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1-12 あれ? もしかして中二症治った?

「フククククク。世にいずることなき無垢むくの仔よ。貴様等に更なる責め苦を与えてやろう」


 俺様は穢れを知らぬ無垢の仔(鶏卵)を、煮えたぎる(沸騰した)透明なマグマ(お湯)の中へと入れる。無垢の仔は何一つ叫び声を上げることなく、その中へ身を落とした。


「ワハハハハハ! 潔いな。本能的に抵抗など意味無しと判断したか。懸命だ。貴様も見習ってはどうだ」


 無垢の仔とは対照的に、緋色の咎人(ベーコン)は苦しみで悲鳴を上げていた。


 パチッ! パチパチッ!!!


 咎人は円形処刑場フライパンで大量の汗を流し、桃色の肌が黒く焦げ始めていた。


「フククククク。これで終わりかと思ったか? 甘いぞ!」


 俺様は咎人を裏返し、両面をしっかり拷問する(カリカリに焼く)


「さて、こちらの様子はどうかな?」


 俺様は電熱炙焼拷問装置(トースター)に取り付けられているレバーを一気に引き上げた。すると、2体の正方天使(食パン)見るも無残な(こんがり焼けた)姿で飛び出した。


「ワハハハハハ! 自慢の純白の肌が、綺麗な狐色に焼けておるぞ。いい香りだ。貴様の顔に丑の血液から錬成した劇物バ・ターを塗りたくってやろう」


 次に、俺様は暗黒低温牢獄(冷蔵庫)の中から、コロコロと丸く太った薄緑色の罪人(レタス)と、紅き子供(プチトマト)を6人取り出した。

 そして残虐にも! 薄緑色の罪人の皮を手で一枚一枚剥いでいく。


 ペリッ! ペリペリッ!


「今日はこのくらいにしておいてやろう」


 3枚くらい皮を剥いでから、俺は罪人を暗黒低温牢獄に収監した。


「さて貴様等はこうだ!」


 紅き子供達から、受け継がれし緑色の帽子(プチトマトのへた)を無慈悲にも奪い取る。


 ブチリ! ブチリ!


「覚悟せよ、本番はここからだ!」


 薄緑色の罪人を細かく引き千切る。真紅の子供達は真っ二つに両断。さらに茹で上がったゆで卵じゃなくて無垢の仔は輪切りだ。なんと残虐な仕打ち! まさに魔王の所業!


「仕上げだ!」


 哀れな生贄共を皿の上に並べ、特に意味も無く高い位置から乳白色の毒液(ドレッシング)を降り注ぐ。後は余っていたクルトンを適当にまぶせば……


「ワハハハハハ! 緑と赤と白の狂宴(シーザーサラダ)の完成だ!」

「二郎君おはよう」


 突如、背後から欠伸を噛み殺した声。振り返ると、寝癖で頭が爆発した父さんが立っていた。


「ホワッ!! いつからそこに」

「もの凄い笑顔でトーストにバターを塗り始めた辺りから」


 だったら先に声をかけて欲しい。のんびりと観察しないで欲しい。これから朝食だというのに、恥ずかしくて顔を合わせづらいではないか。

 父さんはニヤニヤと笑っていた。何とも意地の悪い笑顔だ。


「今日の朝食はシーザーサラダに、カリカリベーコンとバタートーストか」

「後オニオンスープ。あ、お湯沸かすの忘れてた」


 俺は電気ポットのコンセントをつなぎ、電源を入れる。


「いやー、それにしても二郎君のそれ、久しぶりだね。学校で何かあった?」


 背後から父さんが、どこか嬉しそうに声を掛けてきた。


「別に何も」


 俺は振り返らずに、素っ気なく答える。

 我が業(中二病)が底が抜けた水筒のように駄々もれています、なんて口が裂けても言えない。言ったら最後、面白い症例だと根掘り葉掘り質問攻めされるだろう。それは絶対に避けたかった。


「ふうん……」


 父さんは両手の親指と小指で輪を作り、その輪の内側に俺を納めた。そして、虫メガネを覗き込むかのように、ジロジロと俺を観察してくる。

 その技は……まさか!?


「……大魔王たる余に隠し事なぞできぬぞ。奈落の深淵すら見抜く双璧の偉眼(ステアリング・オメガ)の前では、虚言防壁なぞ無力」

「クッ!? 大魔王よ。貴様も力を取り戻していたのか」


 大魔王の復活(父さんの悪乗り)により、我が内なる魔力が暴走し始める。


「復活したのが己のみと思うていたのか。浅慮なりジロー!」

「ウオオオオオオ何たる不覚! かくなる上は――ってごはん冷める!」

「そうだね。朝食にしようか」


 父さんは冷蔵庫から麦茶を、食器棚から麦茶を注ぐための縦長グラスを取り出した。


「あ、父さん。インスタントのオニオンスープ入れるからついでにマグカップも出して」

「はいはい」

「ハイは一回でよろしい」

「はいよ」


 そして、俺と父さんは何事も無かったかのようにテーブルに付き、朝食を摂り始た。


「いやー、いつもありがとうね。でも今日仕事休みだから、私の分は作らなくてもよかったのに」

「1人分も2人分も手間は変わらん。っていうか、仮にも医療従事者なんだから、休みでも朝食はしっかり食べろ。朝食抜きは体に悪いのだろう?」

「はいはい」

「ハイは一回でよろしい」

「はいよ」


 父さんはテーブル上のリモコンでテレビを付け、チャンネルを3番に合わせた。NHCのニュースキャスターが、昨日の出来事を明瞭な声で読み上げていく。


「そうだ父さん。昨日色柄のシャツと白のワイシャツ一緒に入れたろ。色移りするから、分けろっていつも言ってるじゃんか」

「あれ、そうだったけ? ゴメンね」

「まったく……ブエックショイ!」


 鼻がムズムズしたかと思ったら、大きなクシャミが出た。


「風邪か?」

「いや、別に熱は無いと思うのだが……ブエックショイ!」

「昨日びしょ濡れで帰ってきたから、その所為かもね。熱は測った?」

「いや、測ってない」

「朝食が済んだらすぐ測りなさい」

「……うん」


 俺は鼻を啜りながら返事した。

 朝食を追え、早速俺は熱を測った。

 体温計には36.7℃と出た。


「頭痛は? 喉は痛くないか?」


 父さんが気遣う声で尋ねてくる。


「頭は別に。喉は、なんとなくイガイガするかも」

「なんなら今日学校休むか?」

「別にそこまでのことじゃ……」


 そこで一旦言葉を止めた。

 朝食時の件を考えると、例の症状は未だ治ってない。この状態で学校へ行ったら、間違いなく今日も大恥をかくことになる。この風邪はきっと、今日は大人しく休みなさいという、我が敬愛する邪神からの餞別なのかもしれない。


「二郎君どうする。やっぱ学校休むか?」


 だが、魔王たるこの俺様が風邪如きに膝を折るのは屈辱!


「笑止! この程度の病魔など取るに足らぬものよ」

「……さすがであるぞ余の自慢の息子! 病魔をあえて身に宿し、修練に挑むというのか。天晴れなり。ならば今日は特別に我が愛機、八岐大蛇丸やまたのおろちまるにて送ってやろう」

「なんと!? まだローンが残っている上、傷付けられるのが嫌だから車庫に入れたまま滅多に出さず、何のために買ったのかよく分からない、あの高級車か! 光栄の極み」

「余は汝の親であるぞ。当然の事である」


 父さんお願い空気読まないで。ホント勘弁して。どこか楽しく感じてしまうのが尚更恥ずかしいのだ。


「じゃあ出発の準備をしなさい」


 俺の思いを汲んでくれたのか、それとも単に飽きただけなのか、父さんが悪乗りを止めてくれた。


「マスクしていきなさい。予備も鞄に入れておくように」

「うん」

「それに、風邪のときはコンタクトを止めて眼鏡にしなさい。父さんの貸してあげるから」

「うん」

「あと……子供はローンの心配をしなくて宜しい」

「どの口が言う!」


 と、いうことで俺は学校に行く羽目になってしまった。もう、どうにでもなってしまえ。


 ***


 車で送られたことにより、いつもよりも大分早く学校に到着した。俺は下駄箱で上靴に履き替え、教室へと向かう。


「おはよう」


 俺は普通に扉を開け、普通に朝の挨拶をしつつ、普通に教室の中に入った。教室にはクラスメイトが数人しか居なかった。授業開始まで40分以上あるから、まあこんなものだろう。俺は自席に向かい、腰を下ろす。


「あ……ああ、誰かと思ったら田中か。マスクと眼鏡のコンボで、一瞬誰だか分からなかったぜ」


 細木君が自席から立ち上がり、声を掛けてきた。彼はこんなに早く学校に来てるのか。


「今日はやたら早いな。どうしたんだ?」

「父さんに車で送って貰ったのだ。車って楽だね」

「そ、そうか……」


 細木君は何か言いたげな視線を送ってくる。


「何か?」

「いや、その……大丈夫か?」

「問題ない。見た目は重そうに見えるけど、マスクは念のためだし、そこまで気分も悪ない。心配してくれてありがとう」

「いやまあ、それもそうなんだけどな……まあいいや。お大事に」

「おはよー」


 教室の扉が開き、十字架さんが入ってきた。彼女もこんなに朝早いのか……


「おはよう十字架さん」

「……って田中君。どうしたんそれ?」


 十字架さんがマスクを指差しながら尋ねてくる。


「ちょっと風邪っぽかったから念のため」

「風邪? 熱は?」

「微熱が有るか無いか程度。授業受ける分には問題ないよ」

「そっかあ、それならいいんだけど……」


 十字架さんは自席に着席し、鞄の教科書、ノートを机の中へ移していく。その作業を終えると、次は英単語帳を開き読み始めた。流石は学年主席。勤勉だ。

 だが、いまいち勉強に集中できていないのか、十字架さんはチラチラと、何度もこちらの様子を覗ってくる。


「何か?」

「いや……珍しく眼鏡してるなあって。田中君視力悪かったの?」

「ああ、普段はコンタクトレンズなのだが、風邪気味だからね。風邪のときコンタクトレンズは避けるべきなのだ」

「そっか、そうなんだ……」

「他にも何か?」

「べ、別に何でもないで」


 そう十字架さんは取り繕うが、明らかに何か言いたそうな雰囲気だ。


「話があるなら聞くが?」

「う、ううん。話があるって言うか、その……田中君、今日は大丈夫なんだね」

「さっきも言ったけど、風邪なら平気だよ」

「いやそうやなくて、その……」

「言いたいことがあるなら、遠慮せずハッキリ言って貰って構わないよ」


 そう告げると、十字架さんは意を決したのか、俺と目を真っ直ぐ合わせ、


「だって昨日、大暴走してたじゃない。何て言うかその……田中君らしからぬイタイタしい発言連発して、先生にも怒られて……」


 と、気遣う声で言った。


「昨日の俺については記憶から抹消して下さい」

「いや、あれは忘れらんねえよ。ズライム発言はマジナイスだったがな」


 細木君が笑いながら会話に加わってきた。


「男子は笑い過ぎ。ライム先生可哀想だった」

「本当に悪いことしたと思ってる」


 だから俺は大人しく罰を享受したのだ。

 ……あれ?


「でも事実じゃん」

「事実でも、あの発言は駄目だ。心の中で思っていても、口に出して茶化すのは駄目だ。言った張本人がコレを言うのもアレだけど……」


 俺は改めて先生に謝罪しに行こうと思った……ってあれあれ?


「噂だと、厚化粧にも何か言ったらしいけど……」

「思い出したくもないから、それについてはノーコメントで」


 なお、保険医の厚井先生への謝罪予定はない。確かに暴言を吐いたと思うが、そもそもあのセクハラストーカークレイジーサイコアラフォーが悪いんだし……ってあれあれあれ?

 俺はようやくソレに気付き、椅子が後ろに飛ぶほどの勢いで立ち上がった。


「ど、どうした田中?」

「ちょっと信長の所へ行ってくる!」

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