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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第1章 壊れ続ける日常
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第35話 心の荒波

 暗い世界に1人の美しい少女が立っていた。白い天使のようなその少女は微笑みながらこちらを見つめて口を動かした。その口から発せられた言葉は……



「⁉︎……ッ!」


 ノアは起き上がって辺りを見回し、自分が意識を失っていたことを理解する。


「また夢……そうか、負けたのか」


 ノアの羽はまだ半分以上白く染まっており再生力は戻っておらず、片腕もまだ無いままだった。


「やっと起きたか」


 ノアに声をかけたのはバッカスだった。

 ノアが命をかけたことを知らないバッカスは、いつまでたってもノアの傷が治り始めなかったため心配して起きるまで待っていたのだ。


「お前の傷、呪いはどうした」


「……大丈夫です。しばらくしたら治ります」


「そうか。ならいい」


 腕や翼が生えてきてもまた後遺症が残らないかは心配ではあったがノアは気楽に答える。


「ボスには伝えてあるから金を受け取っておけ。早いほうがいいだろう」


「何の話ですか?」


 ノアが意味がわからず聞き返したため、立ち去ろうとしたバッカスは面倒くさそうに足を止めた。


「あ?行くんだろ?ギルドに。そのための金だ」


「え・・・でも、僕は負けました」


「なにを言ってる。誰も俺に勝ったら、なんて言ってないだろう」


 冷ややかな目を向けて呆れているバッカスの様子を見ると、初めからそのつもりだったことがわかる。確かにボスから決闘の結果で決めると言われただけで勝ち負けのことは言われていなかった。



「合格だ。俺にこれほど傷を負わせられる力があれば十分だ。お前は強くなった。向こうでも十分にやっていけるだろう」


 それはバッカスにとって最高級の褒め言葉だった。ノアの成長ぶりは目を見張るものがあり、バッカスもノアを認めていた。


「……あはは、照れますね。ありがとうございます」


 ノアは頭をかきながら照れくさそうに俯く。バッカスとのあの接戦、初めて会った時に比べるとその差は歴然でノアはこの短期間の鍛錬で確実に強くなっていた。


「ふん、まぁだからといって油断はするな。向こうでも何があるかわからんからな」


「はい。それは肝に命じておきますよ」


 苦笑いを交わし、バッカスはニーナに会いに行くと言ってその場を後にした。ニーナは光の異能で傷を癒せるため治療してもらうのだろう。




 バッカスの傷も浅くはないがノアはまだ自力で動くことすら出来ずバッカスの後ろ姿が小さくなっていくのを静かに見ていた。


 そして完全にバッカスの姿が見えなった瞬間、無事だったもう片方の腕が潰れてしまいそうな勢いで地面を殴りつけた。


「くそぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!」


 バッカスの前では笑みを貼り付けていたが心の中にはやり場のない自責の念が激しく渦巻いていた。


「なんで勝てない……死ぬ気でやっても、殺す気でやっても、こうも僕の刃は届かないのか」


 ノアは爪が食い込むほど自分の肩を強く抱きしめ奥歯を噛み砕きそうなほど歯をくいしばる。


「何回負ければいいんだ。……ッ僕はこんな僕が憎いよ」



 獣のような叫び声は次第にやりきれない思いを溜め込んだ子供のような、か細い声に変わっていた。


 弱い自分が疎ましくてたまらない。


「……もっと完璧になるんだ。弱さを憎め、弱さを捨てろ。僕は負けない、もう負けないから。だから…だから……」



 自分に言い聞かせるように呟き、新たな仮面を心に被せたノアは、ひたすら透明な瞳で地面を見つめていた。


















 ―――――――――――――


 ボスの所へ行くから待っててとノアに言われ、ニーナ達に耳を触られながら出てくるまでテトは言われた通りじっと待っていた。


「アウルム。そろそろ朝食の支度の時間ですよ」

「わかってる。適当にお粥でも作るとするか」


 あまりに時間が経ったため、アウルム達は手にミトン手袋をはめて準備を始めたくらいだ。


「……わたしも手伝う」


 テトのおずおずと呟いた言葉に皆凍りついたように固まった。前回テトの手伝いにより、料理の味が闇の混沌へと誘われたことは知っているからだ。


「い、いや。今日は私達の番だからテトは休んでていいぞ?」

「そうですよ!お姉さん達に任せてください」


「……今まで全くやらなかった。だからその分、手伝いたい」


「だが慣れないことは……」


「……ダメ?」


 2人の言葉に含まれた焦りに気づかずに、しおらしく耳を伏せた健気な猫耳の少女。2人はそれ以上断れるはずもなく、テトのお願いに頷くしかなかった。



「あちゃー……」


 ニーナはその3人の様子を見ると手で顔を覆って朝食を食べることを諦めた。













 しばらくしてテトは出来上がった料理を手に持ちノアを探していた。


 テトは自分が作った料理をノアに食べて欲しいと思い、辺りをきょろきょろと見回す。皆んなを手伝いたいという気持ちも確かにあった。だがそれ以上に、ノアに自分の作った料理を食べて欲しいとも思っていたのだ。

 ノアに待っててと言われたが料理に夢中になってしまい、きっと戻ってきた事に気づけなかったのだろう。もうかなり時間が経ったため、いつものドームに行って身体を鍛え始めているかもしれない。そう思って、テトは湯気が立つ飯を持って足を早める。


 前にノアに食べてもらった時に美味しいと言ってもらえ、心がとても温かくなったのを覚えている。


(……また美味しいって言ってくれるかな)








 テトの猫耳がピコピコと動く。少し離れたいつもの場所、ドームの中からノアの叫び声が聞こえた気がしたのだ。少し不安になり鼓動の音が早くなっていくのを感じ、自然と足取りが早くてなっていった。



「……あ」


 そしてテトはドームの中に座り込んでいるノアを見つけ安堵の声が漏らす。だがそれもつかの間、ノアの状態に気づいた衝撃で皿を落として中身を地面にぶちまけてしまう。


 ノアは血を流して片腕は無く、羽も散っているのだ。テトが驚かないわけもない。心を掻き毟られるような焦燥感に襲われ、心のままにノアのもとへ駆け寄った。


「その腕、どうしたの……なにが」



「ああ、テトか。バッカスさんの試験を受けたんだ。大丈夫、傷ももう治り始めてる腕もそのうち生えてくる」


「試験?」


「うん。ボスからハンターになるための許可を得るために、バッカスさんに認めてもらう必要があってね」


「…………え」


 テトは思考がまとまらず声にならない音を口から漏らす。

 自分が料理で夢中になり、舞い上がっている間にノアがこんなに酷い状態になっている。そしてなによりテトを混乱させたのがノアの様子だ。

 血だらけで腕もなくなっている、それなのにノアの表情は恐ろしいほど穏やかなのだ。

 テトはここへ来る前に確かに聞いたのだ。怒りを含んだようなノアの叫び声を。

 それなのに今のノアはなにかふっきれたように落ち着いて笑ってる。それが更にテトを不安にさせた。


「何処かへ……行っちゃうの?」


「あはは、行かないよ。確かに少し出かけることはあると思うけど、夜にはまた戻ってくるし心配しなくていいよ」


 午前中にギルドへ行き、日が沈む頃にはまた戻る。ノアがテトと離れる時間はそう長くもないだろう。だがいつもいつも見てないところで傷ついて血だらけでノアは目の前に現れる。それがテトには不安で不安でたまらなかった。


 行かないで


 その言葉を言えたらどれだけいいか、テトは潰れてしまいそうな胸を押さえて口をつぐんだ。


 聞きたい事は沢山あるのに、テトは何一つ聞くことができなかった。

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