月虹花と錬成粉
ついに50話到達しました♪
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これからもよろしくお願いします。
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シェリルさんの視線が、とてつもなく大きな期待に溢れている様が見て取れる。
前回は近代錬金術を見ることしか出来なかったわけで、シェリルさんとしては一日でも早く知識を得たいと思うのはしかたがないことだろう。
迷惑を考えずにセオドールのところに押しかけた僕とは大違いだ。そんなことを思い出して少し懐かしい気分になった。
「シェリルさんは月虹花という花を知っていますか?」
「もちろん知っているわよ。日の光ではなく月の光を浴びることで成長する花よね。私が好きな花の一つよ。でも、それが錬成粉と何の関係があるの?」
突然の質問だったせいか、話が結びつかないようだ。
「月虹花が錬成粉を作るための錬成素材の一つなんですよ。まあ、もうひとつは蒸留水なので実質唯一の素材になるわけですが――」
昔を思い出しながら月虹花の説明を続けた。
月虹花――日の光ではなく月の光を浴びることで成長する花で、その花びらは虹のように綺麗で満月の日に一斉に咲くため、幻想的な風景を作り出すことで有名である。
しかしながら人工的に栽培が行えない上に、夜に咲く性質上その花は皆が簡単に見れるものでは無いため、押し花にしてプレゼントすれば喜ばれる。
錬成粉を錬成するためには多くの月虹花が必要になる。気象条件にはさほど厳しくないため、わりと何処にでも咲く花ではあるのだが、大量に群生している場所はそれほど多くなかったりする。
僕がこの辺りに塔を建てたのも、この付近に月虹花が群生していた事も理由の一つだ。……しかし。
「群生していた月虹花はもう無いみたいですね。先ほど場所を確認したのですが、屋敷が立てられているこの場所の辺りが群生地だったようです」
「あー、そういえば父が屋敷をここに移築した際に月虹花が邪魔だったみたいで全部掘り返したって話を聞いたことがあるわ……。近代錬金術を研究していたのにね。はぁ……」
また、シェリルさんが落ち込んでしまった。それにしてもシェリルさんのお父さんは、近代錬金術の件になると、毎回のように斜め上の努力をしてしまっていたようだ。
知らなかったこととはいえ、答えを自ら遠ざけていたというのだから本当に不憫な話である。
「それじゃあ、そろそろ錬成方法を教えますね。月虹花から錬成粉を作るには――」
錬成粉の錬成工程は、まずは蒸留水を沸騰させてから、そこに月虹花の花びらを擦り潰した物を少しずつ混ぜていき、特定波長の魔力を込めながら煮込むところから始まる。
煮込んだ後は、その液体を海水から塩を作るときのように乾かして粉にすることで、初期段階の錬成粉が出来上がる。
この初期段階の粉では錬成粉としての効果はあまり見込めない。
実は煮込んだ際の魔力の波長によりその色は概ね赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫の七色に変化する。
次の段階として最初の工程を蒸留水から初期段階の錬成粉を溶かした蒸留水に変えて、同じ工程を繰り返す事になるのだが、その際には込める魔力の波長を変える必要がある。
セオドール曰く、月虹花は花びらに魔力と相性のいいエネルギーを貯めこんでいるらしい。このエネルギーを光のスペクトルと同様に波長を変えながら錬成粉として抽出していくということだった。
この工程を繰り返し毎に魔力の波長を変えながら行い、七度以上繰り返すことで最終的に全ての要素を抽出し終えることで白色の粉――錬成粉が完成するのである。
当時はスペクトルとかよく解らなかったが、虹の原理や光の概念を教えてもらうことで、ようやく理解が出来るようになった。
この光の原理を応用すると、姿を消す魔道具が作れたりするのだが……、それは今回は関係ないのでまた別の機会にでも説明することにしよう。
「……思ったよりも手間がかかるのね。でも、材料も作り方も単純なのはわかったわ」
「工程を繰り返す度に錬成難易度は上がっていきますから、七度以上繰り返すのはわりと大変ですよ」
「これまでは手がかりすら無かったのよ。難易度が高いくらいなら何とでもしてみせるわ!」
難易度が高いと聞いて俄然やる気が出てきたようで、かなり食い気味で目をきらきらと輝かせている。
僕は目を細めながら感傷に浸る。僕もセオドールに聞いた時はこんな顔をしていたのかなぁ。……ちょっと引くかも。すまなかったなセオドールよ。いや、今はそのことじゃなくて……。
「当面の課題は、月虹花の調達、錬成粉の錬成作業、そしてそれを極秘に行うことができる場所の確保ですね」
「うーん、月虹花に関しては、確か異界で見た例が報告されていたはずよ。探索者も探索者ギルドも月虹花には価値を見いだせていなかったから詳しいことはわからないけどね」
シェリルさんは人差し指を立てて顎に当てると、左上を見ながら報告を思い出している。しぐさがちょっとだけ可愛いな。
月虹花は、わりと何処にでも咲く花だから異界で咲いても不自然では無いか。
それに異界に咲く月虹花であれば、その効果もより高い物が作ることができるだろう。
「錬成作業に関しては、まずは私が行うことにするわ。場所も軌道に乗るまでくらいなら、私の研究室で行うことが可能よ」
「本格的に進める際にはきちんと場所を確保しないといけませんね。簡単には侵入できない場所でそれなりの広さを確保できる場所は……、異界?」
異界ならば探索者しか中には入れないし、かなりの広さを確保することができる。月虹花も異界で群生地を見つけることができれば、採取しても無くなる様な心配はしなくても良い。
問題になりそうなのは探索者への情報漏えいくらいかな? 認識阻害を使うか? いや、いっその事、第一層の人喰い通路をぶっ潰して再利用するのもありかもしれないな。
あそこなら誰も入らないだろうし、前から奥の部屋は気になっていたから、ついでに探索もしてしまおうか。
「それじゃあ、最初はシェリルさんの錬金術の
上達を待つとして、その後の研究場所は僕も探しておきます」
「そうね、なるべく早く上達してみせるわ」
シェリルさんは気力十分といった様子でガッツポーズを取っている。そのやる気があれば十分だとは思うよ。それに……。
「シェリルさんは魔術師ですからね。魔力の操作には慣れていると思いますから、上達するのも早いと思いますよ」
「よくわからないけど、そういうものなの?」
「そうですね、魔術師が錬金術を勉強したケースはいくつか知っていますが、総じて上達は早かったですよ」
魔術師でも錬金術を平行して修得することで、その身を立てることは十分可能だ。しかし、魔術師としてのプライドだろう。
錬金術を修得しようとする魔術師は異端的な存在として迫害を受けることとなり、次第に魔術師が錬金術を学ぶことは無くなった。
当時は自分の研究にしか興味がなかったため、そのような話には全く興味が無かったが、あの時に何か行動を起こしていれば、現状はもう少し変わっていたのかもしれないな。……いまさら考えても仕方がないことか。
「とりあえず今日はその第一工程だけをやってみましょうか」
そう言いながらアイテムポーチから、錬成道具とそれに一杯の月虹花を取り出す。
「え、今からやるの?」
「……今からやらないんですか?」
「も、もちろんやるわよ! まさか今日の今日でいきなり挑戦できるなんて思ってなかったからびっくりしただけ」
シェリルさんは目を輝かせながら、かなり食い気味に同意してくれた。……ちょっと、興奮しすぎなので少々心配になってしまうな。
この人は研究に没頭すると回りが見えなくなるタイプかもしれない。




