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天獄塔・第十五層(三)

この話で60話になりました♪

また、累計PVも遂に150万を越えました!

いつも応援してくださっている皆様、本当にありがとうございます!

 少々予定外の事態となってしまったので、ひとまず近場の岩陰を探して、そこで野営をすることになった。


 今日は休憩を取りながらとはいえ、一日砂漠を歩いたため、皆の疲労は普段よりも溜まっていたように思える。


 念のため食事には体力回復を促すように滋養のつく食材を多めに使ってもらっているので、明日に疲れを持ち越すようなことはないとは思うけど。


「バーナード様、食事の用意ができました」


「ん、早かったねありがとう。すぐに行くよ。ってあれ?」


 アリスに呼ばれてテントから外を見ると、先ほどまで明るかったはずが、既に日が暮れてしまっていた。思ったよりも長く考え込んでしまっていたらしい。

 ひとまずこのままでも問題は起きないとは思うが、今後のことを考えると、できれば移動手段を改善しておきたいところだ。でも、あまり目立つ移動手段を使うわけにもいかないので悩ましい。


 わりと世界中をまわったつもりでいたが、砂漠を旅したことは無かったので、いまいち良い案が浮かばない。


 まあ、ひとまずそのことは頭の片隅にでも置いて、皆が待っているので食事にしよう。




「……何者かがこちらに近づいてきていますね。探索者パーティーでしょうか?」


 皆で食事をとっていたのだが、ふとアリスが暗がりを見ながらつぶやいた。


 促されるままアリスの視線の先を確認すると、五人組の探索者パーティーと思しき団体がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。


「やあ、君たちもこれから移動かい?」


 ん、これから移動?


「いえ、食事の後は休憩する予定です」


「え、じゃあ夕方くらいから移動してたのかな? 結構急いで……ってわりには休憩取るのか。君たちは変わってるな」


 ……あっ!? しまった、そういうことか。


 僕が旅をしてた頃は、近代魔道具が既に普及してたから、皆が当たり前のように砂漠を昼間に移動していた。しかし近代魔道具を持たなければ、普通はとてもじゃないが日中に移動できる環境では無いということだ。

 近代錬金術は復活したが、十分に普及しているわけではないしな。


 今日はたまたま他の探索者と遭遇しなかったから良かったが、もし遭遇していたら、かなり異常に見えていたことだろう。

 ……灼熱の砂漠を魔物と戦いながら嬉々として進み続ける……相当シュールな光景だな。狂信者か何かか。これは新たな移動手段の話どころではないな。


「いえ、僕達も少し休憩したら移動を始めるつもりですよ」


 内心、冷や汗が止まらないが、努めて冷静に友好的な表情を作りだす。

 皆も自然な表情を心がけてくれている。いや、ジークだけはいまいち現状を理解できていないようだ。一人だけ不満そうな顔をしている。余計なことを言わないでくれよ?


「お互い早いところ、この砂漠を乗り越えたいところだな。それじゃあ、僕たちはもう行くよ」




 ――先ほどの探索者パーティが去っていったのを確認して、すぐに今後の方針を変更する為に話し合いをすることにした。


「バーナード、さっきは急に移動するとか言い出して、一体どうしたんだ? これから野営じゃねぇのか?」


「……ふぅ、ねぇジーク? さっきの一連の話はちゃんと聞いてたの? 彼らはね――」


 ジークの一言を聞いて、エリーシャが軽くため息を付きながら、訝しがるジークに対して懇切丁寧に説明をしてくれた。


「……お、おう、それは確かによろしくねぇな。仕方ねぇ、少し休んだら移動することにしたほうが良さそうだな」


「そうだね。結果的に強行軍みたいになってしまうけど、皆ポーションで体力を回復させてから移動するようにしようか」


 そんな訳で、休憩後は野営を中断し再びオアシスへ向けて出発することになった。と、その前に現在の地図を皆と共有しなければいけない。


 アイテムポーチから未踏地形探索魔道具の親機を取り出し起動する。


「……さっきから動いてはいないみたいだね。このまま移動しなければいいけど」


「そうですね、しかし何故オアシスが移動するんでしょうか?」


「水の精霊だったりしてな」


「こんな砂漠で水の精霊が、そこまで活性化しているっていうのは、ちょっと想像がつかないわ」


 精霊の事はよくわからないが、エリーシャが言うくらいだからそういうものなのかな。確かにこういう砂漠とは相性が悪そうだし。


 ただ異界の異常さを考えると、全く無いとも言い切れないのがむず痒い。


 まあ、実物を見ればなにかわかることはあるだろう。あまり推測しても意味もないしね。




 移動を始めてからは、なるべくこまめに地図を確認していたのだが、どうも移動はしないようだ。

 地図情報を見る限り、出発前に確認した位置からはまったく移動していないので、恐らくは間違いないだろう。


 それにしても、このオアシスは移動したりしなかったりと規則性が見当たらない。まるで生き物のようだ。

 生き物といえば、夜の移動をしている間の魔物の遭遇率は昼に比べて非常に少なかった。


 おかげで幸い明け方を迎える前には、目的のオアシスを発見することが出来たのだが、結局確認した位置からまったく移動しなかったことになる。まあ、移動しまくって辿りつけないよりは全然良いから構いはしないのだが。


 しかし思ったよりも大きいな。移動するくらいだからもっと小さいかと思っていたが、群生している月虹花も合わせると相当な大きさになるだろう。

 一般的なオアシスと同じくらいと違う点といえば、わりと広範囲に岩肌がチラホラと見受けられるところだろうか?

 岩? 水? それが移動する。


 ……もしかしなくても、これって――


《玄武》


 岩肌をモノクル越しに見ると、やはりというか何というか、見たことのある名前が表示されていた。

 あー、久しぶりに見たな。賢者の石の素材集め以来だろうか、……って、なんでこんな所に玄武がいるんだ!? しかも砂に埋もれて移動って。


 玄武といえば普通は寒いところだろう。実際、僕が賢者の石の素材を集めた際には、北の極寒地まで出向いて素材を採取してきたくらいのだ。


「バーナード様、どうかされましたか?」


「……皆、驚かないで聞いて欲しいんだけど、このオアシスの正体がわかったよ」


「正体ってどういうことだ?」


 正体というキーワードにジークが反応したが、他の二人も不思議そうな顔でこっちを見ている。うん、いきなり言われてもピンと来ないよね。


「えっと、このオアシスは……玄武だ」


 僕の言葉で場の空気が少しだけ止まる。


「玄武って四神の玄武のことかしら?」


「うん、そうだね。四神の玄武だね。具体的には僕達が今立っているこの場所も玄武だ」


「……流石に四神と戦って勝てる気がしねぇんだが、今まさに踏んじまってるんだが、俺達生きて帰れるのか?」


 ジークが自分の足元を見ながら珍しく弱気なことをつぶやいている。四神相手では仕方がない反応か……。


「一応、僕の記憶では玄武は大人しいから、こちらから危害を加えないかぎりは襲ってくる心配は無いよ。オアシスを発見した探索者も無事に帰って報告できたくらいだし大丈夫じゃないかな」


 本当に不思議な事ではあるが、玄武に遭遇することが出来たので、月虹花採取のついでに賢者の石の素材である《玄武甲羅の欠片》を採取しておくか。


 実は玄武は温厚だから素材の採取は一番簡単な部類でもある。ただ、現地に赴くのが非常に困難であるというだけだ。


 突然の出来事に少々驚かされたが、オアシスが移動する理由がわかっただけでなく、賢者の石の素材まで手に入ったので、ひとまずは良しとしようか。


 問題があるとすれば、今後も間違いなく移動することが約束されたようなものだから、僕達以外ではオアシスにたどり着くことが非常に難しいという点だろうか。


 僕達はリアルタイムに地図を更新できるから良いが、他の探索者達はそうではない。その為、オアシスには偶発的にしか遭遇することが出来ないということになる。

 最悪は僕達が定期的に月虹花の採取を行う必要が出てくるかもしれないな。




 さて、シェリルさんの依頼は片付いたことだし、後はガーディアンを探そうか。今回の探索は意外と早く終わりそうだな。


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