113.変わり出す神国
―ロープ視点―
そっと創造神が住む建物に潜り込む。
「大丈夫?」
俺を包み込んでいるのろくろちゃんに話しかけると、ふわっと優しい風を感じた。
「頑張ろうね!」
その返事に、先ほどより少しだけ力強い風を感じた。
のろくろちゃんは、役割を貰えた事で少し変わった。
前までは、意思疎通が少し難しい子がいたのに今はいない。
どの子も、自分の意志をはっきりと伝えられるようになったのだ。
のろくろちゃん達も自分達が役に立つと知って、成長したんだろう。
闇から闇に渡っていると、大きな部屋に辿り着いた。
今日は、その部屋に多くの神達が集まっている。
これは創造神の指示で集められた神達だ。
どの神も、少し戸惑った表情で周りにいる神達の様子を窺っていた。
風が振動した。
そして、ある方向に微かな力が流れる。
その方向に視線を向けると、苦々しい表情をした神達がいた。
「監視を強化している神達だね。周りに神がいるのにあんな表情をするとは、大胆だね」
まぁ、彼等はきっと周りなんて気にしていないんだろうな。
周りにいる神達は、そちらへ視線を向けないように気を付けているし。
巻き込まれたくないからなんだろうけど、神としてその態度はどうなんだろうな。
風が不安定に揺れた。
のろくろちゃん達が、笑っているようだ。
どうしたんだろう?
不思議に思っていると、先ほどのようにある方向に力が流れた。
そちらには、苦々しい表情の神達を呆れた表情で見ているカシュリア神がいた。
第2位の神にしっかりと見られているんだけど……気付いていないか。
まぁ、あの態度が出来るのも、中心にいる神の存在が大きいんだろうな。
「周りの神達と、繋がっている事を隠していたのにね」
俺の言葉に賛同するように風がふわっと揺れる。
視線の先には、第12位の上級神。
周りにいる神達の態度が悪いのは、あの上級神に権力があるからなんだろうな。
第12位の上級神はとても綺麗な女神と言われている、んだけど。
綺麗ではないし、女神というより悪鬼?
もの凄く表情が歪んでいるのは、怒り狂っているからかな?
集まるように指示が出た時も、「青二才が」と苛立った表情で傍にいた神族に当たりちらしていた。
創造神は、神としてはまだかなり若いから認められないのは仕方ない。
でも、周りにいる者に当たるのは間違っているよね。
「それにしても本当に怖い顔。あっ、彼女のパートナーも一緒か」
パートナーの神は、神族達にものすごく嫌われている。
権力を振りかざして、神族に対してやりたい放題だからだ。
「まぁ、そのお陰で第12位の神と周辺の神達の繋がりが筒抜けなんだけどね」
主と神族達が開くお茶会。
それに、パートナーに虐げられた神族が参加し始めたのは、少し前。
そして数回参加した神族は、主にある紙の束を渡した。
その紙の束は、第12位の神と彼女と繋がっている神達が交わした契約書だった。
主はその紙の束を見て、首を横に振った。
そして「これを持ち出したとバレたら、あなたに被害が及ぶのでは? 少しでもその可能性があるならいらない。すぐに戻した方がいい」と言った。
情報を渡そうとした神族は、本当に驚いた表情をしていた。
そして少し迷った後、主にもう一度紙の束を差し出した。
相当な覚悟をして持って来た事を知った主は、その紙の束を受け取った。
今のところ、契約書が持ち出された事はバレていない。
セブンティーンが作った道具でコピーして、契約書に感じた神力を主が真似て偽物に施したお陰で、かなり詳しく調べないと偽物だとバレないからだ。
ある日のお茶会で、偽の契約書でバレないと話題になった。
そしてその次のお茶会では、契約書や極秘の書類を持ち出した神族達が集まった。
まぁ、神族達をぞんざいに扱った結果なんだろう。
「みんな、集まってくれた事に感謝する」
創造神が、神達の前に姿を見せた。
その堂々とした立ち姿に、バレないように拍手を送る。
彼は、主との話し合いのあと本当に変わった。
特に、入ってくる情報にはかなり気を付けているようだ。
「今日は、この創造神が住む建物の開放を宣言する」
創造神の言葉に、神達がざわつく。
それはそうだろうな。
今いる建物は、創造神を孤高の存在に見せるために作られた物だ。
そのため、限られた者達しか入ることが出来ず、また簡単に外に出る事が出来ないようになっていた。
今までの創造神は、この中で孤独と戦ってきた。
いや、高みの見物をしていた可能性もあるな。
「それはいけません!」
ある神が、創造神の前に来ると大声で叫ぶ。
「なぜだ?」
創造神の言葉に、驚いた表情をした神は険しい表情をした。
「創造神は、神達の中でも特別な存在。この建物は、その身を守る物。神達が出入りするようになれば、創造神の存在が穢されます」
多くの神が頷く中、創造神は首を傾げる。
「身を守る?」
「そうです」
「守られた事が無いのだが。逆に、中に閉じ込められたせいで私は創造神としての力を失うところだった。お前たちは創造神の何を知っている?」
創造神の言葉に、神達が戸惑った様子を見せる。
「なぁ、お前たちは創造神の何を知っている?」
目の前に来た神に、創造神は視線を向ける。
その視線は、かなり険しい。
「創造神は、誰よりも尊い存在です」
「尊いね」
「そうです! 創造神は、その地位に合った行動をとらなければなりません」
「つまり、神達の罪を魔神達に押し付けた事に目を瞑った事は、創造神の地位に合った行動なんだな」
「えっ?」
「見たくないものを魔界に落として無かった事にした神達を放置したのも、創造神に合った行動なんだな」
「あの……」
創造神の言葉に、顔を青くしていく神達。
多くの神達は知っているのだ。
これまでの神達の行動に、問題があると。
「尊い存在というのは、随分と愚かな行動が合うのだな」
「なっ、今までの創造神を――」
「間違いを犯した神達を放置し続けた結果が今だ。落ち神を誕生させたのは、元創造神だ」
かなり切り込むな。
創造神を狙う者が出そうだな。
あぁ、数柱が動き出したな。
周りにいる孫蜘蛛達に合図を送って……よしっ、届いた。
あとは、フィオ神に伝えておこうかな。
フィオ神を見ると、近くにいた孫蜘蛛が伝えてくれたのか、周りを警戒し始めた。
ただ、動き出した神達もかなり慎重だから気付けないかもしれない。
あっ、音で知らせよう。
えっと、動き出した神達の傍にいる孫蜘蛛達に音を出すように合図を送って。
コツ、コツ、コツ、コツ。
フィオ神が気付いた。
これで、あれ?
カシュリア神も、何か感じたみたいだな。
「上空からの監視をお願いしていい?」
同じ闇の中にいた孫蜘蛛を見ると、前脚を上げてくれた。
それに手を上げて応えると、闇からそっと出る。
のろくろちゃん達が作ってくれた結界の様子を見る。
大丈夫。
そっと、フィオ神に近付く。
丁度、カシュリア神がフィオ神に話しかけるところだった。
「何かあるのか?」
「何がだ?」
フィオ神の言葉に、カシュリア神が周りを見回す。
「動きがおかしい神が4柱。その神達の仲間も怪しい動きをしている」
気付いたのか。
フィオ神はどうするのかな?
「創造神に危害を加える可能性がある」
「なるほど。フィオ神は動くな。私が動く。部下も動きたいだろうし」
カシュリア神の言葉に、壁際にいる神達を見る。
カシュリア神と共に来た神達で、密かにカシュリア神が鍛え上げている者達でもある。
「分かった。カシュリア神に任せる」
フィオ神の視線が一瞬だけカシュリア神から俺の方に向く。
了解。
俺も手は出さないよ。
「んっ? あぁ。……今、誰に言ったんだ?」
カシュリア神の勘には要注意だな。
「カシュリア神だが?」
「……そうだよな。悪い」
少し腑に落ちない表情のカシュリア神。
彼女の傍は危険だな。
戻ろう。




