浅慮だった
さて、そろそろプリッシラさんからの質問攻めが始まってから、すでに一時間近くが経とうとしている。
内容は主にエフェクターの動作原理に関する質問とその活用方法の提案だ。
やれ、何故音の大きさが変わるのか? 何故聞こえる場所が変わるのか? こういう活用方法はどうだろうか? 等々、内容は多岐にわたる。
ただ僕が作った事を伝えたにも関わらず、不思議とエフェクター自体を作成するためのレシピには触れてこないのは、この近代魔道具の価値を高く見積もってくれている証拠だろうか。
確かに錬金術に限らず製造方法が秘匿されているものは多い。プリッシラさんから見ればこのエフェクターに関しても、当然秘匿されていてしかるべき物と認識しているのだろう。
まあ、実際にレシピを知ったとしても錬金難度が高いので、そうそう錬金を成功することはできないとは思う。
これからそう遠くない未来に、熟練の近代錬金術師が増えてくれば可能だと思うが、近代錬金術が復活を果たしたばかりである現段階では、恐らく僕以外には作ることはかなわないだろう。
もちろんシェリルさんの所で近代錬金術の指導支援をしているシャーロットでも例外ではない。
まあ、それはそれとして、だ。
「えーと、そろそろ魔道具のことはお終いにして、本題に入りたいのですが構いませんか?」
そう、もう随分と話し込んだが、未だにプリッシラさんをここに招いた本題に関しては、ただの一言も話していないのだ。
実は先程から数回、自然な話題の切り替えを試みたのだが、その全てをプリッシラさんに潰されている。
さすがにそろそろ本題に話を切り替えたいので、やむを得ずストレートにお願いすることにしたわけだ。
「ん、ああ、すまない。つい熱くなってしまったようだ。少々長くなってしまったな」
……少々、ね。
そう言いながらもその表情は明らかに話し足りないという気持ちが伝わってくる。
あれだけ話したのにまだ話し足りないというのだろうか。
そういえば初対面の時も気がついたら皆を差し置いて話し続けていたし、しまいには皆の注目を集めて歌っていたな。
案外、吟遊詩人になるための素養はこういうところにあったりするのかもしれない。
「そういえば元々はバーナード君が私に何やら頼みたいことがあるという話だったか?」
「はい、プリッシラさんにとある錬金術師に関する歌を作って異界都市の外で広めていただくことは出来ないかと思いまして」
「とある錬金術師? ……ふむ、何故そのようなことをして欲しいのか、いまいち的を射ないが君がわざわざ話したいと言う内容だ。聞くだけは聞かせてもらおうか」
プリッシラさんは僕の言い回しが少し引っかかりを覚えたのか、ひとまずは聞く姿勢になってくれた。
期待されていたものは僕の話だったのかもしれないが、今回の話の主役はもちろんセオドールだ。
僕は先日思いついた話をプリッシラさんの様子を見ながら話し始めた。
僕が話している間、プリッシラさんは一言一句を聞き逃すまいと、その目をそらすこと無く聞いてくれた。
途中一瞬だけ表情が曇ったように感じたが、気のせいだったのかすぐにわからなくなった。
プリッシラさんは僕の話を聞き終えた後、少しの間何かを考える素振りを見せた後、おもむろに上を向き天井を眺めた。
そして、ひとつため息をすると僕の方に向き直た。
「まずは結論から先に言おう」
「はい」
プリッシラさんは、まるで僕の反応を観察するような目でこちらを向いている。つい僕もプリッシラさんにつられるように目を見つめてしまう。
アリスも返答が気になるようで、動向を見守るように静かにしている。
内容的にはプリッシラさんにも興味を持ってもらえる内容だと思うし、必要なら色々協力できるエピソード等の素材は数多く持ってはいる。
静かな部屋に誰のものともわからない生唾を飲み込む音が強調される。
「……申し訳ないが断らせてもらう」
「え!? な、なんでですか? プリッシラさんにはきっと興味を持ってもらえると思っていたのですが……」
僕の期待とは裏腹にプリッシラさんの回答は拒否の言葉だった。
つい年甲斐もなく強い口調で理由を求めてしまったが、プリッシラさんは僕の同様を特に気にする様子もなくこちらを見つめている。
少しして再度、軽くため息をつくと固く結んだ口元を開き話し始めた。
「そうだな、確かにバーナード君の言うように興味があるかないかで言えば、あると言っても差し支えは無いだろう」
「それなら――」
「優秀な魔道具を作り上げる事に対して、並々ならぬ熱意を持って挑んでいる君なら当然理解してくれていると思ってはいるが、敢えて言わせてもらうと私達吟遊詩人は自らが作り歌い伝える歌や詩に対して、当然深い思い入れを持っている」
そこに関しては僕も理解はしているつもりである。だからこそ冤罪を着せられた親友の名誉を挽回する為にプリッシラさんにお願いをしているのだ。
「政治利用するからこの題材で歌を作ってくれ、などという要望に応える吟遊詩人などいない」
頭をガツンと叩かれたような衝撃を受けた。
僕から見た立場とプリッシラさんの立場からは別の見え方をするということなのだろう。
確かに錬金術師の立場を向上できないだろうか、という打算に近い期待は持っている。しかし僕にとってはやはり親友の名誉を回復させるという位置付けの方が強い。
だが、セオドールと面識もなく、その人となりを知らないプリッシラさんにしてみれば、セオドール・アリストラという題材よりも政治利用されるということが大きく見えるのだろう。よくよく考えて見れば当然の話である。
……僕はあまりに考えが足りなかったようだ。
「今日の君からのお願いごとには正直なところ失望を感じざるを得ない。しかし、あのお祭り騒ぎの中心にいた君という存在。そして先日の決闘騒ぎでの君の立ち振る舞い。非常に興味をそそられたのは事実であり、それは今でも変わりない」
プリッシラさんはおもむろに席を立つとそのまま窓まで歩き、部屋の外を眺めながら話を続けた。
「今私が興味を持っているのはセオドール某ではなく、君という一人の錬金術師だ。それは忘れないで欲しい」
「……プリッシラさん」
「なんだね?」
「僕が今日お願いしたことは忘れてください」
「……そうだな、そうさせてもらおう」
そう言いながらプリッシラさんの表情は少しだけやわらかなものに変化した。
――それから話題を変え、少しの間プリッシラさんと話をすることにした。
プリッシラさんが待ち望んでいる探索者トライアルまでもう少し期間があるようだ。
確か二週間に一回だったはずなので、丁度タイミングが悪かったということなのだろう。
僕としてはプリッシラさんに色々とトライアルに関するアドバイスをしたいところだ。
しかし、よくよく考えて見ればプリッシラさんの戦闘能力に関してはまったく知らないし、何より探索者として守秘義務というか制約が課せられているので、残念ながらそれはかなわなかった。
そして話を終えてプリッシラさんを外まで見送った後、再び部屋に戻りソファーに身体を放り投げる。
静かな部屋の中で、少しの間じっと天井を見つめ続けていると、アリスが応接室に戻ってきた。
「お飲み物を入れ直しますね」
「ああ、ありがとう」
「……バーナード様」
僕の返事が元気無さそうだったのか、アリスは心配そうにこちらを見つめている。
「……ごめん、気を使わせてしまったね。そんなに落ち込んではいないから大丈夫だよ。確かに少し浅はかだったと恥ずかしくは思っているけどね」
「親友であるセオドール様の事を考えられてのことです。その気持を恥ずかしいと思われる必要など無いと思います」
「……ありがとう」
アリスに感謝の言葉を伝えて微笑むと、少し恥ずかしく感じたのか頬を薄っすらと赤く染めながら足早に部屋を出て行った。
そろそろこの章を締めにかからないと(汗)




