予定調和
さて、ひとまず不審者たちを回収したのは良いが、いくら深夜とはいえ流石に五人も抱えて移動するのは目立ちすぎるな。
誰かに見られて騒ぎになる前にどこかに運び込みたいところだ。
しかし、ここからだとどこに行くにしても遠いな。一応、ジーク達の家なら近いが、こんな夜中に不審者を連れていく場所としては、どう考えても不適切だろう。
大荷物で暗い夜道を歩くというシュールな絵をキープしながら少しの間考えていたが、残念ながらこれといって良い案は思い付かなかった。
……少々不本意だが仕方がない。このまま教会まで運んでいくか。もともと狙われてたのは教会関係者なわけだし、引き渡して後の事は全部お任せすることにしよう。
幸いなことに教会に至るまでの道すがら、誰かと遭遇することは無かった。……まあ正確にはセントラルの指示にしたがって回避しただけのことなのだが。
予定よりも少し時間を食ってしまったのは仕方がないことではあるか。騒がれるよりはマシだ。
「そこのお前……、バーナード様!? これはいったい何事でしょうか?」
当然といえば当然なのだが、教会にたどり着くなり警備の男に一瞬だけ不審者扱いを受けた。
しかし、今日の今日で顔を忘れられるということはさすがになかったようで、男はすぐに丁寧な態度に変わった。
神託のおかげかそれなりの扱いは受けられているようだ。これなら上手くいくかもしれない。
「少々大事なお話がありまして、こんな時間に申し訳ありませんが、グレゴワール司祭に取り次いでいただけないでしょうか?」
「しょ、少々お待ち下さい。私の一存では決めかねますので司祭に確認を取ってきます」
そう言うと男は慌てて建物の中に入っていった。
……このまま待たないといけませんかね。不審者を抱えたままなんですが。
それに貴方がいなくなると、誰が代わりにここを警備するんだ?
数分後、面会が認められたので教会内の部屋に通された。
部屋に入ったことで、ようやく不審者たちを降ろすことが出来る。
不審者達は死んだリーダー格の男以外は、未だに目覚める様子はない。しかし急に目を覚まして教会内で騒がれても困るな。
少しだけ待たされるようなので今のうちに、魔道具を使って追加で寝てもらおうか。
十分弱程度だろうか、さほど待たされずにグレゴワールが部屋に入ってきた。
「申し訳ありません、お待たせしました」
一見落ち着いて見えるが、その表情は少しだけ慌てた様子が感じ取れた。
こんな時間にもかかわらずその身なりはきちんとしている。何かの執務中だったのだろうか?
「ああ、夜分にすみません。グレゴワール様、先程の事なんですが、この近くで不審者を見かけましてね。取り押さえたものの、連れてこれそうな場所がここしか思い当たりませんでした」
そう言いながら、追加で眠りの世界に沈んでもらった不審者達を指差す。
「どうも狙われていたのは、この教会の関係者の可能性がありましてね。少し前にこちらに向かっている馬車を彼らが待ち伏せしてたんですよ」
「そうですか、確かに先ほど馬車が戻りましたが、しかしあの馬車には誰も乗ってはいませんでしたよ」
……僕の言葉に思い当たることはあるようだ。グレゴワールの態度は表面上何ら変わりはないが、場の空気が少しだけ刺々しくなったように感じられる。
神託に関わる事項以外は情報を漏らすつもりは無いということなのだろう。まあその方がこちらとしても都合が良い。
今日みたいにたまたま遭遇しない限りは、余計な騒ぎに巻き込まれずに済むというものだ。
それだけ情報の扱いに関しては信頼できる、という評価をしておこう。
「ところで不躾かも知れませんが、この不審者達に関して、後のことをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「そうですね。恐らくは何かの勘違いだとは思いますが、我々の所有する馬車が狙われたということは変わりありませんので、……しかしよろしいのですか?」
不審者から聞かなくていいのか? ということかな。聞き出す事に成功してしまったら厄介事に巻き込まれてしまうじゃないか。
それにどうせ聞き出そうとしても邪魔されそうだ。本当に知って良い話なら最初から隠す必要など無いのだから。
「さすがにこの大人数を抱えて、家まで連れて帰るわけにもいきませんからね」
少々おどけた素振りで軽めに流す。
グレゴワールもこちらがさほど興味を持っていない無いことに気付いてくれたようで、安心した表情をしている。
利害は一致したようなので、早々に立ち去らせてもらおう。
「それではそろそろお暇させていただきますね。さすがに遅くなってしまいましたから」
「もしよろしければ馬車をお出ししますが、いかがいたしますか?」
「馬車は目立ってしまいますからね。どうぞお構い無く」
色々あったせいですっかり遅くなってしまった。家に着くと既にシェリルさんは帰った後だった。
さすがにこの時間まで居座るようなことは、そうそう無いか。
……そうそうというのは、以前あったということだが、あの時は本当に騒がしかったな。
結局あの時は一睡もせずに帰っていったが、お付きの人たちもそれに付き合わされて大変そうだった。
まあそれはそれとして、リビングに入るとアリスがソファーでうたた寝をしていた。
ブリジットの姿は……無いな。時間も遅いから部屋で寝ているのだろう。
アリスを起こしてしまわないよう、静かにただいまを言って、一度部屋に戻ることにする。
途中ブリジットの部屋を見たところ、絶賛楽しそうな夢を見ている最中のようで、寝言で食べ物への欲望をぶちまけていた。
部屋に戻り荷物を置いて着替えてから、アリスの部屋から毛布を持ってきてリビングに戻りアリスにかけてやる。
風邪を引いてしまってはいけないからな。
「うん……バーナード様」
一瞬目を覚ましてしまったのかと思いドキッとした。
アリスの顔を覗いてみるが、ただの寝言だったようだ。
それにしてもアリスは何をやっても絵になるな。ソファーでうたた寝をしているなのだが、思わず見入ってしまいそうになる。
ふとシェリルさんの言葉が頭のなかに浮かんでくる。
「……アリスの想い、か」
初めはアリスが僕に向けている想いは、ひな鳥が初めて親を見た時のような、ホムンクルスとしてのインプリンティングだと思っていた。
しかし、これまでに何度もホムンクルスを造ってきたわけだが、アリスのような想いを持ち合わせている者は一人もいなかった。
それはあくまでも親に対して子が向ける類の想いだ。
最近のアリスを見ているとジークとエリーシャ二人の関係に触発されたせいか、より強く感じるようになった気がする。
……近い話なのか遠い話なのかはわからないが、いずれはアリスの想いに答えてなければならないだろう。
そう思いながら、アリス顔を見つめたまま頭を優しくなでてやる。
するとアリスは少しだけくすぐったそうに微笑むと、うっすらと目を開けた。
……あ、起こしてもうた。
少しの間時間が止まったように、近距離でアリスと見つめ合う。
すると少しずつ思考力が戻ってきたのか、アリスの顔が真っ赤に染まり――
「も、申し訳ありません! つい寝入ってしまいました」
ソファーから飛び起き、オーバーアクションで平謝りを始める。
「くすっ、それくらい構わないよ。いつもありがとう。疲れてる時は気にしないで休んでね」
「で、ですが!」
ひたすら頭を下げ続けるアリスの頭を上げてやり、もう一度優しく頭を撫でる。
「疲れているだろうから、部屋に戻って寝てていいよ。僕も風呂に入ったらすぐに部屋に籠もるつもりだから」
「……今日は何かトラブルがあったのですか?」
僕の言葉から何かを感じ取ったのか、アリスが心配そうにこちらを見ている。
「よくわかったね。今日はちょっとだけ危なかったかな。これからの事を考えると、早めに対策をしないといけないと思う」
「バーナード様は顔に出やすいですから」
……言葉じゃなくて顔でした。




