四八話 ~謎の少女~
クルスさんには先に宿屋に戻ってもらい、近くにある広場で困っている少女に声を掛ける
「すみません、何かお困りですか?」
銀髪に碧眼の少女、この子の特徴何処かで聞いた覚えがあるような……。気のせいかな。……覚えてないってことは重要なことじゃないってことでいいだろう
「あ、いえお気になさらず。大したことではありませんので……」
「それでも言うだけ言ってみて下さい。出来ることなら協力させてもらいますし、出来ないことなら素直に断りますから」
出来ないことは素直に断る。こう言っておけば余計な考えは出なくなると思いそう伝える。すると彼女は少しだけ考えるような仕草をし、直ぐに返答をしてくれた
「……そういうことなら、お言葉に甘えてさせてもらいます。よろしいでしょうか?」
「はい、遠慮なく」
「では……この街に大きな教会はありませんか?……その、変だと思われるかもしれませんが、とても広い空間に飛ばされるような……」
「広い空間……、ですか」
教会からの広い空間……、飛ばされる……。それってひょっとしてあそこのことじゃ……。でも、なんでこの人はそのことを知っているんだろう……。
「は、はい……。おかしな事を聞いているということは分かってるんです。……やっぱりこんなこと言われても分かりませんよね……。自分で探してみます」
俺に申し訳なさそうに背を向け、そのまま教会とは別方向に歩き出した彼女に、声をかける。
彼女が言っている広い空間が俺の知っている場所とは限らないけれど、もしかしたらということもある。可能性はあるのに放っておくなんて事はしたくない。今はそんな気分だ
「……安心して下さい、おかしな事とは思いませんよ。一応心当たりはあります」
「そ、それは本当ですか!?」
「はい、貴方の思っている物とは違うかもしれませんし、貴方もいけるかは分かりませんけど……」
だが、彼女の求めていることが分からない以上は断定的な物言いは出来ない。予防線は張っておかないとな……
「それでも構いません!……やっと希望の持てる情報が来ました……」
「は、はぁ……」
何というか……良くは分からないけど、かなり苦労してきたんだろうな。
「あの、ところで貴方のお名前は?」
「……名乗るのを忘れていましたね。私はリーナという者です」
……リーナ?あれ、この名前……何処かで聞いた覚えが……。あれ……何処だったっけ?
「あの……どうかしましたか?」
「……すみません、少し考え事を……、俺は龍斗と言います」
「リュウトさんですね。では、どうかよろしくお願いします」
「お任せを、……じゃあ、ついてきて下さい」
……まぁいいか。考え込んで周囲が見えなくなる前に思考を中断し、俺は教会への案内を始めた
無言で案内するというのも気まずいもの、何か話題がないかと考え、この街に来るまでのことを聞いてみることにした
「あの、リーナさん?教会を探しているって言ってましたけど、それはいったいいつから?」
「今から……だいたい十六日前ぐらいからです。気づいたら見知らぬ場所にいました」
十六日前……ってことは俺がこっちの世界に来る一日前ぐらいの頃か。で、気づいたら知らない場所にいたってことは……
この人も日本から転移、転生したってことか?……でも、この世界の言語は何故か文字以外は明らかに日本語だし……。リーナなんて名前日本では先ず見かけないよな
ということは日本とは別の国から?……その割には日本語が上手すぎるような気も……。
……一応、聞くだけ聞いてみるか
「あの……リーナさん、貴方は日本という国は知っていますか?」
「ニホン?……いえ、よく分かりません。何せ私には『権限』があまりないので……」
?……。なんか今、変な単語が聞こえたような……
「……権限?」
「あ……、なんでもないです、忘れて下さい!」
「は、はぁ……」
言いたくないみたいだから今は流しておくけど、……権限ねぇ、どうせもうすぐ教会に着くんだし、ついでにゼティス様に聞いてみようかな。
けどこれで分かった。彼女は正真正銘のこの世界の人だ。何故見知らぬ場所に飛ばされたかは分からない。でも、きっとあの場所に行けば何かが分かるかもしれない
「……分かりました。忘れるように努めます。……次の質問ですけど、この街以外の教会にも行ったんですよね?」
「はい、この街に来る前にも、あてもなく様々な街の教会に行きました、けれど、結局どこも繋がらなくて……だけど今回は期待が持てそうです」
「……期待に応えられるといいです。……あ、見えて来ましたよ。あそこです」
真正面に指を指して、彼女にそう伝える。……もっとも、本当に指を指す必要があるのかは知らないが
「……おっきぃ」
「最初に見たときは俺も同じ反応をしましたよ。やっぱりみんな同じ反応になるんですね」
自分がこっちの世界に来た最初の日を思い出す。あの時はレニアに街を案内して貰ったなぁ。まだ半月しか経ってないってのに何故か随分と昔に感じる
「あ、気をつけて下さいね。中も結構入り組んでて、案内なしじゃ迷子になるので」
「はい、了解しました。……あの、こちらの教会の神父さんはどのような方なのですか?」
「……まだ付き合いは長くないので詳しくは分かりませんが、神父としては不真面目かと。面倒見はよくて、いい奴ではあるんですが」
エクスは仮にも神父だってのに信仰とかなにもしてなさそうだし。……いや、別に本人は好き好んでやってるわけじゃないし仕方ないとは思うけど
……せめて、ちゃんとやってますというポーズぐらいはとっておくべきだとも思う。……というかこれは本人に言わなきゃ意味ないな。そのうち伝えておこう
「……俺も初日は世話になりました」
「初日?あの……貴方はこの街の人では……」
……何故か既にこっちのことは全部伝えた気になってた。そういえばこの人にはまだ俺はこの街の人間じゃないこと伝えてない。
「あ、言ってませんでしたね。俺は半月ほど前にこの街に来たんですよ。目が覚めたら森の中でしてね。貴方と同じようなものです。……今は宿で寝泊まりしてるんですけどね」
「そ、そうだったんですか……。すみません、こんなこと聞いてしまって……」
「お気になさらず。……ところで、もしこの先が貴方の求めるものだったらどうするんですか?」
「えっ!……いや、その…何というか……」
……何だこの慌てようは。隠し事でもしてるみたいな
「……考えてませんでした」
……詮索はしないでおこう。俺だってこっちの世界の人に大きい隠し事をしてるわけだし。……なにか悪いこと隠してるわけでもないっぽいし
「……妙なこと聞いてすみません。もしよければさっきのことはこれでお相子ということでどうでしょう」
「は、はい。そうですね。そうしましょう」
お互いの非をチャラにして、俺とリーナさんはようやく教会の敷地に足を踏み入れる
「神父を呼ぶために少し大きい声が出るかもしれないので、驚かないで下さいね」
エクスが近くに居ないときのために一応の注意をしておく
「分かりました」
しっかりと了承を得た後で、俺は深く呼吸をし、息を整えると勢いよくドアを開き
「エクスー!ちょっといいかー!」
部屋を見渡すよりも先に声を張り上げてエクスを呼んだ
「……いきなり来るなりでかい声を出すな。ここにいるのが分からんか」
「そこにいたのか。てっきり奥の方にいるのかと思った」
やっぱり、しっかり確認するのは大事だな。無駄に体力使って大きい声だす必要もなかったみたいだ
「……することもないしな。客が来ない限り基本的にはずっとここでボ~ッとしてるんだ」
「俺が初めて来た時はここにいなかった気がするんだが……」
「あの時は掃除してたんだよ。丁度一段落ついて休憩しようとした時にお前が来たんだ」
「成程、だから機嫌悪かったんだな。口調が今よりだいぶキツかったし」
それでも聖堂にしっかりと連れて行ってくれるのがいい奴だと思う。……まぁ仕事だから等と言われたらそれまでだが
「それよりさ、客が来てるんだ。聖堂に用があるらしいから案内してやってくれよ。……俺も用が出来たしな」
「客?珍しいな。この教会に用がある奴なんてそうそういないのに」
「……お前一応神父だろ。そういうこと言うなよ。せめてそれらしいポーズをとれって……」
思っていたことを軽く伝えて、俺の後ろにいるリーナさんが見えるように横に移動する
「はい、こちらはリーナさん。いろいろあって色んな教会を探してるらしい」
じゃじゃーんとわざとらしく腕を大袈裟に伸ばして彼女のことを端的に説明する。
「は、初めまして。私はリーナと申します」
「これはどうも。俺はエクス、一応この教会の神父をしてる。……見たところアンタはこの街の人間じゃないみたいだが」
「おい、初対面の相手だぞ。敬語を使え敬語を」
「やだよ面倒くさい。本人も気にしてないだろうし別にいいだろ」
なんという社会不適合者。日本の学校だと高確率で馴れ馴れしいと思われるタイプだこいつ
「ったく……リーナさん、すみませんね。こいつがいきなりタメ口きいて」
「だ、大丈夫です!気にしてません!」
「……よかったな。本当に気にしてないみたいだぞ。ほら、早く行こうぜ。ここでずっと駄弁ってても仕方ないだろ?」
「それもそうだな。リーナ、悪いな、時間を無駄にして。案内するからちゃんと着いてこいよ」
「は、はい!」
……でも正直この胆力の強さは見習った方がいいのだろうか?……いや、やっぱり見習わない方がいいな。もしも何かがあって偉い人にこんな口聞いたら無礼にも程があるし
それが王様とかだったら最悪だし。……もっとも、普通に冒険者として過ごすのならそんな機会は訪れないだろうけど
「リュウトー!早く来ないと置いてくぞー!」
「今行くから待ってろー!」
エクスの主人公みたいな胆力は絶対に見習わないと答えを出して、俺は二人の後についていった
「ここが聖堂だ」
「すっごく広いですね!」
「そうだろ?」
……気のせいかな、何か俺の時と対応が違うような気がする
「……じゃあ、俺も祈らせてもらうよ」
エクスに聞こえるように一言発し、あの時と同じように祭壇の前まで移動する
そして、両膝を床に付け、目を塞ぎ、両手を組んで、心で呟く
(……ゼティス様ゼティス様。出来ることならどうか我々をそちらの空間に連れ去って下さい)
……なんだか、学校でこっくりさんでも呼ぶような言葉になってしまったが多分いいだろう。あの人はこんなこと気にする人じゃないし
少しだけ雑念が入ってしまったが、暫く経った後に俺たちの周囲をあの時と同じ眩しい光が包み込む
「っ……な、何だ!?」
「うっ……!」
(眩しっ……、慣れないなぁこの光……)
光の眩しさに耐えながら、光が止むのを待ち続ける。この光が収まれば、俺はゼティス様の目の前に辿り着いているだろう
……あれ?そういえばさっき、リーナさんはともかく、エクスの声が聞こえたような……




