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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第1章 壊れ続ける日常
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第24話 怪物な少女

 ノアは相変わらず一日中鍛錬に励んでいた。朝からバッカスに教えを乞い技を磨いていき夜になると腕立てや走り込み、柔軟などの体づくりを行い引き締まった身体と数時間走り続けても息ぎれしないほどの体力を作り上げていた。

 あの日ノアが盗んだものは何の変哲もない箱で他の者にはもわからない隠れた価値のある物だけだった。そのためヤタガラスという怪盗は騎士の顔に泥を塗ること自体が目的だったと思われノアの首には賞金をかけられた。賞金をかけられたといって予告状を出したりしなければ特に仕事の難易度が上がるわけでもないだろうとノアはそこまで気にしてはいなかった。


 今日は久々にユグドラに仕事を貰いいつものようにテトに声をかけた。


「・・・行かない」


 だが返ってくるものはやはり否定の言葉だった。ノアはテトの様子を見るとこれ以上しつこく誘うべきではないと判断し一人で夜の街に出た。







 ノアはムスペルスヘイムに侵入しこの前とは違う貴族の屋敷にいた。ノアは屋根に穴を開けて侵入すると息を潜めて気配を探る。中に数人の騎士、前より少ないが個々の実力が高いことが感じられた。


「気をつけていかないとな」


 ノアは慎重に行動し音を殺して進んでいく。敵の視線を把握しつつ常に視界の外へ行くことを心がけていた。

 しかしそれでもノアの潜伏技術よりも騎士達の察知能力のほうが数段上手だった。騎士達は剣のつかに手を置いて意識を尖らせ始めた。見つかったと思いノアが咄嗟に影から出て構える頃には既に騎士は剣を抜いてこちらに間合いを詰め始めていた。ノアはナイフを振り上げて剣の軌道を無理やり変えるが完全には防ぐことができずに足を削がれる。


「殺しても構わん!囲い込んで殺れ!」


(ックソ!またバレた。何がいけないんだ)


 騎士達はノアを一瞬で包囲し剣を握って一斉に襲いかかった。ノアはその剣を全ては避けきれずにいくつかを身体にもらい血を流して膝をつく。


(まずい、な)


 ノアは朦朧とした意識の中、必死に歯を食いしばって立ち上がろうとする。


「そのマスク、貴様が噂の怪盗とやらか。雑魚が思い上がりおって。残念だが死んでもらおう」


 騎士達は容赦なく剣をノアに向かって振り下ろし床を鮮血で染めた。











ーーーーー


「・・・わたしは」


 テトは罪悪感に呑み込まれていた。

 人と接するのが怖くて怖くてたまらなく可能な限り人との接点を作らないようにしていた。だが最近何を思ったか、いきなりボスが新入りを自分のパートナーに選んだのだ。最初はあの新入りを凄く弱そうで触れただけで割れてしまう脆いガラスのようだと思っていた。だが彼はどんどん強くなっていく。予告状のこともそうだが見ていてとても危なかっしい生き様とは思うが懸命に前へと進んでいる、そんな彼が羨ましかった。

 そして彼は誘っても無駄だとわかっているだろうに毎回毎回自分を仕事に誘ってくる。しかし毎回誘ってくるわりには一度断ったらそれ以上は言ってこないし嫌な顔一つもしなかった。そのうえ報酬は分配してくる、それがテトには不思議でならなかった。自分だってただ行きたくないから行かないわけではなかった。ただただ怖い、それだけだ。


 この前誘われた仕事を拒んだ次の朝、彼は身体中傷だらけでいつも自分を誘ってくる時の彼からは想像出来ないほど辛そうな顔をしていた。パートナーが自分ではなかったら彼はそんな目に合わなかったのではないのか、そんな考えが頭によぎってしかたがない。

 彼が何度も声をかけてくれて一緒に行ってみようと試みたのだって一度ではない。だがそう思うたびに恐怖が身体に浸透し始め脚が震えて耳鳴りがするのだ。




 《お前のせいでまた人が死ぬ》




 《痛い、痛いわ!なんでこんなことするの?この人でなし》




 《あの子は呪われてる。近づいたら俺たちもあんな風になっちまうんだ》




 《あんなに愛してやったのに、この怪物が》



「イヤッ!イヤッ!ヤメテッ・・・」


 昔自分が犯した大罪、目に焼き付いている自分が変えた大切な人たちの姿。手に残る人だったものを触ったあの感触、それらが幻聴を生みテトを苦しませていた。


 苦しくて苦しくてたまらない。生きているのがつらい。皆だって自分をここに置いてくれてはいるが心の中ではきみ悪がっている。

 そう考え始めたら周りの視線や口の動きが気になって仕方なくなった。仮面をつけて俯いたとしても嫌でもその情報は入ってくる。


 1人になりたい。1人はいやだ。他人がおそろしい。自分がおぞましい。


(誰か...助けて)


 テトは1人孤独という猛毒に蝕まれて耳を抑えうずくまった。







 ーーーーーテトは貴族の生まれだった。


 裕福な家庭で美味しい食べ物を望む時に食べ、柔らかいベッドで眠る、そんな暖かくて幸せな日常。父も母も祖父も祖母も皆優しくテトに愛情を注いでくれていた。何不自由ない幸せの暮らし、それを壊したのはテト本人だった。


 貴族という身分は周りに敵を作ることが多かった。自分達がもっと上に上がるためには周りを落とさなければならない。それはテトの家族も同じことで同じように周りを潰しながら潰した他者の暮らしの上で自分たちの日常を作り上げていた。

 ある日その日常が壊れる出来事が起きた。どこぞの貴族の使いがテトの家族を襲ったのだ。よくある話、暗殺だ。祖父は既に殺されて死体となってリビングに転がっており、父は縛られ他の皆んなも一箇所に集めさせられた。

 父達は顔を青ざめさせ涙を流しながら命乞いをした。


「た、助けてくれ。金ならやる!」


「黙ってろ!お前らも同じこと今までやってきただろ?自業自得だ」


「子供だけでもいい、だから!」


 その貴族の使いは父の首に短剣を押し当てて一気に引き抜いた。父の首から勢いよく血が吹き出し、それはまだ幼かったテトの顔にも飛び散った。


「黙れって言っただろ?」


 ニヤついた笑みを浮かべて血がついた短剣をテトに見せるように振り回す。身体は震え上がり怖くて声もでず、そんなテトを母と祖母は必死にあやした。だが最初は大丈夫とテトに言い続けていた母も次第にごめんねという謝罪の言葉に変わっていた。


「ごめんねテト、こんなことになっちゃって。お母さん達が間違ってた」


 おそらくテトの知らないところで母や父はいろんなことに手を出していたのだろう。だがそんなことどうでもよかった。今テトの頭を撫でて愛してくれている家族を守りたいと思った。






 そんな時、頭の中で聲が響いた。

 ドロドロとした負の感情を含んだおぞましい聲が。




『家族を守りたいか?目の前のやつらを殺したいか?それならこの力を使え、摑み取れ』





 テトは身体の中に新しい何かが芽生えたのを感じた。家族を守れるならなんだっていい、それを使って自分がどうなろうと構わない。

 テトは躊躇なく身体の中にある「何か」に手を伸ばした。


「お、おい。このガキ、なんだそれは!まて。やめろ!」




 その瞬間、目の前は真っ暗になった。







 気がつくと暗殺しにきた奴らは何故か全員いなくなっていた。おそらく自分が追い払ったのだと思えた。


「お母さん、お婆ちゃん。あいつらどっかにいったよ。もう大丈夫だ............よ?」


 テトは自分達が助かったことに母と祖母を助けられたことに喜んだ。しかし周りを見回しても母と祖母はいなかった。部屋中に変な匂いが漂い、床に何か謎の潰れた物体があるだけ。


「お母さん?お婆ちゃん?どこ?」


 そのまま気づかなかないままだったらどれだけ幸せだったことか、テトは直感で全てを理解してしまったのだ。

 床で潰れてぐちゃぐちゃになって焦げている物体は暗殺をしにきた貴族の使いだろう。そして、テトの横にもそれはあった。

 それは焼け爛れた肉塊、人の腐り果てた成れの果て。母も、祖母も、こいつらも、屋敷中の生物をテトがこの腐った肉塊へと変えたのだ。


「嘘、いやっ。ちがっ、違う!そんなつもりじゃ!」


 まだ幼い少女はその事実に耐えきれず頭を抑えて現実から目を背ける。だがなんとなく覚えているのだ、母親を祖母を溶かしたあの感覚を。テトは腕に張り付いていた親の溶けた肉を振り払うと盛大に嘔吐した。身体中にこびりついた母達の血肉は黒くなっており、母であったものは変わり果てブニブニとした個体とも液体とも言えない塊になっていた。それを自分がやった、そう理解した時声も出ない叫び声を出すと遠くを見つめて乾いた笑みを1人残ったこの部屋で響かせた。彼女は小さな身体で家族ごと皆殺しにした怪物だった。





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