ中に入れ」


 そう言うと彼は、扉を大きく開いて一行を招き入れた。


 店内には灯りが付いておらず、店番をしながら簡単な作業が出来る奥のテーブルに辛うじて燭台が灯っていた。 その背後に扉が開いていて、そこから灯りが漏れ出している。 そこが彼の本当の工房なのだ。 ドワーフはその扉を潜ると一度だけ振り返り、片方の目でついてくるように促した。 そこはまさしく彼の聖域だ。 ユリウスたちはもちろん、他の客でさえ足を踏み入れた事はなかった。


「そこら辺に丸太の台があるじゃろ、座りたければ適当に座れ」


 初老のドワーフが、ぶっきらぼうに椅子を勧める。 一応室内を見回しいくつかの丸太を確認してみたが、あえて座ろうとするものは誰もいなかった。


「それで、どうでしょう? 進捗具合は」


 尋ねるユリウスも生きた心地がしない。 ドワーフは大きな作業台の上にある、金属の棒と薄い金属片を手に取った。


「ヒビの入ったところから何とか二つに割ることが出来た。 今のところは、これだけだ」


 確かに…… あのゴーレムの脚の一部だったと思われる金属の棒は、二つに裂けて薄い金属片が剥離しているようだった。


「これ以上はどんな高熱を加えようと、ダイヤモンド、ミスリル、オリハルコンの工具を使おうと…… 傷ひとつ付かん」

「薬品は…… 酸とかは試しましたか?」

「もちろんひと通り試してみたさ。 ドラゴンの爪でも歯が立たんとは……」


 彼は怒っていた。 だがそれは他でもない、自分自身の無力さに対してだったろう。 ユリウスは安易に加工の依頼をしてしまった事を後悔し始めていた。


「どうする? ワシはもちろん諦めるつもりはないが、お前たちが待てんと言うなら──」

「あの…… 私も触ってみていいですか?」


 初対面という事もあり自重していたキアラが、ついに黙っていられなくなったようだ。


「おう、構わんが…… アンタは冒険者か?」

「はい、新人魔術士のキアラ・テルースです。 よろしくお願いします」


 そう言いながら彼女は、ブライから破片を受け取った。 さっそくその質感や重さを確かめ、ルーペを取り出して断面を観察する。


「彼女は、あのミュラー師のお孫さんで本職は錬金術士なんですよ」

「なんと⁈ あの三賢人の宮廷錬金術師の……」


 ブライは目を白黒させながら金属片に集中している少女を振り返った。


「炎の温度はどのくらいまで試したんですか? そこにある小さな窯ですよね」


 これはラウラだった。 そしてそれは彼の職人としての沽券に関わる質問だったようだ。


「侮るなよ、ルベール族の娘。 こんな見た目でも、この炉は王国内で最高の魔法炉なんじゃ!」

「失礼。 私は、ラウラ・イグレアムです。 私にも破片を見せて頂けますか?」

「ブライさん、どうか許してやって欲しい。 彼女は【S+】判定の天才魔術士で、魔導遺物(アーティファクト)にも造詣が深いんだ」


「なにっ⁈ 【S+】だと…… 噂には聞いていたが……」

「キアラも錬金術士だけど、魔道具(アーティファクト)魔素機関(マナ・エンジン)の技術者でもあるんだ」

「ねぇ、魔法炉って事は魔法で最高温度を上げるの? それとも高温から炉を保護するだけ?」

「そりゃあ両方に決まっとる! それだけじゃあないぞ──」


 金属棒を観察しながらラウラが尋ねると、初老のドワーフは自慢げに炉の性能について捲し立て始めた。


「それにしてもアレじゃな…… お前たちはまるで、三賢人の後継者みたいじゃな」


 ブライが漏らした言葉に、二人は少しはにかんだような笑みを浮かべた。 そして彼も、今日初めて笑顔を見せてくれた。 そっとユリウスは安堵の溜息を漏らした。


「錬金術的なアプローチは何か試されたんですか? もしお祖父さまだったら──」

「そうだ! 思い出したぞ。 7〜8年前にこれと同じ金属を持ち込んで、ミスリルやオリハルコンの工具を用意させたのは、ミュラーの奴じゃ!」

「まぁ、お祖父さまが……⁈」


 ユリウスたちが呆気に取られて見守る中、興奮した三人が白熱した議論を展開させてゆく。 もはや余人の踏み入る余地はないように思えた。


「──そうか! 錬金の秘術にそんな方法が…… ワシは自分の力だけでやることに拘り過ぎていたかも知れん」

「魔力炉だって、まだ魔法の炎を工夫したり改善の余地があるかも知れませんわ」


 たまらずユリウスは声をかけた。


「あの…… このまま継続して貰って構わないんですか? 店の営業に差し障りがあるんじゃ──」

「なんじゃ、まだおったのか? 言っとるじゃろ! お前さんたち次第じゃと」


 ユリウスはフィオナ、ルシオラ、メナスと顔を見合わせてゆっくりと首を振った。


 キアラとラウラの二人には、あまり遅くならないように告げてユリウスたちは店を後にした。 ブライに申し訳ない事をしたと思う反面、これで良かったのかも知れないという気持ちも同時にある。 まさかあの三人が意気投合して協力し合うとは思ってもいなかった。 そしてそれは、かつての自分たち三人の関係を思い起こさせた。


 結局人は── 人と人との関わりの中でしか成長も進歩もしない。


 人は人の中でしか生きられないのだ。


あれから二話ほど書き貯めることが出来ました

現状、週一回更新は何とかなりそうな感じです

よろしくお願いたします

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