近代錬金術復活(二)
ついに20万文字を突破しました!
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気付いたのはウソでは無かったらしい。……って、確かあいつは?
まあ、バレているなら隠れていても意味が無いので、不審者の前に姿を見せることにする。
「領主様の演説が素晴らしかったので、余韻に浸っていたら不審者を見かけたので遠巻きに見ていたんですよ。ねえ、腕の悪い魔術師さん?」
「……君は確か、先日の新人探索者ですか。……私から見れば貴方のほうが相当な不審者なんですがね。あの呪いをどうやって見抜いたんですか?」
僕の目の前には先日ニコラスさんをの解呪を拒否した魔術師だった。シェリルさんはフォローしてくれていたのに敵だったとは、……残念なことだ。
「それは秘密です。……腕の悪い魔術師さん、貴方が敵対勢力なのは既に確定していますから諦めて捕縛されてくださいね。演説の際にセンスイービルが発動していたことに気づきませんでしたか?」
僕の言葉を聞いた魔術師は少しの間、驚いた様子で目を見開いていたが、すぐに表情を殺して身構えた。……ここでやるつもりらしいな。
「彼女の魔術がそこまで強力だったとは驚きですね。領主に頼まれて正義の味方気取りですか? 探索者風情が調子にのるなよ」
「口調が変わってきてますよ。腕の悪い魔術師さんは、このあとすぐに正義の味方気取りの探索者風情にやられてしまうんですけどね」
「……貴様、楽に死ねると思うな!」
残念だけど、こんな所で死ぬつもりは無い。思い上がった魔術師風情が錬金術師に勝てると思うなよ。
魔術師を見据えつつ、周りの様子を窺う。……やはり付近には人の気配は無いようだ。いい場所を用意してくれたものだ。
現在、魔術師との距離は十メートル程度。魔術を使うためだろう、十分な距離を開くためにジリジリ後ずさっている。
アイテムポーチから月詠を取り出し構えると、魔術師は意外な物を見たような表情を浮かべつつも、馬鹿にした様子で口を開いた。
「珍しい物を持っていますね。ダニス氏から貰いましたか? しかし、まさかそんな得物で私と戦えるつもりですか?」
「くだらないこと言ってないで、かかってきたらどうですか? 腕の悪い魔術に自信があるのなら、好きなだけ撃てばいい」
「口の減らない小僧め!」
激昂する魔術師の魔力が高まっていく。
やはり現在の魔術師らしく間違いなく詠唱隠蔽をつかえるようだ。昔なら詠唱があったから分かりやすかったが、詠唱が無いといつ魔術が飛んでくるかわからないな。
魔術師が手のひらをこちらに向けると、その手のひらから一つの火球が生み出された。
「焼け死ね!」
そう言うなり火球が独特の軌道を描き、こちらに向かって飛んできた。おいおい、街中で火を使うんじゃない!
慌てて月詠を横向きに構え、刃の付け根辺りに位置するとある部分を火球に向ける。
飛んできた火球は、その付け根部分にある一つの石に当たるなり、吸い込まれるように消えていく。
「な!? クソッ、何をした!?」
魔術師は何が起きたのか理解ができていないようだ。それでも納得がいかないまま、続けて二発三発と火球を飛ばしてくる。
実は魔術師との戦いが増えるかもしれないと思って、月詠に第二層で採取した吸魔石で強化錬成しておいたのだ。
強力な魔術ならいざしらず、この程度の火球程度ならいくらでも無効化できる。
全ての火球が吸い込まれたことで撃つことを諦めたのか、その動きが止まる。
「……なるほど、そのアーティファクトですか。魔術師である私の前に、立ちはだかろうとするだけはありますね」
ああ、すぐに近代魔道具に行き当たらないところを見ると、錬金術排斥派の中でも下っ端ということか?
「勘違いしているところ申し訳ありませんが、アーティファクトではありませんよ?」
「何を言うかと思えば。私の魔術を無効化する程の武器、アーティファクトでなければ何だというのですか?」
「……貴方達が一番恐れているものですよ」
その言葉でようやく思い当たったのか、その表情がひどく歪む。
「近代魔道具……ということですか。……確かに何が何でも排斥したくなりますね。私もなりふりかまってはいられないようです」
そう言いながら、魔術師は懐に手を入れて鍵のような物を取り出した。
……ゴーレムか。
魔術師が鍵に魔力を込めて地面に突き刺して回すと、地面が揺れて魔術師の足元が隆起し始める。
盛り上がった地面が形を変えて、人の形を形取る。
数秒後、目の前には四メートルくらいの無骨だが力強そうな金属人形が出来上がっていた。
《ミスリルゴーレム》
ミスリルか……、思っていたよりは腕が良かったようだ。
ゴーレムは構成される材質によって性能が大きく異なる。つまり、現在目の前に造られたゴーレムはかなりの性能を有していることになる。
「私にこいつを出させたことは賞賛に値しますが、流石の貴様もミスリルゴーレムには手も足も出まい。人間の力でなんとかなるものではないからな、ふは、ふははは」
……もう勝った気でいるのか。確かにミスリルゴーレムは強力だ。ただの人間の力では傷一つつけることは出来ないだろう。
ただの人間ならな。
ミスリルゴーレムが静かに動き始め、その右腕を大きく振りかぶり、僕に向かって振り下ろされる。流石にこの質量が振り下ろされるとすごい迫力だ。
次の瞬間、ミスリルゴーレムの右腕が激突し、大きな地響きを起こす……。
「ふはは、流石の貴様もひとたまりもあるまい。――な、なんなんだ貴様は!?」
ミスリルゴーレムの振り下ろしを、しっかりと受け止めた僕を見て、魔術師は驚愕の表情を隠しきれ無かったようだ。狼狽している様がありありと分かる。
近代魔道具でブーストした亜神の力を舐めるなよ。多少は重かったがその程度だ。
何度も何度も叩きつけてくる拳を受け止め押し返しながら、月詠を振りかぶりゴーレムの身体を削っていく。
流石に一気に切り飛ばすことは出来ないか……。
「クソッ、化物め!? ゴーレム! 壁になって逃げる時間を稼げ!」
魔術師はミスリルゴーレムに命令すると、背中を向けて逃走を始めた。
逃がすか!
ミスリルゴーレムの横を抜けようと押し返すが、ミスリルゴーレムは転倒せずに踏みとどまり、僕の目の前に立ちはだかった。
「ゴーレムの力に耐えられたからといって、流石にミスリルゴーレムは簡単には倒せまい! 次に会った時は必ず殺してやる! 首を洗って待っていろ!」
……もう逃げ切ったつもりか。
ミスリルゴーレムが再びその拳を振り下ろしてきたので、今度は受け止めず避け、その手を踏み台にして飛び上がる。
そして月詠を振りかぶり、額に書いてある文字を一文字削り取った後、頭を蹴り上げた。
すると今度はミスリルゴーレムは踏みとどまること無く、のけぞり魔術師の上に倒れこむ。
その様子に気付いた魔術師はゴーレムを避けようと飛び退くが、避けきれず足を潰され倒れこんだ。
「ひ、いぎゃぁ! 足が! 足が~!」
倒れてきたミスリルゴーレムに足を潰され、泣きわめく魔術師に近づき、上から蔑むように見下ろすが、痛みに意識を取られいるせいか、こちらに中々気付かない。
「……次は無かったようですね」
「足がぁ。き、貴様! ゴーレムに一体何をした!?」
「そんなこと教えるわけがないでしょう」
なんてことはない。頭の文字を消しただけだ。教えてやらないけどな。
声をかけることでようやくこちらに気付けたようだ。
それにしてもゴーレム作った魔術師がなんでそんなこと知らないんだよ。魔術師じゃないセオドールでも知っていたぞ。
「さて、このままだと出血多量で死んでしまいますが、大人しく捕まるなら治療しても構いませんよ?」
「い、命だけは助けてくれ!」
「捕まった後の事は知りませんが、少なくとも今は助けますよ」
宣告しながら、アイテムポーチから吸魔石を埋め込んだ拘束具を出して拘束し、魔術を使えなくした後、ハイポーションを飲ませてやる。
するとみるみるうちに傷が癒えていくさまが見て取れる。いつ見ても相変わらず気持ち悪いな、食事前に見ると食欲が落ちそうだ。
魔術師は魔術が使えなくなったことで諦めたようで、その後は大人しく連行されてくれた。
――流石にミスリルゴーレムが破壊した地面は直せないので、これはシェリルさんに処理をしてもらうことにしよう。
ミスリルゴーレム? もちろん回収させてもらったよ。一応は貴重な金属だからね。
魔術師の連行後は一度探索者ギルドに戻り、魔道具の動作確認を行う。
こちらは、この日のために探索者ギルド内に設置した大規模魔道具を確認するだけの簡単なお仕事だ。
この大規模魔道具は密談の席で、国王陛下とシェリルさんに提案し採用されたものである。
この準備のおかげで一ヶ月の間、異界探索ができなかったわけだが、一応皆の了承は得ている。
ジークは元々上層の攻略にはあまり興味が無く、既存層を探索して目標に向けてお金を貯められれば問題が無いとの事だった。
エリーシャは上層に興味はあるが、今はジークのサポートをしたいとの事で、二人だけでは心配なので、念のためアリスには二人のサポートをしてもらうことにした。
エリーシャはジークと二人きりになりたかったのか、少しだけ嫌な顔をしていたが、安全のために我慢してもらった。アリスには折を見て二人きりの時間を作ってあげるように頼んでおいたので、これを機に二人の仲が進展することを祈っている。
閑話休題、この大規模魔道具は演説で利用した魔術のブーストだけではなく、いくつかの情報漏えい対策の機能を有している。
その一つは異界都市アミルトからの近代魔道具持ち出しの禁止機能。
この機能で都市内の近代魔道具の所在を確認し、それが持ちだされそうになった場合に探索者ギルド内の倉庫に転送する。
他には都市外部への近代錬金術関連の情報の持ち出し禁止機能。
具体的には強制の魔術と同様、都市外に出る場合は近代錬金術の記憶が制限され、情報の漏洩が行えなくなる。
悪意の無い者の記憶を制限したり、行動を強制するのは心苦しいが、これに関しては国王陛下の許可を取ってあるので割りきって行うことにしている。
とは言っても、この魔道具だけで全てを制限できるわけではないので、所詮は時間稼ぎに過ぎないだろうとは思っている。しばらくの間は錬金術排斥派の動向も探っていく必要はあるだろう。
今回の近代錬金術復活の宣言が、今後どのような影響を及ぼしていくのか、まったく予想もつかない。
今はただ、再び昔のように近代錬金術が広まってくれることを祈っていよう。
次話から新章になります。
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