食事とお話
前回の投稿で十八万文字を越え、そろそろ二十万文字が見え始めました。
書き始めた当初は、まさかこんなに続けられるとは思ってもいませんでした。
いつも読んでくださっている読者の皆様に感謝します。
これからもよろしくお願いします。
アリスがブリジットを迎えに行っている間、シェリルさんと今後のことを話すことにした。
「シェリルさん、あれから何か状況の変化はありましたか?」
「んー、こちらは特に変わったことは無いわね。まあ、最初はバーナード君がいないと何も進まないしね。あー、あと錬金術排斥派だっけ? その辺りの情報も集めてみたのだけれど、特に見つからなかったわ」
……近代錬金術が衰退してから、かなり時間が立っているから表立って動く必要が無くなったということなのだろうか? しかし、再び近代錬金術が復活する可能性はあるわけだから、シェリルさんの元に密偵がいても不思議ではない。
「近代錬金術を再び世界に広めるためには用心はするに越したことはありませんから、情報漏えいの防止策は考える必要はあると思います」
「確かにそれはそうね。私自身魔術師だから、この件に関わる人材にギアスやセンスエネミーくらいは掛けるつもりではあるけど……、そもそも具体的に近代錬金術をどうやって普及させるか……よね」
どの段階で錬金術排斥派が嗅ぎつけるかが分からないので、情報を公開し始めたら一気に広げる必要があるだろう。……何かいい方法は無いかな?
少し考えていたが特に良い案も見つからず、そうこうしている間に、馬車の外から二人の足音が近づいてきた。アリスがブリジットを連れて戻ってきたようだ。
「バーナード様、シェリルさんお待たせしました。ブリジットを連れてきました」
「はっじめまし――痛っ」
「ブリジット、挨拶はきちんと」
開口一番、失礼なブリジットにアリスのげんこつが見舞われた。ブリジットは叩かれた頭をさすりながら、しぶしぶ改めて挨拶を始める。
「……初めまして、ブリジットです」
「くすっ、初めましてブリジットちゃん。私はシェリルよ。今日は私の家で美味しい食事をごちそうするわね」
ひとまずの挨拶を終え、二人が馬車に乗った事を確認すると、シェリルさんが御者に指示を出して馬車が再び走り始める。
「シェリルさん、先ほどの話はまたあとで」
「そうね、食事の後にでもゆっくり話を詰めていきましょう」
しばらく馬車に揺られていると、馬車の外の景色は再び豪華な街並みに変わっていった。
ブリジットはそんな景色の変化に興味津々といった感じで、あれこれとシェリルさんに質問をしている。
このシェリルさんを見てると、本当にシェリルさんが偉い人だという意識が薄れてしまうな。普段の無愛想具合を見てないと本当に騙されそうだ。
ふと、シェリルさんが僕の視線に気付き、目が合ってしまった。
「どうしたの? 私に惚れちゃった?」
「……どうしてそうなるんですか。そこは普通、何か顔に付いてる? くらいでしょう」
てへぺろ、とかやっても無駄ですよ。
――所変わって、シェリルさんの邸宅に到着し、今は食卓を皆で囲んでいる。
次々と運ばれてくる食事を見たブリジットのお腹が盛大に鳴っている。皆その音に関しては聞かなかったことにするようだ。
「それじゃあ、バーナード君とアリスちゃんの第二層突破を祝して、乾杯!」
「「「乾杯」」」
乾杯をするなり、食事にがっつき始めるブリジット。とはいえ、いつのまに勉強したのかテーブルマナーは随分と様になっている。食べることに対する勉強意欲は相当な物があるのだろう。
「お味の方はどうかしら? 魔物の肉には劣るとは思うけど、今日の食材は結構良い物が集まってる自信はあるわ」
言葉の通り、シェリルさんの表情からは自信がある様が伝わってくる。
確かに、素材の一つ一つが非常に吟味されているように感じる。恐らく普段では余りお目にかかれない食材ばかりを使っているのだろう。
「はい、美味しいです。特にこのスープは僕の好みですね」
「ボクはアリスの料理のほうが――痛っ」
再びブリジットの頭上に落とされるアリスのげんこつ。
「そうですね、非常に美味しいです。ちなみにコース料理にしなかったのは、何か理由があるんですか?」
「ああ、最初はコース料理にしようかとも思ってたんだけど、馬車の中でブリジットちゃんがいっぱい食べる子って聞いたから、急遽変更したのよ」
……本当にすみません。確かにブリジットの食欲だとコース料理の時間配分では待ちきれなくなるかもしれないな。そう思いながらブリジットに視線を向けると、三人前の食事が並列処理されていた。
「そういえば、ブリジットちゃんを紹介してくれたのは良いんだけど、バーナード君の事だから紹介だけってわけじゃないのよね?」
食事が少し進んだ辺りで、シェリルさんから話を切り出してくれた。シェリルさんに拉致された辺りから、話しの展開が早かったので忘れるところだった。
「……ああ、忘れるところでした。実は少しお願いしたいことがあるんですよ。ブリジットには天獄塔の広場で露店商売をしてもらう予定なんですけど、魔物の肉は痛むのが速いので、できればブリジットにもシェリルさん所有の近代魔道具、具体的にはアイテムポーチを使わせてもらいたいんです」
「それくらいなら問題ないわよ。どうせすぐには入り用に成らないし、バーナードくんにはこれから色々とお世話になるわけだからお安い御用よ」
シェリルさんは手に持ったナイフとフォークを皿に置くと、特に考える様子もなく即答してくれた。
よかった。恐らく断られることは無いだろうとは思っていたけど、やはり実際に聞く時は緊張するなあ。
これで明日からようやくブリジットに露店商売を頼むことができる。
食事が終わり、しばらくくつろぎながら探索の話をしていた。
シェリルさんは僕達の探索話も多少は興味がある様で、割りと話は盛り上がったのだが、ブリジットが少し眠そうにし始めてしまった。
ブリジットは探索には参加していないから、こういう話はちょっとつまらなかったかもしれないな。
「アリス、ブリジットが眠くなってしまったみたいだから、ブリジットを連れて帰ってもらえるかい?」
「バーナード様はどうされますか?」
「シェリルさんはこの後お時間はありますか? できればこの後、近代錬金術関連の話を進めたいなと思ってるのですが」
「時間なら問題ないわよ。というか元からそのつもりだったしね」
シェリルさんは待ってましたとばかりに返事をする。まあ、そうだろうな。シェリルさんには前回の蓄音魔道具以降お預け状態だったわけだし、一日でも早く話を進めたいという意思はしっかりと伝わってきている。
「というわけで、シェリルさんとの話が終わってから戻るよ」
「かしこまりました」
アリスとブリジットを馬車まで送ってから、シェリルさんの案内で応接室に通された。この部屋は普段から重要な話をする際に利用しているのだろうか、応接室にしては外に面していないようで、窓は存在していない。
「とりあえず盗聴防止に音声遮断の魔術を展開するわね」
シェリルさんはそう言って、集中を始めると少ししてから魔力の高まりを感じられた。恐らく魔術を発動したのだろう。詠唱隠蔽だったか、やはり無詠唱とは違って完全に詠唱時間をキャンセルできるわけではないようだ。
現在の魔術師は全員これを使いこなすわけだから、遠くない未来に何か対策を考えないといけないな。
「それじゃあ、今日は近代錬金術の話から始めてもらって良いかしら。普及方法も大事だけど、まずは近代錬金術の知識が圧倒的に足りない状態では良い案が出せないかもしれないわ」
「……そうですね。近代錬金術が途絶えてしまった最大の理由、それはこの錬成粉の錬成方法の失伝であることは、まず間違いがないと思います」
アイテムポーチから錬成粉が入った瓶を取り出して、テーブルの上に置く。シェリルさんは錬成粉という単語に聞き覚えは無いようで、首をかしげながらも真剣な表情で錬成粉を見ながら僕の話を聞いている。
「錬成粉は近代錬金術に置いて基礎となる物であり、《錬成効果の劇的な向上》を成し遂げるために必須となる要素です」
「詳細はわからないけど、その錬成粉という物が最も大事な物ということね」
「そうです、錬成粉自体は割りと簡単に大量錬成が可能なので、以前はこの錬成粉の錬成方法は一部の錬金術師のみが知っていれば事足りたんです。……しかし、それが仇となった」
シェリルさんにもその意味が伝わったのだろう。重そうにその口を開く。
「……錬金狩りね。本当に残念で申し訳ないわ。でも、バーナード君が錬成粉の錬成方法を知っていると思っていいのかしら?」
「はい、もちろん僕は錬成粉の錬成方法を知っています」




