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成れ果ての不死鳥の成り上がり・苦難の道を歩み最強になるまでの物語  作者: ネクロマンシー
第1章 壊れ続ける日常
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第16話 怪盗

 空が黒一色に染まり音のない時間帯が訪れる。

 その暗闇に紛れる二つの影が街の屋根を駆け回っていた。目的地はこの中央街北区の領主の館だ。2人は屋根から屋根を飛躍して移動を行ない、黒いコートをひらめかせて空中を渡っていく。

 その2人は黒いコートで身体を包み、赤い仮面を被った少年と黒い鳥のマスクをつけた少年、ロイとノアだ。


 煙突やベランダの手すり、窓の縁やレンガの壁などとても足場とは言えない場所をロイは器用に蹴り、前へ前へと高速に進んでいく。


 その速度にノアは驚愕していた。最近は寝る時間も全て走り込みなど脚を鍛えることに使い、スタミナも付いてきたと思っていたがロイは桁違いのスタミナとスピードを持っており、ついていく事が精一杯だ。そしてなにより驚いたのは音が無いこと、無音なのだ。壁を駆け上がって飛び上がり、遠くの屋根に着地する。それまでの全てに音が発生する余地がない。ノアもついていくが着地をすれば屋根が軋む音もするし、全力で走るため足音すら響いてしまう。

 力量だけでなく技量も足りないのだと実感してしまう。そんなことを考えているうちに目的地に到着する。策を跳び越え庭に入り込み、近くの木の裏に身を隠す。


「いいかノア。言った通り今日は見てるだけでいい。門の前の警備に見つからずに横から侵入するから、せいぜいついてこいよ!」


 ロイは小声で指示を飛ばすと、ノアが頷くのが早いか一目散に走り出した。警備の視線を常に把握し、視界の入らないルートを駆け巡り、裏に回ると小窓に耳を当てて中に気配がないことを確認する。

 あらかじめ決めていたハンドシグナルで、ノアに今回の目的である本の場所、書庫の方向とタイミングの合図をする。途中の通路を見回りしている警備が近くに来ると天井に張り付き息を潜め、その後も何の支障もなく書庫につく。1番奥の本棚が隠しドアになっておりその奥に一冊の本、今回の目当てのものがあることすらユグドラから伝えられているため知っている。侵入してから数分で仕事は既に終わりかけていた。


(凄すぎる……。 ロイの動きや判断の早さ、流れるように進んでいく。何かのパフォーマンスを見せられてるみたいだ)


 ノアはロイの動きについてはこれたが、危うい場面も多々あり、今も息が上がっている状態だ。しかも息が整う前にロイが本を回収して戻ってきたため少しの間待ってもらったほどだ。しばらくして落ち着くと、ロイはハンドシグナルで撤収を表し、またすぐに音もなく走り出した。


 行きは窓から侵入して暗い通路を通ってきたが今は幅が広い階段を走っており、灯が十分にあった。灯があるということは、それだけ見つかりやすくなるということ。行きの道よりも明らかに危険な気がし不安はこみあげるが、ロイが選んだ道なのだから間違えはないと判断した。

 するとすぐに数人の見回りが立っている広場に出た。


(こっちは来た道とは比べられないくらい警備の目が多いな。 まだバレてはいないようだけど)


 ノアが思わず足を止めてしまった間に、ロイは止まることはなく広場のど真ん中に向かって飛び、天井にぶら下がっているシャンデリアの上に着地する。そしてシャンデリがゆっくりと揺れているのを利用し、また隣のシャンデリアへと移っていく。その姿はまさに優雅だった。

 ノアも見よう見まねで同じように飛びシャンデリアの上に着地しようと翼を広げて飛び上がる。しかし


「侵入者だ!泥棒が入ったぞ!」


 銀の兜をかぶった警備員が上を見上げて叫んだ。ノアはロイが飛んだ時はあまりにも音がしなかったため、自分でもいけるかもと思ってしまった。しかし、着地したシャンデリアは鎖の音を盛大に鳴らしながら激しく揺れてしまい、当然視線を集めてしまったノアは見つかってしまった。


(くそ、やってしまった。こんなに揺れるのか)


「バレた!仕方ない、ノア! このまま走り抜けるぞ!」


 ロイは窓の方に指を指しながら叫び、ノアもそれに従って行動した。窓に体当たりをしてガラスを突き破り、外へと飛び出る。高さはかなりなものでノアは翼を広げて下降したが、ロイは身体を丸めて転がることで衝撃を和らげ綺麗に着地していた。

 結局は追手に捕まることなく逃げ切りタルタロスに戻ることはできたが、明確な差を感じたノアは素直に喜ぶことはできなかった。



 






 ーーー

「ロイ、ごめん。足を引っ張ってばかりで、待ってもらった挙句にバレちゃうなんて」


「いいさ。最初なんだからこんなもんじゃないかな。でも今日行った館は見張りも弱かったし手薄だから良かったけど、普通は見つかると即アウトだから。それだけは気をつけろよな」


 ロイは笑って許してくれたが失望されたかもしれないし、心の中では激怒していてもおかしくはない。今日の自分はどうしようもないほどみっともなく実力不足を実感するには十分すぎた。


「ノアも今日は休みなよ。仕事は週に1回はあると思うから。次からは一緒に行けないけどヘマせず頑張れよな」


 ロイはその後、盗んできた本をボスに渡しておくと言ってユグドラの部屋に行ったため、残されたノアはドームへと向かった。





 ノアはドームの中、広場のど真ん中に立つと目をつぶり「視る」のをやめた。激痛を堪えながら走り続けていたため、ふらつきはするが倒れることは許されない。成果はあったのだ。



 今日は散々な姿を晒した。


 ロイに迷惑をかけて気を使わせた。


 その間ノアは何をしていたのか。


 ただ見ていた。


 そう、ノアは今日ずっと視ていたのだ。


 眼を発動させながら、今日ノアは過ごしていた。


 この眼で全てを視て見続けた。ロイが歩くときの筋肉の動かした方から視線の配り方まで全てを『この眼』で視ていたのだ。目から垂れる赤い血を拭い、今日視てきたことを自分の身体で再現する。


 筋肉を柔らかくし着地する際につま先から踵まで波のように滑らかにつけ、足の先から太ももまでバネのように曲げることにより衝撃を最大限に吸収し音を殺す。意識してやらずに感覚で行う。


 かなりの技術を求められる一連の動作、できるようになるのは至難の技だ。しかしノアの執念と圧倒的集中力がそれを可能にした。

 できたといっても付け焼き刃に過ぎないし、まだロイよりは劣っているうえにミスも出てくるだろう。けれどそれなら今から極めればいいだけだ。

 



 恥を誉れに。失敗から強さに作り変えろ。


 ノアは成功を喜ぶ間も無くこの技を難なく使える身体づくりを始める。今日の無力感を魂に刻む。



 ーーー失敗に二度はないーーー












 ―――ロイはユグドラに本を渡し仕事の完了を言い渡された。


「ご苦労様、よくやってくれたよ」


 ユグドラはソファーに寄りかかりロイをねぎらい賞賛する。


「これでよかったんですよね?」


「勿論だとも。ただ、ボクが頼んだとはいえ君も容赦ないね」


 ユグドラはロイ達の行動をなんらかの方法で把握しており、その結果に満足していた。


「俺も驚きましたよ、置いていくつもりで頑張ったんですけどまさか最後までついてこれるなんて」


 ロイは今回の仕事で、余分に体力を使ってでもいつもの何倍ものスピードで進み、あえて警備が多い道を選びノアが警備に見つかるであろうルートを選んだ。そして目論見通りノアを警備に見つけさせることに成功していた。ユグドラに朝食の前に呼び出され、そう行動するように命じられたのだ。


「しかしなぜこんなことを?」


「あの子に成長してもらうためだよ。 あの子は努力家だからね。今頃悔しさのままに身体を動かし鍛錬しているだろうさ」


「いえ、俺が聞きたいのは何故こんな面倒なやり方なのかってことですよ。全力で力の差を見せつけろ、なんて。普通に教えてあげてもよかったのでは?どうせその本も大した本じゃないんですよね?」


「そうだよ。手本を十分に見せられるし、いい条件が揃ってる。今回の場所が最良物件だったのさ。これもあの子に弱さを味わってもらうため。あの子は弱さを受け入れているように見えるけど、心の底では弱さに対して煮えたぎるほどの怒りを感じている。それを糧に爆発的に成長するよ。……今から化けるのが楽しみだね」


 ユグドラは手に持っている本をろうそくの炎で炙って塵へと変え、くつくつと楽しげに笑った。





 





 ーーーー銀の兜を脱ぎ捨て1人の少年が苛立ちのあまりに壁を殴った。 彼は憲兵を目指して今日やっと初の仕事を任された。だがそれを狙ったかのようなタイミングで賊に侵入されたあげくに逃がしてしまったのだ。家主には怒鳴られ、周りの評価もドン底に違いないだろう。


「ちくしょう!あの鳥のマスクをつけたやつ、必ず捕まえてやる!」


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