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1-13 中二病を隠していたのだが

「信長。ちょっと話したいことが――」

「魔王だ」「魔王だ」「魔王田中」「世界征服できたか?」


 E組の扉を開けた次の瞬間、教室内の面々は来訪者が俺だと気付くや否や、一斉にからかってきた。止めて恥ずかしい。


「ジローちゃん?」


 自席でスマートフォンを弄っていた信長が、こちらに気付いた。俺は教室の外から彼を手招きする。


「そのマスクと眼鏡どうしたんだ?」


 扉の傍まで来た信長は、少し心配そうに目尻を下げつつ問うてきた。


「ちょっと風邪っぽくてな。相談があるのだが――」

「相談だって」「世界征服の相談だぜきっと」「中二乙」


 くっそ恥ずい! ホント勘弁して。


「とりあえず、移動したほうがいいんじゃね?」

「うん」


 信長の提案により、俺達は屋上の入口付近へと場所を移した。屋上の扉は鍵が閉まっており、外に出ることはできないため、ここに人が訪れることは余りない。秘密の話をするにはうってつけの場所だった。


「それで、学校に来てから中二発言が飛び出さなくなっていたと」

「ああ。どう思う信長?」

「どうって言われてもねえ……」


 信長は首を傾げる。


「まさかとは思うけど、そのマスクが中二発言を抑えてるとか?」

「マスク? 普通の使い捨てマスクだが……」

「試しにマスク外してみ」


 言われた通り、俺はマスクを外した。


「どう?」

「どうって言われてもなあ……別に変化は――」

「ボクの名前は?」

「はい?」


 突如、信長がおかしなことを聞いてきた。


「いいから答えて。ボクの名前は?」

「ローズブレイド信長」

「ジローちゃんの担任は?」

鈴木来夢すずきらいむ先生」

「苦手な先生は?」

「保険医の厚井先生」

「将来の夢は?」

「探し中」


 信長が再び首を傾げる。


「……よく分かんないけど、治ったんじゃね?」


 心なしか、少し残念そうに信長は言った。


「オッシャッ!」


 俺は嬉しさの余り、座っていた体勢から一気に飛び上がりガッツポーズ。だが、勢いを付けすぎたせいで、顔に掛けていた眼鏡がポロンと外れ、音を立てて地面に落ちた。


「ジローちゃん眼鏡――」

「フククククク……この魔王がそう簡単に封印されるとでも?」


 信長の唖然とした表情。多分、俺様の表情も似たようなものになっているだろう。


「……ジローちゃん。ボクの名前は?」

「機鋼魔族のハイ・エンド種にて魔王が参謀、機械王ノブナガンダルフ」

「ジローちゃんの担任は?」

「浸食度8の使徒、頭髪偽装不定形魔人ズライム」

「苦手な先生は?」

「浸食度6の使徒、奇々怪々なる売れ残り妖婆アッラ・フォー」

「将来の夢は?」

「無論世界征服」


 絶望に染まる我が魂。信長は口元を押さえ、笑いを噛み殺している。

 何故なぜだ。何故なにゆえ唐突に……

 病気が再発した理由も分からぬまま、無情にもキーンコーンとSHRショートホームルーム開始5分前の予鈴が鳴り響く。


「魔王復活しちゃったねえ」

「我は不滅なり! では使徒共の預言を聞きに参るぞ」


 もうヤケクソだ。今日もこの状態で乗り切ってやる。元よりそのつもりだったのだ。


「あ、ジローちゃんこれ」


 信長は魔道器ザ・グラスを拾ってくれていた。流石は下僕。気の利く奴だ。俺様はそれを受け取り、顔に装着。


「ありがとう。じゃあ教室に戻ろうか」

「ん?」


 信長が歩みを止めた。何事かと思い、俺は振り返る。


「どうした? 早く行かないと遅刻に――」


 突如、信長にひょいっと眼鏡を奪われた。


「何をする! 魔道器ザ・グラス無くば邪眼フォレンジック・アイが暴走し、使徒共の預言が――」


 カシャンと、信長の手で眼鏡は元の位置に戻される。


「黒板の文字が読めなくなるから。それに、その眼鏡――」


 再び、ひょいっと眼鏡が強奪される。


「ザ・グラスは古より受け継がれし大切な魔道器。破滅的な行為は――」


 カシャンと、眼鏡を再装着。


「壊れるから乱暴は止めろ。いい加減怒る――」


 しかし信長は聞く耳を持たず、彼の手により眼鏡の強奪・装着が何度も繰り返される。


「我が逆鱗にあえて触れる言うのか。いい度胸だワハハ――はぁ……だから止めろって。それ父さんからの借り物だから壊したら――大魔王の鉄槌カタストロフが下され――お小遣い減らされちまう!」

「面白い!」

「遊ぶな!!」


 ようやく、信長は人で遊ぶのを止めてくれた。そして、同時に俺も理解した。


「つまり、眼鏡をかけていれば、症状が治まるってことか」

「よく分からないけど、そうみたいだねえ」


 理屈も原理もさっぱりだが、どうやらそういうことらしい。しかし、なぜ眼鏡がキーなのだろうか。


「あー、ほら。中二病を患ったとき、『眼鏡は我が強大な魔力を押さえ付けるために必要だったのだ。成長した俺には不要なブツなり』とか言ってなかったっけ?」


 もしそれが理由なら、俺は今すぐ穴を掘って埋まりたい。小学生の頃に考えた設定が未だに有効だとか、恥ずかし過ぎるにも程がある。

 でもまあ、対処法が見つかったことは素直に喜ばしかった。


「……ヤベエ、ホームルーム始まる!」


 しかし安息の時も束の間。

 キーンコーンカーンコーンと、節目の時間を知らせるチャイムが頭上から鳴り響いた。

 この鐘は一分前の予鈴だ。俺と信長は駆け足で階段を駆け下り、教室を目指す。だが、そこで恐るべき悲劇が起きてしまった。


 どことなく、俺は眼鏡のフレームに違和感を覚えていた。この眼鏡は父さんからの借り物だから、多少サイズが合ってないのだろうと、余り気に留めていなかった。しかし、それが間違いだった。

 先程信長に遊ばれたせいか、はたまた元々からだったのか、フレームのネジが緩んでおり、階段を駆け下りる途中でそのネジが外れ、まるでバッタが横向きに飛び跳ねるかのように、ポーーンと眼鏡が前方へ飛んで行った。

 さらに間の悪いことに、ちょうど廊下の陰から誰かが飛び出してきて――


 パリン!


「うわっ! 何だあ?」

「俺のお小遣が!」


 大魔王の大切な魔道器は何者かに踏みしだかれ、断末魔を上げた。フレームはグニャリと折れ曲がり、レンズは砂利のように粉々に。ヤベエ。


「ス、スマン! 急いでて」


 魔道器を破壊せし魔獣コブトリンが手を合わせ、俺様の許しを請うてきた。俺様は苛立つ気持ちを後ろに追いやりつつ、冷静に対処した。


「……いや、俺様も不注意だった。そう気を落とすな」


 この魔獣に悪気が無いことは重々承知している。今のは完全なる事故だ。故意ではない。焦って廊下を駆け下りた俺様にも非がある。それに雑魚の些事に目くじらを立てるなど、魔王のすることじゃあないのだ。


「とりあえず教室行かね?」

「それはならぬ!」


 信長の提案を俺様は一喝した。まずはこの廊下の惨状を片付けて置かねばなるまい。


「ホームルーム終わった後でいいんじゃね?」

「ならぬ。その間に万一誰かが踏んだら危ないであろう。先に片付けるべきだ」


 俺様は信長を教室へ行かせた後、最寄りの教室へ駆け込み、古式収納魔具(ロッカー)から魔道器ブルーム(箒と)・ド・ダストパン(チリトリ)一式を借りた。


「そうだ貴様は大丈夫か?」


 眼鏡の残骸を集めつつ、未だ責任を感じている魔獣の身を案じた。


「え?」

「破片が上靴を貫通してないとも限らぬからな」

「ああ、大丈夫だぞ」

「そうか。怪我無くて何よりだ。魔獣コブトリンよ」

「魔獣コブトリン!?」

「オイお前等。授業始まるぞ。教室に戻れ」


 破片を綺麗に片付け終えたタイミングで、使徒が降臨した。声を掛けてきたのは魔人ズ……担任の教師だった。


「スンマセン! 拙者が彼のメガネ壊しちゃって……今片付けている最中だったんだぞ」


 魔獣コブトリンが俺様を庇うよう、使徒に立ち向かう。


「眼鏡? 田中、お前目が悪かったのか?」

「フククククク……コンタクトの可能性に至らぬとは、まだまだだな魔人ズ……」


 同じ過ちを犯しかけた俺は、慌てて手で口を塞ぎ言葉を封じた。だが、俺が何て言おうとしたのか分かったらしく、魔人から怒気が立ち上る。


「そのおふざけまだ続けるのか。どうやらお前はトイレ掃除が大好きらしいなあ。ホームルームも無断欠席だったしなあオイ!」

「いや違うんです! そうじゃないんです!」


 おい焦るな俺! このままだと昨日の二の舞だ。

 俺様は……違う俺は、魔王衝動を力尽くで押さえつける。そして先生に対し、魔王を封ずるアイテムを懇願した。


「ご、後生だから、魔道器……じゃなくて……眼鏡を貸してくれまいか」

「構わないが……度は合うのか」

「な、無いよりはマシです」


 まだ推測に過ぎないが、恐らく眼鏡なら何でもいいと思われる。現に、父さんの眼鏡が有効だったのだ。試してみる価値はある。


「……分かった。じゃあ職員室まで来い。スペアを貸してやる」


 俺は職員室へと向かう先生の後に続く。

 勝った! ギリギリ打ち勝ったぞ! 魔力の制御に成功したのだワハハハハハハ!!


「恩に着る。魔人ズライムよ」


 気を抜いた瞬間これだ。もー、ヤダ。


「ズライム!? やっべツボったプッハハ!」


 魔獣コブトリンよ。火に油を注ぐのは止めて貰えませんかね。頭に血が昇り過ぎて、目の前のズライムベスがキングズライムベスに進化しているのが見えてないんですかね。


 そして俺はトイレ掃除一週間を命じられた。

 昨日から踏んだり蹴ったり。泣きっ面に蜂。転んだ先に馬糞まぐそ

 俺は中二病を隠していたのだが、どういう訳か、世界の因果はそれを許さぬらしい。

 そう……愉快にイタイタしく、時に胸を掻き毟るほど鮮烈に痛々しい高校生活が、ここに幕を上げたのだ。

 でも、まあ、これも運命さだめか。なるようになるだろう。


「それともオマエの願いなのか? 勇者よ……」


 俺は、今ここに居ぬ彼女に思いを馳せながら、空に向けて、問いかけるように呟いた。宙に浮かべた言葉は、やがて空気に溶けて消失し、誰の元にも届くことはなかった。

 だから、俺は……




 ――第壱幕 中二病を隠していたのだが 完

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