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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第3章 妨害し続ける身分
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第86話 上に立つ素質

 ノアは今、任務の一環で国外に居た。騎士長のトオエンマの命令で、認められて騎士隊長になったノアも派遣されたのである。といっても任命式が今日の晩に行われるらしく、まだ正式には騎士隊長ではない。だがそれでも隊長というからには部隊を率いて戦わなければならない。各部下に指揮を出し、上手く扱わないと部隊は殲滅してしまう。一人でも死なせれば、士気は傾き一気に崩れてしまう。それをさせないのが隊長の責任である。


(でも、その心配はいらないかな)


 何故なら何度振り返ってみても、部下は一人しか居ないからだ。


 元々少なかったとはいえ、ノアにも部隊が用意されていた。だが罪人の隊長に命は預けられるわけもなく、ほとんどの騎士達は部隊を抜けていったのだ。

 その中で残った男は、銀の兜を被っており顔を隠していた。10代半ばくらいか、背もノアよりやや低い。

 ノアは兜の中も見えるため、この男が見覚えのある者だとすぐにわかった。怪盗として侵入した屋敷の数は数えきれないほどで、そのうちの何回かがこの男が警備していた。男の表情は硬いがバレてはいないはず。ノアはどう接するかを悩んだ。

















 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 兜の隙間から自分の隊長である男を見定めるように睨む。騎士の中で言えば華奢な体格をしており、身体を羽のコートで包んでいる。恐らくは天空族。ガラス玉のように透明な瞳が風で揺れる白髪の下から覗いていて、その瞳は何処か遠くを見つめているような(はかな)さを含んでいる。とても強者には見えず自分が言えることではないが、歳も相当若い。


「僕はノア、君の隊長を任された。君の名前は?」


 ノアと名乗る男はにこりと笑って自分の名前を聞いてきた。この男は有名だ。噂など信じたくはないが騎士隊長でありながら、罪人でもあるらしいのだ。何でも女を襲うために使用人を殺し、王族すらも殺そうとしたらしい。


(そんな男に騎士隊長を任せるなんて、ここの騎士長も終わってる)


「……ロキ」


 不機嫌さを隠す気もならず、自分の隊長に名前だけ名乗って黙り込む。それは処罰される可能性があるほどの行為だとはわかっているが、ロキは苛立ちを抑えきれなかった。他の騎士達は誇りを優先して出て行ったが、ロキにはもう後がない。出来れば自分もこんな男の下に就きたくはない。子供の頃から騎士に憧れ、ようやくなることはできた。だが、最近騎士の間では聞かない日はないと言うほど名を広めている八咫烏のせいで、ロキはどん底に叩き落とされた。

昔は店の警備をする程度の地位しかなかったロキは、必死に努力し成り上がってきた。実力が認められ、領主の館を任されるほどにもなった。だがそこからだ。八咫烏という名の賊に道を壊されたのだ。初めて出会った時、まだ八咫烏という名は広まっておらず、ただのコソ泥の域であった。たがそんなコソ泥に逃げられたロキは騎士の経歴に泥を塗られた。

 それから悔しさのあまり、八咫烏という見えない敵を恨んでロキは努力し続けた。その努力もあってか貴族の屋敷を任されるようになり、今では王族騎士にもなれた。だが任務につく度に、八咫烏は自分の前に現れ、顔に泥を塗っていった。

 そのせいでロキの実績はズタボロで、元々は違う地区を担当していたのだが、ロキは追い出されて淡々と移動を余儀なくされた。自分の実績を見れば誰もが首を横に振り、雇ってくれる場所は無くなってきたのだ。またしくじれば王族騎士の資格さえも剥奪されるかもしれない。


「さて、じゃあ行こうか」


(それなのに俺の隊長がこんな男だと!? ふざけるな!)


 緊張感に欠けるような笑みをしている罪人を見て、ロキは兜の下で怒りで歯を軋ませた。


 今回の任務は機械生物の駆除、一つの部隊で5体がノルマだと聞いている。自分達の部隊はたったの二人。これだけでも厳しいのに、その原因の隊長はこの有様。国の脅威になる機械生物は、見えないだけで霧の中で数多く存在している。


(適当に生きているハンター達は、霧の外に出てきた機械生物しか討伐しない。所詮は使命感が無い崩れ者、ハンター達は自分のためだけに機械生物と戦ってるんだ。騎士の誇りを持つ俺からすればその生き様は信じられない)



「僕に着いてくればいいから。 細かい指示は後で出す」


 ぐちぐちと心の中で文句を垂れていると、ノアは買い物に行くかのような口調で指示をだし、一人ガスマスクをつけて先に歩き出した。その様子を見ながらロキはポカンと口を開けて何度も瞬きを繰り返した。


(は、それだけ!?嘘だろ! 他に指示は!)


 それだけ伝えて歩き始める隊長。士気を上げるため、大声で無茶な事を吠え出す隊長というのは珍しくない。そんなことで気合いが入るわけがないと馬鹿にしていたが、今はそちらの方が正しかったと認識する。ロキも騎士として、隊長の命令は守るつもりだった。だが命じられたものが小さすぎて不安に呑み込まれる。

 ロキは機械生物と戦ったことがないのだ。今までは警備として、人を相手にしてきたため大口を叩いてはいたが恐怖で足はすくむし、昨日は寝ることもできなかった。


(うわっ、毒の霧ってこんなに濃いのか! これじゃ何にも見えないじゃないか。ひっ!……今何かいたんじゃないか!?)


 目の前がぼやけ始める。それは霧だけのせいではないだろう。霧に隠れているが、もう直ぐそこに機械生物はいるんじゃないか。いきなり噛みちぎられるんじゃないか。そんな考えが頭をよぎって仕方がなく恐怖で身体が固まるのだ。


「……あ」


 震える足が遂には止まり、自分を囲む霧がどんどん濃くなっていく。もう隊長であるノアの姿は見えなくなっていた。


(まさか置いていかれた!? あいつまさか、最初から俺を殺す気で?)


「おい、嘘だろ! 置いてくなよ!クソ。 やっぱり 罪人ってのは本当だったんだ! 何で俺ばっかりこんな目に!」


 もう心の声は外に出ていた。ロキは涙を滲ませながら、パニックを起こして抜いた剣を空中を掻き回していた。


「大丈夫、ここにいるから。落ち着いて」


 乱暴に振り回していた剣が手で押さえられた。ロキは肩を跳ねさせるように驚いて目を見開くと、そこにいたのはノアだった。この濃い霧の中で立ち止まっていた自分を見つけてくれたのだ。そんな安心感とともに、せっかく助けてくれたにもかかわらず隊長を大声で罵ったことを聞かれたことへの罪悪感と緊張感を芽生える。


「何かあったら守るから。 今はしっかり着いてきて 」


ノアは何事もなくそう言って、また歩き出した。ロキは最初は安心や罪悪感などで心を揺らしたが、歩いているうちに余裕が出てきたことで、それらは次第に苛立ちへと変わっていった。


(何が守るだ! お前が置いて行ったんだろ!隊長ならまともな指示くらい出せよ)


 ロキは怒りが収められない。だからこそ、ノアの言葉を聞いた時から恐怖が無くなっていることには気づかなかった。





 それからノアは、ロキを気遣い歩く速度を下げていた。だがそれは逆効果だったようで、時間がゆっくりと感じられたロキは、精神を削られるように不安を立ち込め始めた。


(霧の中をひたすら歩き回ってるだけじゃないのか。 もしかして迷子? )


 右に曲がったと思ったら左に曲がり、時々立ち止まるノアを見て確信する。この隊長は信用できないと。


(冗談じゃないぞ。まだ一体も倒してないっていうのに、このままだと帰れるのは日が変わっちまう)


 こんな霧の中で夜を過ごすのは絶対に嫌だ。そんな焦りがロキの歩きを乱し、足を早めさせた。


「ロキくん。そっちはダメだ。機械生物と正面から当たる。 もう少し迂回しないと」


(こんな霧の中でわかるはずがない。見栄を張るなよ、迷子なんだろ。そんなこと言ってさっきから変な道ばっかり通ってるし)


 ロキはさっきから彷徨(うろつ)くように歩き回るノアに痺れを切らして直線で進んだ。だが濃い霧のせいで傾斜があることに気づかず、足を滑らせて転がり落ちてしまう。



「うわぁぁっ!………って、なんだ。ただの坂か」



 たいした痛みは無いし怪我もない。しかしその代わりに、目の前に巨大な鉄の亀がいた。


「……あ」


鉄の亀はネジを掻き集めたような屑鉄の筒を甲羅の隙間から出現させた。それは大砲。空に向かって一発放てばあたり一帯の、霧ごと吹っ飛ばすほどの威力だった。

ロキは、爆音を響かせる大砲を背に持つ機械生物を前にして腰を抜かして座り込んだ。絶望とはこのことだった。何故ならロキの周りには、その恐怖の鉄亀が何体もいたからだ。


「ごめんなさい!」


 口からは懺悔の言葉が漏らしていた。既に剣は手から離れて地面に転がっていた。数体の亀は既に巨大な兵器をロキに向け、熱を浴び始めている。恐らく自分は今から死ぬ。機械生物はこれほど恐ろしいとは思わなかった。


(あの人の言ってたことは本当だった! こいつらがいることをわかってたんだ!)


 疼くまって頭を抑え、自分の愚かさを怨む。ノアは、囲まれないように位置を保っていたのだ。一匹づつ倒せるように機械生物同士の距離を調整していたのだ。そして何より、部下の自分が危険な目に合わないように行動していたのだ。何にも理解していない未熟者。


(これならあの八咫烏に嘲笑われるのも仕方ない。反省する。これからはもっと真面目に努力するよ!だから…)


「だから助けてくれぇえ!」




 激しい音と地鳴りが響いた。







 それは砲撃されたからではない。機械生物が地に沈んだからだ。ロキはその光景を、その男の背中をしっかりと目に焼き尽くした。


「……なんで」


 罪人だと軽蔑したのに。 大声で罵ったのに。 命令を歯向ったのに。それでも助けてくれた隊長。呆れた笑みを浮かべている男の背中。


それはまさに英雄の背中だった。



「だから守るって言っただろ?」


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