近代錬金術復活(一)
バーナードが余裕ぶっこきすぎというご指摘が多かったため、天獄塔の探索率に関する内容を第19話「それぞれの要望」に数行追加しました。
追加した内容は、まだ半分も踏破されていないという事です。
読み直す程ではないので期待したかたがいたら、すみません。m(_ _)m
翌日改めて、シェリルさんと近代錬金術の話をするためにアポイントメントをとりに邸宅を訪ねると、そのまま中に入るように促された。
まさかいきなり会えるとは思ってもみなかったので少々驚いたが、シェリルさんにとってはそれだけ重要度が高いということなのだろう。
メイドに案内された先は、前回通されたのと同じ応接室だった。
促されるまま扉を抜け部屋の中に入ろうとすると、そこにはシェリルさんだけではなく、その対面にもう一人の人物が座っているのが見えた。……シェリルさんが上座を譲っている?
つい一瞬見入ってしまったが、失礼があってはいけないので視線を外し、部屋に入るのを辞めようとした。
「ああ、バーナード君。そのまま入って頂戴」
「先客がいらしているようですが、構いませんか?」
「構わないわ。陛下、彼が先ほどお話した者です。」
……ちょっと待て。シェリルさん貴方今、陛下って言わなかったか!?
思わず顔を見てしまいそうになったのを必死にこらえ、動揺を隠しながらその場で礼をする。
「君が、かの錬金術師バーナード・エインズワース……か? 随分若作りなのだな」
「名を覚えていただきありがたく存じます」
こんな対応してて問題無いだろうか? こういうのが苦手だから王宮に仕えなかったのだが、こんなことだったら、セオドールに礼儀作法を教えてもらっておくんだった。
流石に慣れないことをすると挙動不審になりかけてしまう。
「そんなに畏まらずとも良い。面をあげてくれ」
「バーナード君、いつも通りで構わないわよ。この場のやりとりで不敬罪になったりしないから」
……だからといって、いきなり軽口叩けるわけ無いだろう。
恐る恐る顔を上げると、三十歳半ばくらいだろうか、想像していたよりもはるかに若い男性が、興味深げにこちらを見ていた。
――先ほどの流れで、促されるままシェリルさんの隣に座る。
「陛下、改めて紹介します。彼が錬金術師バーナード・エインズワースです」
「ふむ、近代錬金術というのは奥が深いのだな、……よもや百年も前の人物と会うことができるとはな」
感慨深げにじろじろと見られているので、少々居心地が悪い。シェリルさん、そろそろ状況の説明をして戴けると嬉しいんですがね。
「バーナード君、この方が私の目標である近代魔道具の普及に関する最大の理解者よ。実は――」
なんでも国王陛下もシェリルさんと同じように、魔術師偏重が過ぎる現状を憂いているようで、以前から近代錬金術を研究していたアミルト侯爵家に極秘に訪れていたらしい。
たまたま今日がその会談の日で、先日の錬成粉のくだりまでを説明し終えたところに、僕が訪ねてきたため、これ幸いと通されたらしい。
……シェリルさんのコネクションを少々……いや、かなり甘く見ていたようだ。まさかまさかの国王陛下登場である。
これっていきなり普及計画の成功確率がグンと上がったんじゃなかろうか? なんと言ってもこの国のトップなのだから協力者としては最高ランクだ。
それどころか現在進行形で、国王陛下に頭を下げられて協力を依頼されている真っ最中である。
この流れであれもなんとかならないだろうか?
「大変不躾なことかもしれませんが、この件に協力をするにあたって、僕から一つお願いしたい事がございます」
「ん、なんだ? 余が叶えられることであれば構わないが……申してみよ」
「金銭はどうとでもなりますので必要ありません。私がお願いしたいのは名誉です」
ふと、平然を装いつつも国王陛下の視線が厳しい物に変わったように見えた。俗物にみられてしまったかな?
「ああ、いえ勘違いなさらないでください。お願いしたいのは、冤罪により命を奪われた親友、セオドール・アリストラの名誉です」
「その件か……先ほどシェリルからも聞いたが、もしそれが本当のことであればとんでもない話だ。しかし、それを証明できるような何かが無い限りは、国王としてはそれを認めるわけにはいかないぞ」
証拠になるような物はもちろん持ちあわせてはいない。唯一あるのはセオドールの遺言だけだ。
果たしてこれで納得などしてもらえるのだろうか?
「証拠になるものはありません。……が、しかしセオドールの遺言であればお聞かせすることが可能です」
「ん、何を?」
そう言いながら、訝しがる二人を無視してモノクルにオーバーレイされたメニューを操作する。
そして数秒後、セオドールの遺言が部屋の中で流れはじめた。
――セオドールの遺言を聞き終えた後、部屋の中は静寂で満たされていた。
恐らく、突然音声が流れ始めたことに驚いたのもあるが、もちろんその内容にも驚きを隠せないようだった。
「……知らない声が聞こえてきた事は驚いたが、流石にこれを以って無実の証明とすることは出来ない。……出来ないが、確かに当時の報告書と合致する部分も存在する」
「報告書ですか?」
「うむ、セオドールの元に騎士団が派遣されたこと、天獄塔が異界化した時期、そしてセオドールの罪を報告したのが当時の宮廷魔術師であった事実」
国王陛下がこちらを見据え言葉を続ける。
「そして報告書には無いが君の存在だ。百年前の近代錬金術を操る君がここにいる事実、そのような不可能を実現したのも、遺言に出てくる《賢者の石》の成せる業なのだろう。余を納得させる分には十分だ」
「そ、それでは――」
「いや、やはりこれだけでは失われた名誉を取り戻すことは叶わないだろう。確かに間違いは正されねばならん。しかし、これだけでは証明にはなりえん」
……やはり無理か。
まあ、もとより乗りかかった船なのだ。願いが聞き届けられなかったとしてもシェリルさんには協力するつもりだったわけだからな。
「わかりました。もとより協力はさせていただくつもりです。実は今日ここを訪れた理由が――」
――国王陛下を交えたシェリルさんとの密談から一ヶ月後、異界都市アミルトはこれまでにないほどの賑わいを見せていた。
年に一度の祭りの時期であることも、その要因の一つではあるのだが、一番の理由は領主であるシェリルさんが祭りの開催宣言と共に行った演説によるものである。
その演説内容とは《近代錬金術復活の宣言》である。
近代錬金術の研究が大きなブレイクスルーを果たし、それによってこれから研究が大きく前進するであろうこと。
近代魔道具が普及することによって民の生活が大きく向上するであろうこと。
そのどれもが、民衆を興奮させるのに十分な熱を持っていた。
僕は人混みの中からその演説を聞いていたのだが、流石は為政者といったところだろう。とても立派な演説だったように思われる。
さて、僕がその人混みの中で何をしていたかというと、もちろん敵対勢力の撲滅である。
方法はいたって簡単。シェリルさんには演説の際に、敵意を感知できるセンスイービルの魔術を使用してもらい、それを近代魔道具を使って範囲を拡大し、その結果をセントラルに処理してもらう。
演説に対し敵意を持つものにマーキングをすることができるので、あとはその動向を監視し反逆行為を起こしそうな場合は未然に捕縛するのだが、これが中々忙しい。
やはり敵対勢力が存在していないなどということがあるわけがなく、演説の最中から奔走している。
っと、また怪しい奴が引っかかった。
検知された輩の後を遠巻きにつけること十五分くらいだろうか、不審者は辺りをまったく気にすること無く路地裏を歩き続けていた。
路地を抜け、周りに人のいない広場の真ん中辺りで、おもむろに不審者が足を止める。
「先ほどからつけられているのはわかっていますよ。そろそろ出てきたらどうですか?」
おっと、バレていたらしい。わりと遠巻きに見ていたはずなんだが。
不審者の周りを見てみたが、やはり人は見当たらない。
思ったよりも警戒心の高い不審者だったようだ。ただの勘かもしれないので、念のため少しだけ様子をみてみるか……。
「出てこないなら敵意ありとみなしますよ?」
そう言いながら不審者が振り向き、その視線をこちらに向けた。
次の話で第三章「近代錬金術復活編」が終了します。
いつの間に章名がついたのかは気にしないでください。




