第44話 進行
今回の依頼は多少難易度の高いものも混ざっており、Bランク用の依頼も混じっていた。それはノアの実力が評価された、というよりアテナが付いて来ているというのが大きかっただろう。ソフィもアテナの手助け込みで達成するように依頼を選んでいた。
(やっぱりこの人の存在はでかい。つけ込めるところまでつけ込む。あとは僕の利用価値も示しておく必要があるな)
遺跡に同行させて欲しい。そう頼むのは簡単だろうが実力もわからないCランクを遺跡に連れて行ってもらえるとは思えない。そのためこのくらいの依頼は簡単にこなせるところを見せるべきだと判断する。そうしてノアが顎に手を当てて真剣に考えていると、肩を指でつつかれてそちらを向く。
「ノアくん、あっちに行ってみよう!北のほうに沢山薬草が生えてると思うから」
アテナは北を指差して経験からくるものなのか薬草の在り処を示した。眼で見ると確かにそちらに薬草が密集している平原が確認できた。だがそれと同時に少量ではあるが近場にも生えている場所をノアは見つけた。
「それもそうですけど、今回の依頼だとそこまでの量はいらないようですし。今日はこっちのほうで十分だと思いますよ」
ノアはアテナの意見を尊重しながらもそのことを伝え、アテナも低ランクのノアが意見したことを気にした様子もなく素直に頷いた。
「この薬草を取ったらもう終わり?」
「あと一つ残ってます。機械生物の討伐です」
「わかったわ」
アテナは依頼の残りがあと一つしかないことに焦りを感じていた。その機械生物の討伐が終われば、いよいよこの時間も終わる。それは楽しい時間が終わることを惜しんでいるわけではない。アテナは焦っているのだ。今日アテナは何もできていなかった。薬草集めや小動物の狩りなど様々な依頼があったものの、ノアがまるで全て知っているかのように場所を言い当て先導するのだ。そのうえ、ここらをうろつく機械生物は多くないにしてもここまで鉢合わせないことも珍しく、ここまで見かけないとなるとノアがあえて機械生物が居ない道を選んでいるのでは、と勘ぐってしまうほどだ。
(でもCランクのハンターにそんなことできるわけないよね……。もう私が活躍出来るところは力づくで機械生物を壊すことくらい。頑張らなくちゃ!)
アテナはSランクの意地を見せようと力拳を作り、必死に視線を拡散させながら意気込む。すると常人では気づかない僅かな動きを察知した。
(あっ!見つけた。……でも、ここでいきなり倒しちゃっていいのかな。先輩として倒し方を教えてあげるべきなのかな)
遠くの岩陰に小型の機械生物を見つけたアテナは顔に嬉色を浮かべた。だが攻撃しようとした手を一瞬止めて高ランクのハンターとしてどう行動するべきか考え始めた。アテナは他人と依頼で行動したことがなく、今になってそれが仇となるとは思ってもいなかった。そして、アテナがそんなことで悩んでいる間に
ヒュッと風を切るような音を立てて何かが凄い勢いで投じられた。そしてそれは機械生物の弱点、核めがけて一直線に空を推進し見事命中した。
「あっ……」
アテナは崩れ落ちる機械生物を呆然と見ているだけだった。だがそれとは対照的にノアはすぐさま機械生物の元に走って近づくと、核に刺さっていたナイフを更に押し込みトドメを刺し始めた。
「やっぱり完全に破壊するには練習不足か…」
ノアは完全に破壊された機械生物から引き抜いたナイフを見つめて悔しそうに呟く。
(あの距離からあんな小さな的を正確に射抜くほどの技。いったいどれだけ練習してきて……。それにまだ練習不足って)
アテナは決してノアを馬鹿にしていたわけではないがここまでの実力があるとは思っておらず、並みの新人と判断していた。だが今、目の前でノアが見せた技術はそこらのCランク程度のものではない。
(やっぱり、ノアくんは……)
「さて。依頼も全て終わったことだし帰りましょうか」
「……ええ、そうね」
その後は何事もなくギルドへの道を歩き、アテナは心の中が焦燥心で一杯で、ただ役に立てなかったことを不甲斐なく思っていた。
「ノアくん、今日も私が依頼の報告をしておくから」
「そんな何度もわざわざSランクのハンターにやらせるわけにはいきませんよ」
「大丈夫。これくらい手伝わせて」
ノアは自分の依頼なのだから自分がすべきだ。だが今日も途中からアテナの口数が減ったことをノアは気にする。なるべく関わる時間を減らし、余計な詮索をされないようにするのがいいだろうと、警戒を怠らないことを肝に銘じる。
「わかりました。じゃあお願いします」
「それで?今日はどうしたの」
「……全然役に立てなかった」
アテナの元気がまた無くなっていることを心配して話を聞いてくれる親友に感謝するも、アテナは相談をしているうちに感情が込み上げてきてソフィのお腹に泣きついた。
「はいはい、よしよし」
ソフィは呆れながらもアテナを落ち着かせるためにひたすら頭を撫でてやった。ソフィはいつもは人形のように笑っていた少女がすっかり乙女の女の子になっていることを嬉しく思えた。
「………んっ」
帰りを待っいたテトがノアに気づいて立ち上がり、嬉しそうに近くに寄ってくる。だが目の前までくると怪訝そうな表情を浮かべ、ノアの体をすんすんと匂い始めた。
「ちょっ、どうしたの?」
「……女の人の匂いがする」
ノアはテトの嗅覚の正確さに驚き、テトはその反応を見てそれが間違えではないことを確信した。テトはノアからいつもより少し離れて歩きながらも不機嫌そうに頰を膨らませた。
だがテトは無意識でなぜこんなにも胸がもやもやするのかもテト自身、分からずにいた。
ノアは何故か怒っている様子のテトの機嫌を直そうとしたが、理由も直し方も分からず困り果て、そうしている間にタルタロスへ着いてしまう。
「これは……テト」
だがノアは何かに気づき表情を引き締めた。視界に異変を捉え、テトに着いてくるように伝える。ノア達はタルタロスの廃墟の地下に足を踏み入れた。
この廃墟はロイの寝床だったようで、ロイの私物や武器などが飾られていた。そしてそこにはロイもいた。2人はロイを発見すると口を半開き、硬直する。
ロイは口から血の泡を吹き、気を失っていたのだ。よく見ると床にも所々血の跡があり、相当の量を零している。
「おい、ロイ!大丈夫か!」
ノアが体を揺さぶって声をかけるとロイはうっすらと目を開けて反応を見せた。
「テト!ニーナを呼んできてくれ」
「……わかった」
テトがノアのお願いを聞こうとその場から離れようとする。だがテトが出て行く前にロイが力強く目を開けてテトの腕を掴んだ。
「待って…くれ。このことは皆んなには…」
「でも…」
ロイが皆んなに何かを隠したがっていたことは最近になって感じていた。だがここまで深刻なものとは思ってもいなかった。
「頼む」
「……わかったよ」
弱っているはずなのに、ロイはこれでもかと強いオーラを放ちノアはしぶしぶ折れて頷いた。するとロイは安心したように目をつぶり眠り始めた。
ノアはロイをベッドに寝かせ、ロイが目覚めるまで2人は隣で見守っていた。
しばらくして、ロイは目覚ると辺りを見回し、ノアとテトの姿を目にして困ったように頭をかいていた。
「ロイ、一体なにがあった。大丈夫なのか?」
ノアはもっともな質問を口にする。誰にやられたのか、体は平気なのか。そうノアは聞いたつもりだった。
するとロイは多少悩んだ末に諦めたようにため息を吐いて真実を口にする。
その返ってきた言葉は単純なもので、とても理解しがたいものだった。
「ただの病さ。俺はもうじき死ぬ」




