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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第2章 変わり続ける感情
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第51話 剣を打つのは妖精の羽

 白い湯気が立ち上り不思議な臭いが鼻に通り抜ける。足から順に入れて鼻の下までお湯に浸かるとプクプクと泡を浮かばせ、体の芯からほぐれていくのがわかる。気を抜いたら口から変な声が出そうなほど気持ちがよく、ノアはお湯の中で目をつぶり自然が創り出す水の波紋に体を揺らした。


「いいもんだろう? 依頼の後の温泉は」


「はい。これは確かに、気持ちがいいです」


 ルドルフも遅れて温泉に浸かり、ノアの言葉に満足するようにくつろぎ始める。


「そういえばノアくん。 武器の替えはあるのかい?」


「いえ、ありません。あれは貰い物でして」


「そうか。それはすまんかったな」


 ノアのナイフは機械生物を破壊するには強度が足りず、根元から折れてしまった。それをルドルフは、無茶な依頼に付き合わせてしまったと申し訳なく感じていた。しかしノアのナイフは決していいものとは言えないもので、いずれは壊れていただろう。そういう意味では折れたのが今回だったのは運が良かったかもしれない。もしあの大鷲の男との戦いで折れていたらと思うと、ゾッとする。


「そうだ。俺の使ってないやつがあったと思うしよかったら…」


「ルドルフ、それはダメだ」


 ルドルフが自分のものをあげる、そう言おうとした時、隣にいたドモンがストップをかける。


「確かに俺らが連れて行ったのが原因だ。だが折ったのはノア自身で、無茶したのもこいつなんだ。それを俺たちが面倒見るのは筋違い。 それに、ハンターってのは自分の武器を数多の中から選ぶってのが醍醐味なんじゃねぇか!」


 ドモンは指を立てながら声を大にして叫ぶ。自分の武器、それは確かに相棒のような存在で大切なものだ。それをずっと人から貰いっぱなしだというのも情けないだろう。また、ドモンは口にはしなかったがノアに武器を選ぶことなどの経験を積ませたほうがいいとも考えていた。武器屋などと繋がりを持ち、御得意様にでもなりさえすればそれなりに融通が利くこともあるのだ。



「まぁそうだな、まだちゃんとしたやつを買えないってのも確かだな。 よし、代わりにあいつをやろう!」


 ドモンはうんうんと頷き、服や武器が掛けてある籠に指を指した。そこにあるのは、赤黒い結晶のようなもの。

 それは今日ルドルフ達が倒した機械生物の核だった。依頼内容はあの機械生物を特定されたものではないため、ギルドに納品する義務はない。しかし、あの機械生物はまだギルドでも確認されていない新個体だと言っていたため、売ればかなりの値がつくはずだ。確かに機械生物の核は武器の素材として使うことができ、より強い機械生物の素材を使えばよりいい武器を作ることが可能だ。だからといって、新人ハンターの武器作りのために簡単に渡せるものとは思えない。


「そんな、いいんですか? 僕は今回何もしていませんし」


「ああ、気にすんな!持ってけ持ってけ! 俺はお前が気に入った。 ただ女のケツを追いかけ回してるだけの野郎かと思ったが、男前な行動力があるじゃねぇか」


 酷い言われように自然と笑みはひきつるが、その言葉は素直に嬉しく思えた。これからの事を考えれば貰える物は貰っておくべきだし、Aランクから見て見込みがあると言われれば自信がつくものだ。


 そのまま三人は、のぼせる限界までお湯に浸かっていた。















「おかえり」


 石段から立ち上がったテトはノアの近くに寄ると、違和感を感じたのかノアの体に顔を近づけた。テトは猫の尾を揺らしながらも仔犬のようにくんくんとノアの身体を嗅ぎ始める。すると匂いの他にも、ノアの身体からほんの僅かに湯気が出ていることにも気づいたようで、可愛らしく首を傾げた。


「?……いい香りがする」


 温泉に入った時に石鹸をふんだんに使って身体を洗ったからだろう。石鹸はこの国では貴重なもので下界では滅多に使うことはなかった。


 洗う際に泡立っていく髪を見て、何故か昔を思い出したノアは、きゅっと心が締め付けられた。湯に浸かったせいで心が緩んでいたのだろうか。


(でもそのくらい気持ちがよかったな。 いつかテトも連れて行ってあげよう)



 テトはその後も、何度もノアの身体に鼻を近づけては表情を綻ばせていた。






















 朝日が昇り始めて外壁の上から半分日向が顔をだす頃、ノアはギルドから少し離れた所にある武器屋に訪れていた。本来ギルドの中にも武器屋はあるのだが、武器屋の店員もノアに対して厳しい目線を送っている一人だった。そのため少し遠くとも、気にせずに武器を選べるところへ足を運んだ。

 しかし実際店に入ると並べられている武器の数は少なく、鎧や盾なども一つや二つ程度壁に掛けられているだけだった。武器屋とは素材を持っていけばそれに応じて武器や防具も作ってくれる場所だ。だが商品も勿論売っているはずで、もう少し何か品が置かれていると思ったが、こんなものかとノアは肩をすくめる。一応他に何かないものかと店の中を回ってみると、そこで目に入ったのは武器や防具でもなく頭にゴーグルをつけている若い女性だ。その女性はおそらくこの店の店主だろう。台の上に顎を乗せてやる気なさそうにしているうえに、ノアのことを軽蔑するような目で見ていた。ノアは自分の姿が客観的に見て小汚い貧民そうなガキに見えるのかとも思ったが、最近テトにまた服を選んでもらったため、多少マシに見えるはずだ。



「あんたも冷やかし? 妖精族の鍛冶屋がそんなにおかしいか」


 ノアが理由を尋ねる前に、先に店主がうんざりしたように口を開いた。

 店主の耳は先が尖っており、見れば妖精族だと言うことはわかるだろう。しかしノアはその店主の言葉に疑問を思う。


「え?いえ、普通に武器を作って欲しいんですけど」


「…え?」


「え?」


「私妖精族なんだけど、 いいの?」


「?……。お願いします」


「ホント!?ま、任せてくれ!」



 店主は台を叩くように立ち上がり、ノアに飛びついた。ノアよりもかなり背が高く、さっきまで台に隠れて見えなかったが、布を身体に巻いているだけという露出の多い格好をしていた。店主はよほど嬉しかったのか、思いのほか強い力で抱きしめられ、布がはちきれんばかりに大きい胸に顔を沈められ窒息しそうになる。

 その店主の名前はリーシャといい、昔から武器屋、というより鍛冶屋になることが夢だったと言う。そしてそれは叶い、最近になって店を開くことができた。しかし客は来なかった。来たとしてもリーシャを見ると皆揃って妖精族に大事な武器を任せるわけにはいかないと言って帰っていく。だがその言葉に反論することもできなかった。何故なら、妖精族は鉄を触れられないからだ。

 鉄に触れば妖精族は火傷してしまう。それは誰もが知っている常識で、鉄を触れない職人に鉄を打ってもらおうとする客はいなかった。

 しかし妖精族は高密度なマナを持っており、リーシャはそのマナを自在に使って世界一の武器を創り上げる自信があった。だからこそ、この現状が耐えられなかった。

 そんな時に入ってきた客がノアだ。リーシャはノアもどうせすぐに帰る客だと思って、ろくに営業スマイルを作る気もなかった。しかし彼女の予想とは違ってノアが武器を作って欲しいと言ったため、喜ぶより驚きが優ったのだ。









 しかしそんな予想外のノアの態度の理由は単純だ。

 


 ノアはそもそも妖精族が鉄を触ると火傷するということ自体知らなかったのだ。アルティナやアウルムは武器は持たず、料理する時、鍋などはミトンをつけて持っていたのは覚えていた。しかしその理由がまさか触れないなどと思ってもいなかった。

 しかし手袋や何かをつければ鉄に触れるなら妖精族でも他の種族でも関係ない、それがノアの考えだったし、結局は変わらなかったとも言える。

 ノアは素材に使ってもらう機械生物の核をリーシャへ渡すとなぜか若干驚いた様子ではあったが、すぐに煮えたぎったように笑顔になった。リーシャはノアにペタペタと触り始め、最初は何かと思ったがどうやら腕の長さを計っているようで、それが終わるとすぐ店の奥へと消えていった。


 飾られている鎧などを見るに、相当の腕の持ち主だと確信はできていた。それに息巻いている彼女の様子と、あれだけ強かった機械生物の核を使ったことで、自然と期待が膨らんでいく。

 そんなノアに届いたのは、凄まじい轟音とそれに負けないくらいの眩い光だった。

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