55.芽と力。
お昼を食べてのんびりしていると、妖精が慌てた様子で地下神殿から出て来た。
「どうしたんだ?」
ここまで妖精が慌てるなんて、地下神殿で何かあったのか?
朝見に行った時には、問題が無かったのだけど。
「芽が、芽が、枯れ始めた!」
め……あぁ、地下4階の棺桶が消えたあとに広がった植物の芽の事か。
本葉が出た後は、なかなか成長しなくて心配していたんだけど。
それが、枯れ始めた?
朝は、どうだった?
特に気になった事はなかった。
あの場所に流れる力もいつも通りだったし、芽の様子も一部分しか見ていないけど問題は無かった。
「枯れ始めたのは、どの辺りだ?」
見ていない場所の芽が枯れてきたのかも。
あの芽が、どんな植物の物なのかいまだにわかっていない。
なぜ急に育ち始めたのかも不明だ。
オアジュ魔神やアイオン神に見せてみたが、分からないと言われてしまった。
ただアイオン神曰く、死者の花の芽と似てはいるらしい。
でも、少し違うそうだ。
「全部」
んっ?
妖精の言葉に首を傾げる。
「全部?」
「うん。全部が一斉に枯れ始めたの!」
という事は、朝見た部分も枯れ始めたのか。
「とりあえず、見に行こう」
妖精と一緒に地下神殿へ向かう。
「一緒に行きます」
地下神殿へ向かう俺達の後を、リーダーが付いてくる。
「ぼくも~、ぼくも~」
あっ、リーダーと一緒にいるのろくろちゃんも来るみたいだ。
あの場所が変わってから、初めてのろくろちゃんを連れて行くけど大丈夫かな?
ちょっと心配だな。
「リーダー、のろくろちゃんの様子をみておいてくれ。異変が見られたら教えてほしい」
「分かりました」
これで大丈夫だな。
何かあったらすぐに地上に戻って来よう。
地下4階に着くと、少し顔を歪めた。
朝まで問題が無かったのに、空間に流れる力がおかしい。
元々この空間を満たしていた力は、弱かった。
それが今は、もっと弱くなっている。
「妖精。この状態はいつからだ?」
俺の言葉に不思議そうな表情を見せる妖精。
あれ?
もしかして、気付いていないのか?
「えっと、芽は少し前から枯れてきて」
あっ、芽の事だと思われた。
「それではなくて。空間に流れる力の事なんだけど」
「力? ちゃんと、ありますが?」
力がある事は分かっているみたいだけど、強弱はわからないのか?
「主、この空間に力が満ちている事は分かりますが、微妙な強弱を普通はわかりません」
微妙な強弱?
確かに元の力が強くなかったから、微妙に弱くなった程度か。
これぐらいだと、普通は分からないものなのか。
「そうなんだ」
「そうなんです」
俺の言葉に頷くリーダー。
「ごめん、妖精。この空間を流れる力が微妙に弱くなっているんだけど、普通は分からないらしい」
「微妙に弱く……そっか」
俺の周りをくるくる回る妖精。
変化に気付けなかった事に、少し落ち込んでしまったみたいだ。
あ~、やってしまった。
俺と仲間達の力の差は、神になった事でかなり広がってしまった。
だから「俺が出来るからと言って、仲間が出来るとは限らない」と、何度も頭に叩き込んだのに、すっかり忘れていた。
これからはもっと気を付けないと。
「それより芽だな」
とりあえず、力の事から目を逸らそう。
「うん。どうしよう?」
妖精の言葉に頷くと、枯れ始めた芽の傍に寄る。
確かに、本葉の先が茶色くなって枯れ始めているのが分かった。
これは、朝に確認した時には見られなかった変化だ。
「このままだと、枯れてしまいそうだな」
でも、どうしたらいいんだ?
そもそも、この芽に必要な物はなんなんだろう?
それが分らないと、手の施しようがない。
「それに、この空間に流れる力が弱くなったのも気になる」
力が弱まった空間。
それに枯れてきた芽。
絶対に関係あるよな。
……もしかして、力が不足して枯れ始めたのか?
この芽は死者の花とは違う。
でも、この場所は元々棺桶があって、死者の花が詰まっていた。
品種改良では無いけれど、呪界に移動した事で死者の花が変化したかもしれない。
アイオン神も、似ていると言っていたし。
「とりあえず、この空間の力を元に戻してみるよ」
何をすべきか分からないから、まずはおかしくなった部分を直そう。
空間を満たす力が元に戻れば、何か分かるかもしれないし。
意識を俺の中の力に向け、体の外に流れるようにイメージを作る。
ぶわっ。
空間に力を伴った強風が吹く。
慌てて周りを見る。
「良かった」
強風で芽が飛ぶかと思ったけど、大丈夫だったな。
「主、流した力が強すぎるのでは?」
妖精の言葉に苦笑してしまう。
「そうみたいだ」
次は成功させたい。
えっと、体から溢れる力のイメージを小さくして……どんどん小さくして。
ぶわっ。
「「「……」」」
えっ、結構弱くなったと思ったのに、まだ強いのか。
もっと少なく、少なく。
いや、力を薄めるイメージにしてみよう。
ふわり、ふわり。
あっ、上手くいった。
「よしっ。成功だな」
ようやく理想の力加減が出来て、ホッとする。
力を小さくするイメージより、薄くするイメージの方が良かったんだな。
「主! 枯れた部分が復活してる」
「えっ!」
妖精の言葉に、傍の葉っぱに視線を向ける。
枯れた部分の表面がぼろっと落ち、その下に綺麗な葉っぱがあった。
普通の植物とは違う反応だけど、成功したみたいだ。
「力不足だったのか」
もしかして力が足りなかったから、成長が出来なかったのか?
「主、半分ぐらいの芽が復活したよ」
「半分か。あっ、空間の力が弱まった」
元に戻した空間の力が、スッと弱くなったのを感じた。
やはり、力不足で芽が枯れたみたいだな。
先ほどと同じ要領で、空間の力を元に戻す。
「あ~、隅まで復活したよ~」
少し遠くを飛んでいた妖精から、嬉しそうな声が届く。
良かった、これで大丈夫。
「いや、これで大丈夫なのか?」
芽が成長していくためには、力がもっと必要なんだと思う。
でもこの空間には、今の芽をキープする力しかない。
もしかして芽が成長しようとして、いつもより力を取り込んだからキープする力が不足したのか?
「もっと、もっと」
「もっと、もっと」
えっ?
リーダーの傍にいるのろくろちゃんが、俺の傍に来ると「もっと」と訴えてくる。
「もっと、もっと」
「もっと、もっと」
のろくろちゃんの言葉に首を傾げる。
何が「もっと」なのだろう。
もしかして力をもっとと言っているのか?
「この植物の成長には、もっと力が必要なのか?」
「うん、うん」
「そう、そう」
やっぱり力を求めていたのか。
「分かった」
もう少しこの空間に強い力を流してみるか。
「だめ、だめ」
「むり、むり」
えっ?
いざ、力を流そうと思ったら、のろくろちゃんから「駄目」「無理」と言われてしまった。
もしかして力が強すぎた?
でも、枯れた芽を復活させたぐらいの力だよ?
「もっと、もっと」
「ずっと、ずっと」
もしかして、
「俺が力を流すのは、駄目なのか?」
「ちがうの~。ずっと、もっと。ずっと。ずっと」
えっと、俺の力でもいいみたいだな。
ただ、ずっと今より力が必要……という事かな?
難しいな。
今日の、リーダーの傍にいるのろくろちゃんは、伝えるのが苦手みたいだ。
「同じ、同じ、ずっと、ずっと」
のろくろちゃんが、1つの芽に近付く。
そして芽に向かって、手を差し出す動作をする。
「あっ、同じ量の力をずっと芽に送り続けるのか?」
俺の言葉に嬉しそうに飛び回るのろくろちゃん。
ようやく、分かったぁ。
んっ?
……ずっと、休憩なく。
まさかとは思うけど。
「芽に直接?」
「そう、そう」
「そう、そう」
俺1人では無理だな。
だから止めたのか。
「あっ」
魔石に力を籠めゆっくり放出するようにして、芽の近くに置くのはどうだろう?
もしかしたら、魔石の強化にも役立つかもしれない。




