天獄塔・第十五層(四)
申し訳ありません。
連休に更新できませんでした。m(_ _)m
月虹花も含めて一通り素材の採取が出来たので、野営の準備を始めたのだが、途中でふとジークが空を見上げながら手を止めた。
「真っ昼間から寝る準備とか、なんか変な感じだぜ」
「確かにそうだね。なんだか怠け者になった気がするよ。そういえば、ジークは砂漠自体初めてなんだっけ?」
「ああ、南の方にあるって話は聞いたことはあるがな。傭兵やってた時も結局一回も行ってないな。エリーシャは以前見たことあるのか?」
「私も初めてよ。流石に防具のお陰で快適過ぎて、昨日の事はまったく気が付かなかったわ」
エリーシャが肩をすくめながら、少しだけ申し訳無さそうにしている。もしかしたら忘れていただけで、旅の知識としては持っていたのかもしれない。
まあ、僕に至っては知ってた上で、完全に忘却の彼方だったわけだから、完全に僕のせいなのは間違いない。
「近代魔道具が普及してからは当たり前のように昼間に移動していたからね。すっかり忘れてたんだ」
「猿も木から落ちるってやつだな」
ジークが何となく漏らした一言に驚き、皆の視線がジークに集まる。
「ん、どうした?」
「あ、いや、ジークもそういう言葉を知ってるんだなって」
「……もしかして俺の事、馬鹿だと思ってねえか?」
ジークが心外そうな顔をして少し怒り気味に反論をしてきた。……確かに一方的にイメージで決めつけてしまっていたかもしれないな。ちょっと申し訳ない。
「え、違うの? ジーク、あなた算術出来なくて、孤児院の帳簿を書けなかったじゃない。それなら今度からあなたがきちんとやってね?」
「……さ、素振りでもしてくるか」
……僕の謝罪を返して欲しい。というか、もしかしなくても、既に尻に敷かれてるみたいだな
。
その後、野営の準備を終えたので、一つのテントに集まり今夜の為に地図情報を共有する事にする。
「この辺りが怪しい気がするかな」
地図の一画を指差しながら推測した位置を説明する。
「そうですね、一通り見た限りではその付近が一番怪しそうに思います」
アリスだけでなく、皆も同じ意見のようで相槌を打っている。
「この位置なら一晩歩けばたどり着けそうね」
「そうなるとガーディアンとの戦闘は朝方になるかな? 到着して休憩後に周りに人の気配がなければ討伐してしまおうか」
「この階層のガーディアンはどんな魔物なんだろうな」
「そろそろドラゴンが出てきてもおかしくはないと思うかな」
「……ドラゴンか。探索者になりたての頃には、まともに戦えるイメージも沸かなかったが、最近はようやく自信が持ててきてるから楽しみっちゃあ楽しみだぜ」
「今の皆ならよほどのことがなければ大丈夫だとは思うよ。僕も楽しみかな? ドラゴンの素材があれば念願のアイテムポーチが作れるしね」
「おお、遂にアイテムポーチか」
「それは楽しみね」
アイテムポーチという名称にジークとエリーシャのテンションが上がる。以前から欲しがっていたので当然といえば当然なのだが、こういう反応をしてくれるのは製作者冥利に尽きるというものだ。
少し日が傾いた頃から片付けを初めて、日が落ちる前に移動を始めた。
移動中に数回、サンド・ワイバーンと遭遇したが、最初は昨日と同じように固めた地面に激突してもらった。
するとどうしても手持ち無沙汰になってしまうため、途中からは砂漠での戦闘に慣れる為に、きちんと戦うことになった。
「それじゃあ、次は僕は見てるだけにするから三人で頑張ってね」
「かしこまりました」
「わかったわ」
「任せとけ。ドラゴンの前哨戦だ!」
……まだガーディアンがドラゴンって決まってないからね?
――数回の戦闘後、明け方に差し掛かった辺りで、ガーディアンの領域に到着した。
今までと比較して、遠目から見ても非常にわかりやすい。……かなり身体が大きいしね。
《アースドラゴン》
「……本当にドラゴンだったね」
あれだけドラゴンドラゴン言ってたから、実のところは違う魔物が出るものだと思っていたんだが、相変わらず予想を裏切ってくれる。
「それじゃあ、休憩後に周辺を索敵するから。周りに人がいなさそうだったら、そのまま戦うよ」
僕の言葉に皆頷き、各自が思い思いに休憩を取り始める。
「周りに人はいないから今のうちに戦おうか。皆準備は良い?」
「私は問題ありません」
「俺も問題ねぇ」
「私も大丈夫よ」
一人ずつ顔を合わせながら返事を確認する。
「それじゃあ、はじめようか」
一人ずつ領域に足を踏み入れ、それぞれ位置取りを始める。
それとともに、アースドラゴンは唸り声をあげながらメキメキと身体を巨大化させる。
《アースドラゴン+4》
大きさはレッサー級とラージ級の間くらいだろうか、頭から生えている角は通常のアースドラゴンと比べても、より猛々しいものになっている。
アースドラゴンはその巨大な身体を仰け反らせながら、空に向かい一際大きな咆哮を上げてから、ゆっくりとこちらに視線を移し、見据えながら威嚇してくる。
「来るよ! 皆くれぐれもブレスには気をつけて!」
皆が弾けるように散開し、より大きく間合いをとる。
手始めにジークが剣のトリガーを引き、袈裟懸けに剣を振り下ろす。ジークの剣から赤く光る斬撃がアースドラゴンに向けて飛んで行く。
斬撃はドラゴンの鱗でも切り裂くことができる威力をもっているので、どう躱すか様子を窺う。
ところがアースドラゴンは避けること無く、右前足を振りかぶった。同時に何か魔力が収束するような気配がして、大きな衝撃を起こしつつ……斬撃を相殺した。
「マジかよ」
「青竜みたいな対処をするんだね。ちょっと意外だ。でも、まったく効いていないわけでは無さそうだ」
視線の先でアースドラゴンが右前足から少し血を流しながら、痛みに唸り声をあげている。
それでも普通のアースドラゴンならもっと大きなダメージを与えられただろうから、流石はガーディアンだな。
これだけの巨体となると、ダメージソースは必然的に僕とジークが担うことになる。
アリスとエリーシャは当初の作戦通り、支援に回りアースドラゴンの周りを立体的に攻め始めた。
――アースドラゴンにとっては、アリスとエリーシャの攻撃はあまり痛くは無さそうだが、周りを飛び回る二人が気になるようで、徐々にその苛立ちを隠しきれなくなっているようだ。
でも、そんなによそ見していると――
「ボディーががら空きだぜ!」
隙を見て懐に飛び込んだジークの渾身の一撃が、アースドラゴンの身体に大きな傷を作り、大量の血がジークに向かって吹き出す。
すんでのところでジークは回避することが出来たが、その血がかかった地面から湯気が立ちあがった。
「うお、あぶねぇ!?」
「血がかなり高温かも知れない。血を浴びないように気をつけて。致命傷は距離をとって与えたほうが良さそうだ」
「そうだな、わかったぜ!」
その後はアースドラゴンの血液を警戒し始めたため、皆が思い切りの良い攻撃を当てることが出来なくなってしまい、戦闘が鈍化してきた。
このままでは埒が明かないな。
再びドラゴンの懐に飛び込み、今度は斬撃ではなく月詠の石突を使いながらの打撃に切り替える。
異常なほどに強力になった膂力を魔道具でブーストしたお陰で、打撃でもアースドラゴンの骨を砕くほどの威力が期待できる。
一撃一撃と積み重ねる毎に、アースドラゴンの身体が衝撃にゆがんでいく。
「そろそろ終わりにしようか」
動きが鈍くなっていくアースドラゴンの足を踏み台に飛び上がり、下顎から蹴り上げると轟音と共にその巨体が大きくのけぞる。
ジークに止めの指示を出そうと振り向くと、ふと、視界の片隅に人影が見えた。――え!?




