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それが彼女のピンク論

作者: 木下秋

 僕の彼女は髪がピンクで、それだけじゃなくチョット変わってる。


「あいかわらず、すごい色してるよね」


 そう言うと彼女は屈託のない笑顔を見せた。


「ありがとう」


 歩くたびに揺れる長いストレートヘアーは、アニメキャラクターのようなショッキングピンクだ。


 なんと地毛だと言う。


「昔、色のなかった時代ってあるでしょ」


 色のなかった時代? 僕は疑問の表情を隠さず彼女の顔を見た。


「昔の写真とか動画とか、見るとモノクロでしょ?」


 僕は歴史の教科書に載っている坂本龍馬の写真とか、チャップリンの無声映画を思い浮かべた。


「ピンクはね、桃色って言うでしょ。だからね、桃から生まれたのよ」


 「桃から生まれたから、桃色なんだ」桃太郎みたいに。なるほどね、と僕は納得した。


「桃の節句ってあるでしょ」


「三月三日?」


「そう。ひな祭り」


 信号待ちで、僕らは止まった。歩きながら話していた僕らは顔を見合わせた。


「ひな祭り、って女の子のための日でしょ? だから、桃色って女の子のための色なの」


 桃から生まれた桃色は女の子のための色で、なぜなら桃の節句ーーひな祭りが女の子のための日だから。それが彼女のピンク論。


「私、自分が女の子に生まれてよかったと思う。男の子で髪の毛ピンクだったら、目立って仕方ないものね」


 歩き始めた僕たちと、すれ違う何人かは振り返って彼女を見る。つまり、彼女が女性だからと言って、髪がピンクなら目立って仕方ない。


 実際、彼女は学校でも浮いているし、周りからは奇異を見る目で見られている。それでも、彼女は髪を黒く染めることはしなかった。先生達も事情がわかっているから、無理に染めさせるようなことはしなかった。


「さっきの話からすると、この世界に色が生まれたのは五、六十年くらい前ってこと?」


「そう」


 歩きながら、彼女は当然、と言った風に言う。


「そして、ゴレンジャーが生まれた」


 「ゴレンジャー?」僕はそれが特撮ヒーロー、五人組のカラフル戦士だということはわかっていたが、唐突だったので聞き返さずにはいられなかった。


「戦隊モノで、ピンク色の男の子はいないでしょ」


 毎年毎年、新しいなんとかレンジャーが生まれているが、確かにピンク色の男性戦士は思い当たらない。


「プリキュアも、メインはピンクでしょ」


 僕の記憶が正しければ初代は白と黒だったと思ったけど、詳しいと引かれてしまうかもと思ってそれは言わなかった。


「ピンク色って、女の子にとっては特別な色なの。だから私は、自分の髪の色が好き。だから、『すごい色だね』って言われたら、『ありがとう』って答えることにしてるの」


 僕の彼女は髪がピンクで、それだけじゃなくてチョット変わってる。


 でも僕は、そんな彼女のことが好き。

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